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魔女のお仕事・第一歩3

昨日木材を確保したので、今日は日曜大工タイムだ。冬場の木は初めから乾き気味だったので、乾燥と脱水の魔法を軽くかければ、すぐに作業が可能になる。共通魔法を使うには、詠唱や魔法陣、彫刻による呪紋など、固有魔法と違ってひと手間必要だ。簡単な物ならワンワード、慣れれば身振りだけでも発動できたりする。


しかし、今回は大量の木を一気に乾かす、ということでそれなりの準備が必要だ。家から少し離れた広場で、足元の影を伸ばす。ツタが伸びるように、黒い影が蠢きながら形作られていくのは、直径20メートルにもなる魔法陣だ。陣を張るのもマナを流すのも簡単だし、身一つでできるのでやっぱり便利だ我が魔法。


木材を陣の上に山積みにして、魔法陣起動。本来だったら数か月かかる作業だけれど、これならあっという間。生身の人間が乗っていたら、みるみるミイラになっていくような魔法が、木材を加工しやすく、割れにくく丈夫に乾燥させる、という目的をしっかり果たしてくれる。


昔、家を増築するときに、初めてやったのだが、せっかくとってきた木材がばっきばきになって師匠に頭バシバシ叩かれた上にやり直しになって、涙目ものだった。でも、その時何度も調整して加減を覚えたので、今回は一発成功。


陣を消去し、影の匠を出して、大まかに切り分けさせつつ、一度家に戻る。何冊か建築関係の本を棚から抜き出し、参考になりそうなの物を選出。それらをもとに軽く手を加えて図面を引く。小さなお堂、そんなに凝ったものでなくてもいいだろう。山の中、森の中にひっそり置いてあって自然に調和するようなデザインで……。


何枚かボツを出しつつも設計終了。なんだかんだで無駄にこだわってしまった気もする。しかし、すくなくとも百年は付き合うことになるのだから、多少は気合を入れてもいいだろう。手をぱんぱんと叩き、満足の息を吐く。


………………なんでこんなことやってるんだろう。魔女ってこういうものだっけ。いや、設計・建築技能も、秘境住みの魔女には必須技能だって師匠に言われて納得して、覚えたんだけど。テンションの赴くままに図面を書き上げたものの、これからこれ2~300くらい作るのかと思ったら、唐突にやる気がなくなってきたので休憩にする。


リビングで影絵の侍女を出して、湯を沸かして、色々な薬草を煎じた薬湯を入れさせる。持ってこさせたそれに、砂糖とミルクをドバドバ入れて、ふーふー吹いて冷ましてから、少しずつ飲む。クッソ苦い上に一般人が飲むと幻覚を見て狂い死ぬような代物だというが、魔女には体にいいらしい。時間をかけて飲み終わり、カップを置く。少し頭がすっきりするような感じ。


侍女にカップを片付けさせる。広い机に座るのは一人。台所でペラペラと洗い物をしている侍女はいるが、自分で動かしてるものだ。元から二人暮らしには広い家だった。雑然と物が溢れていたし、縦に大きな作りなので意識することはあまりなかったが。


四六時中一緒、みたいな感じだったのは、それこそ拾われてから始めの数年くらいで、段々と一人で作業をしたり課題をこなしたりすることが増えていたし、ここ何年かは、それこそ食事の時くらいしか顔を合わせない日もあった。


元からボッチには慣れていて、耐性もあるはずだと思うのだが。なんだろう、なんだか一人だと間が持たないような、なんともいえない居心地の悪さがある。ニート状態の時は全然感じなかったこの感覚、どうしたものか。


なにか、魔法少女ものにお馴染みの、小動物系マスコットのような使いまでも作りたいものだ。しかし生憎とあの手のものは生命創造の領域なので、この世界の魔法で再現するには非常に難易度が高い。固有魔法がそういった傾向でもなければ不可能な技だろう。少なくとも私にはできない。


小動物を洗脳して郵便配達に使う、とかくらいであれば簡単なのだが、それだったら影絵の魔法の手動操作と大差ないし、常に動向を直接確認できる分こちらの方が優秀だとすら思う。人里に下りるのはできる限り避けるべきだといわれているし、両親のことを思えば、魔女が世間でどんな扱いなのかも知れたもの。


ボッチ解消は現状不可能だろう。まあ、そのうち慣れるだろうと思うしかない。今のこの妙な気分の方が気の迷いなのだと言われればそんな気もするし。初めての一人暮らしとかそんな感じだろうか。鬱陶しい身内の干渉から逃れて万々歳のはずなんだけど、なんかねえ、みたいな。そんなことを思いつつ、しばらく、ぼんやりと座っていた。


気を取り直して午後。やらないと仕方ないのでやってしまうことにする。お堂っぽいのをパーツごとに大量生産だ。伝統工芸っぽい釘を使わず木を組み合わせて作る設計なので、プラモと思えば楽しい、はずもなく、とにかく同じものを大量に作らせるので、動かすのは簡単だが飽きる。飽きるが30人ほどの影絵の匠を操っているので、頭が疲れるし腹も減る。


適当な木材に腰かけて、イライラしながら作業をしていたが、だんだんと無心になり、日が落ちて作業続行が不可能になるまでひたすら作り続けた。今日も疲れたので食事と入浴の後さっさと就寝。篝火を焚いて夜中まで作業を続けることもできるといえばできるが寒い。


こういう作業ができる広めの工房でも建てようか。でもこんな工場制手工業みたいなことをするのはこれが最初で最後な気もするし。というか必要がなければしんどいしやりたくない。自動化できれば別なのだが、自動でそれなりに賢い動きをさせるというのは本当に難易度が高いのだ。やりようは有るには有るのだが、流石にそこまでするのはどうだろうかとも思うので、やっぱり現状どうしようもない。


次の日丸一日かけて作業を完了。組み立て式のお堂が約300基。だがこれで終わりではない。さらにこれに劣化防止、盗難防止、人除け、獣除け、マナニア除け、耐水耐火耐衝撃、思いつく限りの防護呪紋を刻んでいかなければならない。


周囲のマナ量を計測するという本来の役目を果たす邪魔になってもいけないから、慎重に呪紋を配置する必要がある。デザイン自体が難行だし、その後300基分それ刻むのかと思うと心底うんざりするが、ここで手を抜くと間違いなく将来的に余計な苦労を背負うことになるので手は抜けない。


さらに一日かけて、20ほどのデザイン案を作って比較検討。防護効果と、周囲のマナ量への影響バランスが最も優れたものを選出。まあ、基準とかないし、独断だからほんとにこれでいいのかという思いが常に付きまとったが、どうしようもないので最後の3択を目をつむってえいやと選んだりしたが。どれも百年持たないことはないだろうから、これで良しということにしておく。


そしてそれを彫り込んでいく。別に影と魔法のインクで呪紋をコピペして貼り付けてもいい、というか絶対そっちの方が早いし簡単なのだが、結局人海戦術で彫刻している。なぜかといえば、影絵印刷の方が早いじゃん、ということに気付いたのが、呪紋彫り込み作業開始から二日目だったから。


まあ、呪紋は彫刻の方が劣化に強いのは確かだから。頭を抱えながらそう自己暗示するが、途中からでも、影絵印刷に変えようかとしばらく真剣に悩んだ。悩んだ末にもったいない精神が起動して結局最後まで呪紋の彫り込みをやり切ることとなった。


最終的にすべての作業が完了したのはそれからさらに三日後だった。せっかくなので、一基組み上げてみる。高さ一メートルくらいで、観音開きの戸を開けると、竜骨のアミュレットを設置する台座があり、その戸や、柱、屋根の庇など、そこら中に複雑な文様が刻まれ、なんだか神聖っぽい感じに仕上がっている。


実際、周囲のマナを利用して術式を発動させる、という実効性のあるものがこの呪紋であるから、下手な宗教的シンボルとかデザインより神聖っていや神聖かもしれない。とりあえずこの観測台一号は玄関横にでも設置しておこう。アミュレットを設置し、起動させ、魔法の地図と同期。一応ここが基準点になるのだろうか。


戸を閉じて、影で魔法陣を敷き、発動。戸に刻まれた呪紋と共鳴して封印が施される。私以外には開けられず、ちょっとやそっとでは破壊もできず、そもそもお堂自体が存在を気づかれにくい。勘のいい生き物が発見したとしても、なんとなく近づきがたいと思う。これだけやっておけば余程のことがない限り大丈夫だろう。


全ての呪紋が正常に効力を発揮しているのを見て、達成感がぐっと込み上げてくる。なんだかんだで、良い物ができた時は嬉しいものだ。彫刻をそっと手のひらで撫でていく。新しい木の香りと、なめらかな凹凸の感触。刻んでいる最中はうんざりしているかイライラしているか無心でやっているかのどれかだったが、こうして出来上がったものを見ると、やはり印刷では味気なかっただろうと思う。


少し離れて見てみる。洋風? の違法建築な星詠みの魔女邸と、和風なお堂ではミスマッチじゃないかとも思ったが、呪紋の雰囲気のせいか意外と調和している。


「……悪くない」


腕組みしつつ、うんうんと頷いた。一人暮らしをすると独り言の癖ができるというが、この間の持たなさが原因なのだろうか……。


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