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千年の時を越えて  作者: 月影 咲良
19/43

隠し部屋

 後から追いかけてきたロリーとアーリサが追い付いて、辺りを見回しながら僕の方に歩み寄る。


「ハコル、ここは?」

「分からない。でも……先日、夢を見たんだ」


 僕は昔の夢を見たことを話した。


「何度同じような場所を探しても、誰に聞いてもそんな場所は知らないと言うので、僕も次第にあれは夢だったのではないかと思うようになって、そのまま忘れてしまっていた。……やはりあったんだ」


 僕は無くしていた宝物を見つけたような高揚感を押さえきれず、青みがかった石柱を撫でる。

 石柱はひんやりと冷たかった。


「あのときシロの真似をして何度も呪文を唱えてみたけれど、シロのように魔術が発動することは無かったな。今だったら動かせるのかな……」


 ふう、と深呼吸をして高鳴る胸を沈めながら、僕はあの日のシロを思い浮かべつつその言葉を口にした。


「リッテネルド」


 手を乗せたまましばらく待ってみる。

 辺りはまだ午前中であったのにも関わらずまるで午後のような穏やかな日差しが溢れている。


「…………なにも、おこらないわね?」

「…………何もおきませんね?」


 ロリーとアーリサが恐る恐る周りを見回しながら言う。


「やはりだめか」


 僕はため息をつきながら石から手を離した。

 少しガッカリしてしまうのは、純粋に魔術に憧れる僕の子供っぽさのせいだろう。

 恥ずかしいので何て事もないようなふりをしておく。


 ロリーは動かない魔法具に早くも興味を失ったらしく、「ここは暖かいわねー」とコートの前を少し開け始めた。

 うん?そういえばさっきまでの寒さが嘘のようだ。

 全力で走ったからかと思っていたが、これは……



 すると、しばらく思案顔をしていたアーリサが黒い石に手をのせた。


「魔術具という事は、魔力を流す必要があるのかも……?」


 そう言って少し緊張した面持ちで目を伏せると呟くように唱えた。


「リッテネルド」



 ふわり、と空気が動いた。

 反応した!!

 僕は慌ててアーリサの腕に捕まる。

 以前のように置いていかれないように。

「ロリーッ…」

 声をかけるとロリーが振り返り、驚きに目を見開いて……そして、ゆらりと景色と一緒に歪んで、消えた。


 ……いや、正確には僕らが消えたのだろう。

 再び目の前に現れた景色は先ほどののどかな風景とはガラリと変わり、埃っぽい部屋の中だった。

 しかし室内の様子を確認するより先に体がガクンと前へ傾いだ。

 僕はたたらを踏みつつも何とかそれを持ちこたえる。突如消えて再び現れた床に足をとられたようだ。

 ほっと息をついて隣を見れば、見事に尻餅をついたアーリサがいた。

 こんな時なのに、驚きに目をぱちぱちとさせているのが何とも言えず可愛く思えて思わずふっと笑ってしまう。そんな僕に気づいたアーリサが顔を赤くして勢いよく立ち上がり、勢いをつけすぎて少しよろめいた。


 しっかりしているんだか、危なっかしいんだか……


 僕はばつの悪そうな彼女の手をとって支えてから、辺りを見回す。

 簡素な部屋だ。むき出しの木組みの壁はまるで小屋の中のようだが、飾りっけの無い本棚がずらりと並び、窓側にも木製の簡素な机と椅子が設置されており、中央のテーブルには沢山の瓶やら容器やらが煩雑に積み重なっている。

 研究室かなにかだろうか?

 しかし長いこと使われてはいなかったようで、その何れにも埃が厚く積もっていた。


 ここは、どこだ?


 僕は現在地を確かめるべく、部屋に唯一ある窓に歩み寄って手をかける。しかし窓は嵌め込みで開かず白く濁った磨りガラスからは外の様子を伺うことはできない。


「誰かが、最近ここに来たようですね……」


 アーリサの声に振り向くと、彼女が部屋の隅のソファーにそっと触れながら言った。


「ほら、ここだけ埃が無いんです」

「本当だ」


 誰が?と考えるまでもなく、シロだろう。

 僕の脳裏に書庫で埃をパンパンとはたくシロの姿が思い浮かんだ。


「この部屋、書庫に奥と繋がっているんじゃないかな?

 だから誰もいないと思っていた書庫にシロがいたんだと思う。埃だらけだったし」

「なるほど……書庫が出口なのかもしれませんね。探してみましょう」

「そうだね」


 僕らは埃のついてない所がないか手分けして探した。

 しかしなかなかそれらしき隠し扉も見当たらない。

 そう広くはない空間でこれだけ探して見当たらないとなると、出るには何か仕掛けがあるのかもしれない。


「だめだ、見当たらないな……。最悪窓をこじ開けてみようか……」


 床に仕掛けがないかと叩いてみたりしていた僕が うーん、と腰を伸ばしながら振り替えると、アーリサが書棚の前で本の虫になっていた。


「アーリサ?」


 返事がない。またか……


 僕はアーリサに近寄って読んでいるページの上に手を乗せる。


「アーリサ!」

「きゃぁっ」

「読んだことの無い本が興味深いのは分かるが、まずは一旦ここを出よう。結構な時間がたったのに出口が見当たらないのは流石に少し厄介だ。入り方は分かったんだ。また時間のあるときに来ればいい」

「は、はい」


 アーリサは はっとすると、本を棚に戻した。

 本当は日時計にたどり着く路自体にそもそも魔術的な某かの目眩ましがかかっているのではないかと思う。あの路だけ春先のように暖かかったし、もしかしたらあそこがすでに異空間なのかもしれない。そして、そこへのたどり着き方がまだいまいち分からないので、次回必ずしも辿り着けるとは思えないのだが。まあ、後で皆で再現すればいい。ロリーにはまた飛んでもらわなければ ならないかもしれないが……


「案外、この辺りの魔術具が出入り口かも知れませんよ?」


 壁をコンコンと叩いたりしていたアーリサは、机の隅まで来ると立て掛けられた水盤を手に取った。


「ひゃあっ!」


 途端に小さく悲鳴をあげて水盤を取り落とす。


「大丈夫か!?」

「触れてはダメです!!」


 僕がかけよって手を伸ばすとアーリサが鋭く叫んだ。


「その水盤、魔力を吸い取ります!」


 アーリサが嫌なものを見るように言った。

 僕も思わず距離をとる。

 床に落ちた水盤はしばらくするとカラカラに乾いていた表面にじわり……と水が染み始めた。

 それはだんだんと満ちてゆき、縁のひたひたの所でようやっと止まる。


 僕らは顔を見合わせると、そっと水盤を覗き込んだ。

 水面にぼんやりと自分達の影が映るが、それだけだ。


「……何も映ってないですね」

「そうだね……」


 僕は近場の椅子の埃をそっと落とすと、腰を下ろした。


「大丈夫ですか?ハコル」

「え?ああ……、大丈夫だ。でも、森へ行く計画の方は大丈夫じゃあ無さそうだな。そろそろ僕らが居ないことが屋敷で騒ぎになっているはずだ」

「でしょうね……。ロリーはあの路から屋敷に迷わず戻れたでしょうか?」

「それは心配要らない。戻ることには特に問題はなかったはずだから」


 僕も小さい頃は自力で戻った……と思う。

 その時シロは屋敷の中から出てきたのではなかったかな……。だとすると、やはりこの部屋は少なくとも屋敷の中に繋がっているはずだ。

 シロはどうやって、どこから出たんだろうな……。

 シロは……


「シロは、今ごろどうしているんだろうな……」


 思わず口走ってしまった言葉に、アーリサも眉を下げて下を向いた。

 そして叫んだ。


「あっ!ハコル、見てください!水盤がっ」


 アーリサが指差すのにつられて水盤を見ると、水面が淡く光を放っていた。

 恐る恐る覗き込むと、水底が無くなり水中に何やら影が見え始める。

 始めはぼんやりと、次第にくっきり見え始めたそこは何やら薄暗い物置のような所だった。

 その積まれた荷物に寄りかかるように縫いぐるみが……いや……違う、あれは


「シロ!!!」




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