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八話 唸れ天文術式!


 トリウィアが屋敷に帰還し、研究は素晴らしい速度で進んだ。

 「ギフト=天文術式の発見」というブレイクスルーもあり、想定の中では最善かそれ以上のペースだと言えるだろう。


 水晶式天文術式は更なる発展を見せた。生物の「星座」とリンクさせる事で、威力や精度は落ちるものの、天文術式の弱点であった使用タイミングの制限を取り払う事に成功したのだ。

 つまり夜でも太陽の力を借りた炎術式が使えるし、満月の夜でも新月の力を借りた術式を使える。


 高山クラゲの体液を水晶に封入する際、特殊な魔法蟻のフェロモンで導線を描いてやる事で、水晶術式の光点はフェロモンに沿ってゆっくりと動くようになる。動く速度を上手く調整すれば、水晶の中で動く完璧な天体模型を作る事ができるのだ。

 更にこの高山クラゲの体液に生物の血液を精製したものを混ぜる事で、水晶内の天体模型がその生物とリンクするようになる。

 ギフトの力はギフトの所有者の意思一つで自在に操れる。つまり天文術式は純粋な意思で操作できる。その応用で、水晶術式を意思で操作できるように改良する事に成功した。


 順序としては以下のようになる。

 まず、宇宙から降り注ぐ強大な星の力を、生物――術者が無線LAN式で受信。これはどんな生物も無意識的に常に行っている事で(大多数の生物は受信した力を全く生かせていないが)、天候や屋内・屋外などに関係なく星の力を受け取る事ができる。

 術者が力を受け取ったら、今度は血液によるリンクを介して術者の「星座」と水晶内の天体模型が繋がり、水晶に力が流れ込む。

 あとはギフトを使う要領で念じれば、水晶内の光点が適切な配置に瞬時に移動し、光点の配置、つまり水晶内に再現された星辰に即した天文術式が発動する。


 ……らしい。

 俺はギフトが使えないので最後の手順の感覚が分からない。ギフト持ちは説明されるまでもなく分かるし、ギフトを持っていなくても軽いレクチャーでコツを掴めるようだが、俺はいくら説明されてもサッパリだ。

 そもそも俺は地球世界の「星座」持ちであり、この世界の「星座」を持っていないので、二つ目の手順の時点で破綻している。一つ目が成立しているかどうかも怪しい。

 結局のところ、見た目こそトリウィアやサララと同じニンゲンに見えても、俺はこの世界の生き物ではない。根本的なところで、この世界の星の力を十全に扱えるようにはなっていないのだ。俺が星の力を完璧に操ろうと思ったら地球に戻らなければならないだろう。


 もっとも、この世界出身だからといって水晶術式を即座に使いこなせる訳でもない。

 水晶を真球に加工し、高山クラゲの体液と魔法蟻のフェロモンを調達し、血液を抜いて精製し、用意した材料で水晶術式を作成する。ここまでがまず一苦労。

 そして「ギフトを使う要領で念じる」というのも曲者だ。

 確かに、念じるだけで水晶内の光点は自在に動かせる。しかし動かせるだけだ。

 炎を出す、と念じても、光点は動かないし炎は出ない。七つある光点(中央の極陽の光点は動かないため除外)をそれぞれ、この光点はこの位置、こっちの光点はあの位置、その光点はこの位置、という風に正確に指定して始めて動いてくれる。

 水晶術式で炎を出したければ、炎の力を生み出す星辰になるように、水晶内の光点を操作して動かさなければならないのだ。


 そのためにはまず天文学と天文術式の勉強をして、どの星辰がどのような意味を持つのか学ぶ必要がある。

 日常的に使うなら問題にならない事だが、戦闘などに使おうと思ったら光点をそれなりに素早く動かす必要がある。さもなければノロノロとえーとえーとこれはこっちあれはそっち、と光点を動かしている内に叩きのめされるだろう。光点操作の反復訓練は必須だ。

 また、威力の変動も頭に入れておく必要がある。水晶式天文術式はいつでもどこでも天文術式を使えるようになった代わりに、威力と精度を犠牲にしている。当然だ。本来満月の時に最大限に力を発揮する術式を新月や三日月の時に使ったり、太陽の力を利用する術式を夜に使ったりしているのだから。やはり星辰がキチンと揃っている正式な時間帯に正式な場所で天文術式を行使するのが最も安定して最も威力が高い。星の位置関係や「星座」にもよるが、正規の天文術式と比べた水晶式の威力・精度は半分から二十分の一といったところ。敵を焼き尽くすつもりで炎の術式を使ったらマッチを投げた程度の威力しか出なかった、では困る。逆に薪に火を付けようとしたら火柱が上がった、という場合も困る。

 自分の「星座」を覚え、術式を行使する時の星辰を把握し、その相関関係を理解できなければ、水晶術式も宝の持ち腐れだ。


 水晶式天文術式に限っては「脳筋系魔法使い」は有り得ない。原理的に勉強しなければ絶対に使いこなせない魔法なのだ。

 星図の山に埋もれ、計算を繰り返し、毎晩夜空を見上げて星辰を覚え、水晶術式の杖を手に持って地道に反復訓練をする。

 そうして始めて使いこなせるようになる。


 正直、面倒だろう。時間がくれば勝手に発動する銅板式の方が知識も訓練も要らない分使い勝手が良い面も確かにある。

 だが、銅板式の場合、複数の術式を使おうと思ったら複数の銅板が必要だが、水晶式なら例え千種類の術式行使であっても杖一本で事足りる。その利便性だけでも計り知れない。

 知識訓練不要、発動時間制限あり、出力最大の銅板式。

 知識訓練必須、発動時間制限なし、出力変動の水晶式。

 水晶式は銅板式の発展系だが、完全な上位互換でもない。用途によって使い分けるのがベストだろう。


















 天文術式の研究と並行して、サララの呪いの研究も進んだ。

 サララの体に滞留する死の呪いは強力だ。時間の経過と共にゆっくりと強まっていき、やがて急激に悪化して死に至る。つまるところ指数関数的に強くなる呪いである。

 他にも生物にのみ影響する呪いである事、体液、正確には体内の水が呪いを帯びている事、何者か(恐らくルタオ)を介して送られてくる星の力によって症状が進行している事、などが判明した。


 理論上、星の力を遮断できれば呪いの進行は止まるが、生物の星の力の受信を妨害する方法は分かっていない。生物の受信能力は強い。雲や屋根程度は簡単に貫通する便利な無線LAN方式である。便利過ぎてサララが死にそうだ。トリウィアが魔道具を湯水のように使って結界を作ってみたが、星の力の受信はほんの少しでさえ防げていない。


 呪いはギフトによるものであるという仮定の下でルタオについて調べている内に、奴の強さの理由も分かった。奴は恐らく惑星直列の「星座」を持っているのだ。

 ルタオは一万年以上昔、極陽系惑星が全て一直線上に並ぶ極めて稀な天体配列――――惑星直列の日に生まれたようだ。惑星直列はそれこそ天文学的確率でしか起こらない天文現象である。一つの恒星が生まれ、燃え尽き、一生を終えるまで一度も起こらない事もザラにある。それぐらい珍しいものだ。その惑星直列が生み出す星の力は凄まじく、その「星座」を持って生まれたルタオの力もまた凄まじい。スラエ最強の生物ドラゴンが最強の星辰の力を宿したらそりゃあ誰も敵わない。


 肝心の呪いのギフトについても大体見当がついた。どうやら極陽系第五惑星と第七惑星が強く影響したギフトらしい。

 どちらかの惑星を破壊すれば呪いが止まる事もはっきりした……はっきりしただけだ。


 サララ曰く、ルタオは試練から逃げ出したり、試練に屈して死ぬような軟弱な者はさっさと切り捨て、新しい竜騎士を鍛え始めるらしい。だからサララにルタオの手が伸びる事はまずない。呪いのタイムリミットの前に研究を妨げられる事はない。今頃音信不通になったサララの代わりに誰かがルタオに掴まって理不尽な試練を強要されている事は間違いないだろうが、見知らぬ誰かよりもサララが大事だ。


 研究して、研究して、研究して。

 一日中椅子に座りっぱなしで、尻の筋肉が引きつった。

 ベッドに行く手間が惜しく、机に突っ伏して寝るようになった。

 夢の中にも星図や計算式が現れ続け、夢と現実が曖昧になる事もあった。

 トリウィアだけでなく、サララにも休む事を勧められるほど、研究にのめり込んだ。

 研究は楽しいが、楽しむ余裕がなくなるほど没頭した。


 呪いの原理は分かった。

 解呪法の見当もついた。

 だが、足りなかった。


 タイムリミットまで残り半年。俺はどうあがいても時間が足りない事を認めざるを得なかった。

 例えもう一度ブレイクスルーがあったとしても、呪いによる死に間に合わない。せめてあと半年、いや三ヶ月あれば間に合ったかも知れない。だがそんなものは妄想だ。流石の天文術式も時間は操れない。少なくとも、今分かっている限りでは。


 俺は久しぶりに風呂に入り、髭を剃り、服装を整えて朝食の席に座った。

 いつもと違う俺の様子に、二人は何かあると悟ったらしい。朝食を終えた後、神妙な顔をした二人に、俺は言った。反応が怖かったが、それでも言わなければならない事だった。


「トリウィアは薄々感づいているかも知れないが……すまない。サララ、解呪術式の構築は間に合わない」


 トリウィアは痛ましそうにに目を伏せた。

 恐る恐るサララを見る。サララは儚げに微笑んでいた。


「そうか。そうではないか、とは思っていた。いや、二人を責める気持ちは全く無い。むしろ感謝しているんだ。だから――――」


 遺言めいた事を言い始めたサララを遮り、俺は言った。


「いや、まだ方法はある」

「え? いや、そんな方法なんて」

「簡単な事だ。最初に会った時、サララが言っていた方法に立ち返る」


 トリウィアとサララは目を見開いて俺を見た。

 二人はまさか、という顔だったが、俺には勝算があった。天文術式にはそれだけのポテンシャルがある。やってやれない事は無い。

 ルタオを殺せば、呪いは解ける。


「俺を信じて、助けてくれるか?」


 解呪まで近い所に来ているのは間違いない。大躍進を信じてこのまま研究を続ける、というのも手ではある。

 ルタオが持っているであろうギフトの数と質、身体能力も大体予測され、核爆弾にも耐えるであろうという脅威の計算結果が出ている。小細工で勝てる相手ではない。

 何よりも、この世界で育った二人にはルタオの恐ろしさが身に染みているだろう。

 ルタオを殺すなんて無理だ、と逆に説得されそうだが、俺はこれがベストだと信じている。しかし一人では無理だ。二人の協力が要る。


 緊張して反応を伺う。


 二人は顔を見合わせ、はっきりと頷いた。
















 タイムリミットまでの約半年の大部分を、対ルタオ戦の準備に費やした。残り半年になる前から対ルタオ戦の想定はしていたので、それを実行に移すだけだ。

 三人で相談し、計画を洗練し、何度も連携の確認をする。仕留め損ねたらまず間違いなく反撃で消し飛ばされる。サララのタイムリミットもある。失敗は許されない。


 念入りに準備を重ね、決戦の日が来た。俺達三人は完全武装でルタオが棲む岩山に来ていた。ルタオが発する熱のせいで周辺には草一本すら生えず、生命の気配はない。


 サララは柄に水晶を埋め込んだ剣を持ち、耐熱魔道具である軽鎧を身につけている。ルタオの炎は防げないが、無意識に発している熱程度ならば遮断できる。

 トリウィアは水晶杖にローブ。このローブも耐熱術式だ。

 俺は水晶術式を使えないので、耐熱レンガに天文術式を刻んだ物を二つだけ持参し、あとはトリウィアと同じローブだ。


 準備はするだけした。予行演習も可能な限りした。よく晴れた夜空を見て、星の位置で時間を確認する。大丈夫だ。

 俺は両隣の二人に頷き、背中を叩いて竜の巣へ歩き出した。


 ルタオ=クラズテゥクは岩山の中央、噴火口のようになった巣の中央に鎮座して待っていた。事前にサララの名前で決闘の申し込みをしておいたのだ。闘いが生きがいのルタオなら十中八九乗るだろうと踏んだ。無視されたら計画が崩壊していたが、まずは第一段階クリアだ。


 ルタオはその生物として有り得ないような巨体を動かし、縦に切れた瞳孔で俺達を尊大に睥睨した。現代人の俺には、山が動いた、よりビルが動いた、という方がしっくりくる。

 事前の偵察で――――1km以上離れた位置から双眼鏡でではあるが――――その偉容を見ていたため、俺は辛うじて失禁せずに済んだ。しかし体の震えは止まらない。

 こんな奴に本当に勝てるのか?


「試練から逃げた弱者がどんな切り札を持ってきたかと思えば。たった二人の仲間で我に勝てると思ったか?」


 サララは答えない。青ざめた顔のまま、無言で剣を構える。

 トリウィアは俺の手をぎゅっと握り、微笑んだ。震えが止まり、また震える。

 今度は武者震いだった。


 そうさ。そうとも。

 俺だって男だ。惚れた女と娘の前で良い所見せたいさ。

 それにドラゴン退治は男の夢なんだぜ。


「長生きしても頭は悪いんだな、ドラゴン。自分を殺す相手ぐらい察しろよ」

「ふはははは! 良い啖呵だ!」


 安い挑発に乗った訳ではないだろうが、ルタオはそれだけで攻撃になりそうな大音声で笑い、炎を吹きかけてきた。

 さあ、戦闘だ。


 重力から解き放たれたサララが大跳躍し、天文術式を発動。大量の光弾がルタオの顔目掛けて放たれる。

 トリウィアは俺の前に立ちふさがり、天文術式を作動。水晶から凄まじい冷気が迸り、炎と衝突した。

 借り受けたのは極陽系第七惑星、-200℃の嵐が吹きすさぶ極寒の星の力。恐らくこの星が経験してきた中でも最も激しい冷気を受け、ドラゴンの炎は相殺された。

 その隙に俺は走った。魔道具で身体能力は強化してある。おかげで自動車並の速度だ。


 全力でルタオの足元に駆け寄り、耐火レンガの一つを投げる。天文術式が刻まれたレンガは大木のように太い足の間を転がり、上手く股の間に入った。

 よし。良い位置だ。後は落ちている生え変わりの鱗を一枚失敬して、と。

 俺の仕事はこれだけ。また全力でトリウィアの下に戻る。


 トリウィアの下に走る途中で、手に持ったもう一つの耐火レンガに刻まれた天文術式が光るのに気付いた。

 予想より少し早い。だがカバーできる範囲だ。


「来るぞ!」


 俺が叫ぶと、宙を駆けて大量の光弾をばら撒いていたサララが急降下してきた。


「アマノ! 任せてくれ!」


 俺はサララの天文術式による見えない力で引っ張られ、三人が一箇所に集まる。トリウィアとサララは協力して同じ天文術式――――「光防御」と「光反射」を連続して行使した。

 防御の完成から一瞬遅れ、ルタオを取り巻いていた光弾が七つだけを残して消えた。その七つはルタオを中心として規則正しく配置されている。攻撃性皆無の光弾を無害と見なしたのか、余裕綽々で弄ぶように炎を吐こうとしたルタオを、次の瞬間爆発するような眩い光が包み込んだ。

 光対策を重ねがけした俺達には周囲の光景は見えないが、地上に太陽が生まれたぐらいの光量は余裕であるだろう。その途轍もない光は致死的な威力を持つ。


 これは足元に投げ込んだ耐熱レンガを極陽、七つの光弾を惑星に見立てた天文術式。借り受けたのはガンマ線バーストの力だ。


 ガンマ線バーストは、太陽が一生かかって放射する全てのエネルギーを、一秒~数時間の間に一気に放射するレベルの超高エネルギー天文現象である。凄まじい光を放ち、その威力は数千光年以内でこれが発生すると地球上の生命が絶滅するほど。なぜこんなエネルギーが発生するのかは分かっていないが、一日に数回は観測できる天文現象である事は確かだ。

 天文術式なら、発生の理由は分からずとも、発生タイミングは予測できる。今回はこれを利用し、激烈な光エネルギーをぶつけてやった。


 光が過ぎ去ったタイミングを見計らい、光防御を解く。

 トリウィア曰く、普通のドラゴンなら百匹まとめて殺せる威力はあるのだが……


「やっぱダメか」

「驚いたぞ、ニンゲン! 我に痛みを感じさせるとは!」


 岩山の壁にドラゴン型の影の跡がついている。直撃したのは間違いないのだが、ルタオは健在で、しかも上機嫌で笑っていた。


 やはり効果が薄い。

 ルタオが光に抵抗する系統のギフトを持っていない事は分かっている。

 しかし、惑星直列の「星座」は強力だ。ルタオが持っている凡そ全てのモノが高レベルに強化されている。致死的な光の攻撃を、素の耐性だけでしのがれた。


「我を殺すには不足であったが、なるほど、大言壮語も頷ける威力ではあった。褒美として貴様らが死しても名前だけは覚えておいてやろうではないか。サララ、その二人の名を教えよ」

「……断る」

「はっ! それもまた良かろう! では無名の強者として――――む?」


 そこでルタオは言葉を止め、不思議そうに首を上げ、岩壁を見た。岩壁全体が震え、小石がカラカラと落ちていた。震えは少しずつ強くなっている。

 気付くのが遅い。まあ気付いても何が起きているか分からないだろうし、何が起きているのか教えるつもりもないのだが。


「ふ、ここを壊すつもりか? 生き埋めにされた程度で我は死なぬが」

「それは知ってる。惑星直列の『星座』は確かに強力だが――――果たして星そのものに勝てるかな?」


 俺はトリウィアに鱗を渡しながら言う。強者の余裕だろうが、ペラペラ喋って時間を潰してくれて有難い限りだ。戦闘継続に固執されたら少し苦しかった。

 こちらに意識を向け、巣に留まっていてくれる。つまり、死刑台に歩いて行っている。

 わざわざ巣を決闘場所に指定したのはここでなければ困るからだ。戦闘したのは周囲への警戒を減らすため。

 ガンマ線バーストは殺せれば儲け物程度にしか考えていなかった。何しろ、最後の切り札は周辺被害が大きすぎる。


 岩山全体の震えが酷くなってきた。

 思っていたよりも振動が大きく、地面まで揺れているようだ。まあ岩山全体にびっしり天文術式を刻んでいれば当然か。半年の準備の大部分をこれに使っただけある。


「貴様が何を言っているのか分からん。この震えはなんだ?」

「教えてもいいけど教え終わる前にお前死ぬからなぁ」


 天文術式は星の力だ。

 半年かけ、大規模な術式で制御すれば、近くの小惑星帯から石一つ引き寄せるぐらいできる。


「またあの光か?」

「随分ごちゃごちゃ喋るな。そんなに不思議か? いや今更俺達を殺しても意味ないんだけどな」


 ただしその石の大きさは700mある。

 ルタオが全力で抵抗して威力が大幅に減衰する事を前提とした大きさだ。ルタオが無抵抗で受け、隕石がそのまま地表に突き刺されば大陸が一つ無くなる。

 いくら化物でも結局ただの生物だ。星の力に勝てる訳ないだろ!

 振動が最高潮に達し、岩山が身悶えするような悲鳴を上げた。


「さあ、唸れ天文術式!」


 俺達はトリウィアがルタオの鱗を組み込んで完成させた魔道具で空間を転移し、1000km離れたツェーヴェ霊峰へ逃げた。

 慣れ親しんだ屋敷の前で岩山がある東の空を見ると、天から一条の流れ星(メテオストライク)が落ちるのが見えた。

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