第36話 冒険者ギルドの会話
自分で読み直して、少し手を入れてみました。
王都にある冒険者ギルドの3階のベランダには、屋根がついている。
だから、夏の暑いときは、そこの陰で魔法を使って涼んでいる。
そのため、ここは俺のお気に入りの場所の1つとなっている。
今回、俺が冒険者ギルドに来たのは
例の女の子のことで情報が入ってないか調べるためだ。
それと、近々、学園でダンジョン体験を行うらしい。
そんなダンジョンにアンナたちが行くとなると、心配なんでな…
冒険者ギルドの入り口から、中に入り周りを見渡して隠れる場所を探す。
王都の冒険者ギルドも他の冒険者ギルドもそう変わることはないようだ。
俺はギルド内に併設されているカフェの、テーブルと椅子の下に潜り込んだ。
冒険者たちは、足元を気にすることはめったにないだろうから
見つかる心配もなく、冒険者たちの話に耳を傾けられる。
それに今は、朝方だから冒険者の数が多い。
カフェの利用率も高いから、実のある話が聞けるといいのだが…
革鎧を身につけた短髪の青年が、2人の冒険者が座るテーブルに近寄る。
「なあ、聞いたか? ギルドが例の女の子の件で調査してるって」
「おお、俺も聞いたぞ。現れた女の子の姿と能力を調べるらしいな」
無精ひげを生やした青年が、同意している。
「そんなこと調べて、どうするんだ?」
目つきの悪い青年が、疑問に思ったことを口にする。
「注意喚起するんだろ? 犠牲になっている冒険者が増えているらしいからな」
「女の子に負けるなんて、情けねえな~」
「…そんなこと言えるのは、お前くらいだよ」
「いいじゃねえか、俺ならそんな女の子になんか負けないね」
目つきの悪い青年は、自信があるようだ。
そんな態度に、革鎧の短髪の青年が注意する。
「例の女の子の件には、ランクBの被害者もいるんだぞ」
「おいおい、ランクBって本当か?」
「その話なら、確かだぞ。受付嬢たちの間でも話題になっていたからな」
「なら、本当なんだな…」
3人はそのまま考え込み始めた。
ランクBの冒険者を倒す女の子って、どれだけの強さなんだよ。
これは学園のダンジョン体験ツアーには、ランクAの冒険者が付きそうだな。
後は、貴族の護衛騎士か。
短杖を腰に差した女冒険者が、もう1人の女冒険者の隣に座る。
「ねえねえ、聞いた?」
「何? ジェニー、何を聞いたって?」
「例の女の子の出現階層よ」
紅茶のカップを手に持つ女冒険者は
「確か、マイケル達のパーティーは20階層で遭遇したとか言っていたわね」
「えっ、私は18階層だったってシャルに聞いたよ」
短杖の女冒険者は、自分の知っている答えと違い驚いたようだ。
「…どうも、出現階層が分かってないみたいね」
「ギルドが、例の女の子について調べ始めたらしいから発表を待つしかないか」
「それまでは、浅い階層で我慢ね…」
2人して、情報の少なさに少し落胆している。
確か、ダンジョンの魔物って出現階層が決まっているらしいな。
それが決まってないってことは、魔物じゃないってことか?
ますます、分からなくなってきたな。
いかにも脳筋って感じの戦士が、知り合いの青年剣士に話しかける。
「カール、こんなところで何してんだ? 依頼は受けねぇのか?」
「ああ、ドルク。もうすぐ例の学園の依頼が出るころなんだよ」
「例の学園って、貴族が多く通っているっていう『ブロトール学園』か?」
「そう、その学園が生徒たちにダンジョンを体験させるらしくてね。
その護衛依頼が、もうすぐ張り出されるらしい」
「それで、こんな掲示板に近い席で待ってたのか…」
青年剣士は、傍で立っている脳筋戦士に自分の狙う依頼を進めてみる。
「ドルクはその依頼を受けないのか? 貴族とのコネができるかもしれないぞ?」
「う~ん、貴族とのコネはいらんな。貴族はいろいろ曰くがあるからな…」
「まあ、俺はそこらへんも含めてメリットがあると思ったから受けるんだけどね」
「メリット?」
「ああ、貴族は金払いもいいし、何よりケチらないとこがいい」
「まあ、見栄で行動するのが貴族だからな。
変な噂をたてられるよりは、払えるものなら払っておくってことだろう」
貴族とのコネ目的で、学園のダンジョン体験ツアーの護衛を受けるのか…
いろんな目的があるものだな。
その後2人は、少し雑談をして別れていった。
「はあ~」
「どうしたニーグ、ため息なんてついてよお」
こっちのテーブルでは、軽鎧をした青年剣士が落ち込んでいたところへ
さっきの脳筋戦士のドルクが話しかけていた。
「あ~、実は俺のパーティーが解散してな。
それで、新しいパーティーを組める人を探しているんだがいい人がいなくてな…」
「お前Cランクだろ? 確かメンバーとはうまくいっていた気がしたが…」
「実は、ダンジョン探査の申請をギルドにしていたんだが
なかなか許可が下りなくてな、そこへ、例の騒ぎでますます許可が出なくてな」
「例の騒ぎというと、あの女の子か…」
「それで、メンバーのみんなが我慢できなくなって
各々で許可を持っているパーティーに入って、ダンジョンに行っちゃったんだよ」
「で、パーティーは解散か」
「そうなんだけど、間の悪いことに
今朝、解散前のパーティーにダンジョン探査の許可が下りたんだよね…」
「それって……」
「もう笑うしかなかったよ、受付の人も解散したことを知って困り顔だったし」
「じゃ、じゃあよ、ダンジョンへの護衛依頼、受けてみろよ」
「護衛…ああ、学園のやつか。…そうだな、それで気晴らしでもするよ」
こんな冒険者もいるんだな~
でも、こういう冒険者が集まって護衛の枠が埋まっていくんだな。
まとめ役の人に、少しだけ同情しておこう。
それにしても脳筋戦士ドルク、なんかイイ奴だな。見直したぜ!
書類を持って上に行こうとしていた受付嬢が、
カフェでくつろいでいるギルド長を見つけて慌てて近づいてきた。
「ギ、ギルド長、こんなカフェで、寛いでいる場合ですか」
「いいではないか、ここの紅茶がおいしいのだから」
「まったく…、それよりも、例の調査報告が来ていますけどどうしますか?」
「おお、ここで読むぞ」
「いいんですか? こんな場所でこんな大事なものを読んで…」
「何、かまわんだろ。どうせ後で発表するんだから」
「…では、これが調査結果です」
受付嬢は呆れながら、ギルド長に書類をわたすと、
ギルド長は何の迷いもなくその書類を広げて読み始めた。
「ふむ………うん………ふむ………なるほどな……」
受付嬢は、ギルド長の集中力に驚きながらも仕事に戻るため断りを入れる。
「あの、もう仕事に戻ってもいいですか?」
「ん、おお、すまんな。仕事に戻ってもいいぞ」
「では、失礼しますね」
受付嬢はそういうと、そのまま自分の持ち場に戻っていった。
ギルド長は、しばらく調査報告書を読み返しながら困り顔になる。
「しかし、ますますわからんな……
例の女の子の遭遇階層は17階以降になってから、
使用武器は多種多様で、主に決まったものはなくどんなものでも使う。
また、盾を構え魔術を防ぐこともある。
魔法は主に雷と重力を使い…
な、何! 『重力魔法』だと!?
勇者神話でしか出てこないような、そんな魔法が使えるのか…」
例の女の子の情報が分かったが、思った以上に強いみたいだな。
『重力魔法』か、どんな魔法なのかな…
学園の図書館にあったかな? ダンジョンツアーに参加する前に調べておこう。
「ん? これはどういうことだ?
女の子と遭遇し戦闘になる冒険者パーティー多数いるが、死亡者なし。
重軽傷者は多数。
…これが本当なら、ワザと殺していないという訳か?」
ますます、困り顔になるギルド長。
殺しはしないということかな?
女の子の容姿に関する報告はないみたいだが、どんな子なんだろうな~
良い子だったら、友達になるのもいいかも…
ここまで読んでくれてありがとう。




