第45話 解放
ダンジョン23階層入り口。
ホムンクルスのムツミによる『重力魔法』で動けなくなった皆を
何とか助けようと、フローラは会話をして状況を整理する。
「遺跡がダンジョンによって被害を受けたのはわかったわ、
でも、それと宝物……ってまさか、ダンジョンで出てくる宝物は…」
ムツミは頷いて、
「そうだ、遺跡から、ダンジョンの、魔物によって、盗まれたものだ」
フローラはこの時、一連のこのホムンクルスによる被害が
見当違いな観点にあったことを悟った。
「そういうことだったのね、このダンジョンで冒険者が襲われたのも
宝物に手を出さなかったら襲われなかったのも」
「遺跡の、宝物を、盗む奴を、許さない…」
「あなたはただ、遺跡の宝物を守っていただけ…」
ムツミは頷き、
「それが、私に、与えられた、命令」
フローラとムツミの会話を、
重力に耐えながら聞いていた冒険者や学園の生徒たちは
ムツミに対する敵対心が薄れていくのを感じていた。
「でも、あなたなら遺跡の宝物を
ダンジョンの魔物から守ることはできたでしょう?」
ムツミは首を横に振り、
「私が、目覚めたのは、魔物たちに、宝物を、盗まれた、後だった」
フローラは考え込む。
「なら、あなたが目覚めた後で宝物を回収すれば…」
ムツミはまたもや首を横に振る。
「私に、与えられた、命令は、宝物の守護。回収は、入っていない…」
フローラは呆れて「儘ならないわね・・」と愚痴る。
「…このダンジョンの真実が分かったけど、私たちは見逃してくれないのかしら?」
ムツミは、学園の生徒の護衛をしている冒険者の1人を指さすと
「奴が、持っている、遺跡の、宝物を、返して、くれるなら、解放しよう」
フローラは、その冒険者を見ると青い顔をしていた。
「ベルト、てめぇが、原因か!」
盾を持った冒険者は、青い顔をした冒険者を睨みながら悪態をつく。
「ザック、やめなさい。
みんな知らなかったのよ、今回の一連の騒動は不幸な事故としか言えないわ」
フローラはそう言いながら、冒険者に近づき
「出しなさい、ベルト。
学園の職員から注意は出ていたでしょう?」
ベルトは、懐から短剣を1つ取り出すとフローラに渡した。
「すま、ない、…」
フローラは、探検を受け取りムツミに向かって歩いていき、短剣を返す。
「確かに、受け取った」
受け取った短剣を腰のベルトに差し、左手を横に振ると
皆にかかっていた『重力魔法』が解けた。
「ぶはぁ!」
「はあ~」
全員が、その場に倒れて自分の体が軽くなったのを感じた。
ムツミは、それを確認してダンジョンの奥へ足を進める。
「ま、待ってください!」
ムツミに声をかけて、足を止めさせたものがいた。
「アンナちゃん…」
ムツミの側にいたフローラは、声をかけた人物の名前を呟く。
また、アンナはムツミに近づき胸元からネックレスを取り出した。
「あ、あの、これ、このダンジョンの宝物の中から、出てきたもの何ですが…」
周りの冒険者たちは、ギョッとする。
「アンナちゃん…」
アンナの友達のリニアは、アンナの行動に感心していた。
ムツミは、アンナに見せられたネックレスを手に取ると
「…これは、遺跡の宝物ではない。だから、あなたが、持っているといい」
ネックレスを返されたアンナは、戸惑う。
「え、えっと、どういうことですか?」
「それは、このダンジョンが、自力で、生み出した、ものだろう。
ダンジョンは、餌を、宝物を、生み出す、能力がある。
私が、守護するのは、遺跡の、宝物のみ!」
そういうと、ムツミは踵を返しダンジョンの奥へと消えていった。
フローラは、アンナの肩に手を置くと
「そのネックレスは、あなたたちのものよ。大事にするのね」
その言葉にアンナは、「はい」と答えるのが精一杯だった。
ようやく立ち上がれるようになった冒険者たちは、
「ザック、仲間のもとに案内してくれ! 治療をしてやらないと。
学園の生徒と護衛は、上の階層に行って休息しろ!」
そういうと、冒険者を何人か連れてケガをしているであろう冒険者のもとに急ぐ。
アンナたち学園の生徒と護衛の冒険者は上の階にある休息場所で
休息することになった。
そして、今回の出来事はそのまま冒険者ギルドのギルド長へ報告される。
ケガ人多数なれど、死者は0と。
今回の出来事と、その場にいた人たちの調書を読んで
また、頭を悩ませることになる冒険者ギルドのギルド長だった…
そして、俺はアンナの影からムツミの影に移動し付いて来ていた。
ホムンクルスに興味津々だったからだ。
しかも、見た目12歳というアンナと同じような体つきに驚いている。
前に学園の図書館で読んだ錬金術の本に、ホムンクルスは神の御業。
人でこれを成し遂げたものはいないと記されていた。
だからこそ、興味津々なのだ。
ただの好奇心が、こののち大変なことになるとは夢にも思わずに
影の中でワクワクしているケロちゃんであった。
ここまで読んでくれてありがとう。




