表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
99/175

36. 巨大スライム

 大きな断末魔をあげて、ドラゴンが光の粒子となり消え去った。

 イクルが……ドラゴンに勝ったのだ。



「イクル……! すごい、ドラゴンに勝つなんて!!」

「………………」



 すぐさま走り出して、イクルの元へ行って……念のために回復薬(ポーション)を差し出す。かなり無理な戦いだったことは、さすがの私も察することができた。



「うるさいよ」



 ぽつりと、イクルの口から何か言葉がこぼれた。



「……イクル?」

「あぁ、ごめん。独り言。回復薬(ポーション)、ありがとう」

「うん……?」



 小さな声で呟いたイクルは、どこか苛立っているように感じる。なんと言ったのかは聞き取れなかったけれど、戦闘中もイクルの口元が動いていたから何か喋っていたのだと思う。戦いのシミュレートをしていて、それの延長か何かだろか。

 もしかしたら、本当は何かあったのだろうか? それとも、たんにドラゴンとの戦いで疲れただけ? 頭に疑問を浮かべながら、回復薬(ポーション)を飲み干すイクルを見る。



「…………ふぅ」

「イクル、戦闘中に、ええと……何かあった?」

「何か?」

「うん。何だろう、上手く言えないけど……何かあったのかなって」



 首を傾げつつイクルを覗き込めば、驚いたのか少しだけ目が見開かれた。つまりこれは、図星だった……ということなのだろうか。

 だけどイクルは……ひとつ息をはいて、私の頭を優しくぽんと叩く。そしてそのまま、「特に何もないから、大丈夫」と言う。

 つまりは、詮索されたくないのだろう。基本的に、イクルは問えば問題ないとでも言うように答えてくれることが多い。今日のように曖昧に濁すのは、本当に知られたくないようなことか本当にどうでもいいことかのどちらかだ。



「……わかった。でも、何かあったら相談してね?」

「ひなみ様は、いつも変なところで鋭いよね。大丈夫だから、先に進む…………前に、5分だけ休ませて」



 先ほどドラゴンと対峙していた真剣な瞳が呆れた瞳になって、いつものイクルにもどる。やっぱりこれがデフォなんだと思うと、やっとこの場からドラゴンという脅威が去ったのだと実感できる。

 そして休ませてくれといったイクルは、壁を背にずるずると座り込んだ。5分と言わずにもっと休んでくれていいのに。そう思いながら、イクルの隣にと座り込む。

 鞄から水を取り出してイクルに渡して、「もっと休んで大丈夫」だよと伝えておく。



「……あの扉を開けた先に、レティスリール様がいるのかな」



 さきほど見た、ふわふわした可愛い女の子。



「どうだろうね。でも、この地下がそんなに広いとは思えないから……ここらが終着なんじゃないの?」

「……うん、きっとそうだよね。レティスリール様は、こんな地下にひとりなんて……きっと辛いと思うのに」

「…………」



 ぼんやりと扉を眺めて、あれはどうやって開ければいいのだろうと考える。入り口と同じで、花の紋様が刻まれているから同じ方法で開けられるのかな? でも、それだと防犯的な観点で意味がないようにも思う。

 かといって、違う方法だと開けられないから私が困ってしまうけれど。



 ぼんやりと、イクルの回復を待ちつつ奥へと続くであろう扉を見つめていたら……突然、開いた。



「「え?」」



 私とイクルの声が同時にもれて、自然と立ち上がった。

 いったい何が出てくるのか。ドラゴン? それとも、もっと別の魔物が出てくるのだろうか。まさかレティスリール様本人? そう思って、1歩踏み出せば……さっき見た、ふわふわの女の子が勢いよく飛び出してきた……!!



「きゃー!」

「レティスリール様……!!」



 勢いよく飛び出してきた、が、その背後には大量の魔物を引き連れていた。

 いったいどういうこと!? 私の頭が若干パニックになりつつも、レティスリール様の状況を見る。魔物を引き連れて襲い掛かってきた……というよりも、レティスリール様自身が魔物に追われているように見える。いや、間違いなく追われている。

 いったいどういうことだろう、ここはレティスリール様の家みたいな場所ではなかったのか。

 ぐいと、イクルに腕を引かれて背後に庇われる。あっという間のその動作に、先ほど戦ったドラゴン戦の疲れは見えない。



「さっきの人! 助けてくださいっ」

「えっ!? ええと、ええと、とりあえずこっちに!!」

「……まったく!」



 走ってくるレティスリールをイクルが通り過ぎて、私たちの前へと出る。

 大量の魔物は……私が知っているスライムと、ハードウルフ。ほかは見たことのない虎のような魔物や、足の長いうさぎのような魔物もいた。

 私のほうへ走って来るレテリスリール様をぼすんと受け止める。なぜか私めがけて突っ込んできたのです。

 よほど魔物が恐かったのか、ふるふると小さな肩が震えている。



「大丈夫ですか?」

「あなた……夢であった子?」

「え、あ……はい。楠木ひなみです」



 私を見るなり、ふるえていた肩は止まり、きょとんとした可愛らしい瞳に見つめられる。じぃぃと、私を見つめるレティスリール様。すごく可愛いなと、思ってしまう。さすがは女神様。

 そしてすぐに私から視線を外して、辺りをきょろきょろとし始める。何かを探しているようなその視線につられて、私もくるりと辺りを見る。

 しかし、レティスリール様が出てきた扉と、魔物と、イクルだけ。別段変わったところは見受けられない。

 いや、イクル対大量の魔物だから変わっていないわけではないのだけれど。

 くるりと棍を回転させて炎を出し、魔物の戦闘集だんへ一撃加える。先ほどのドラゴン戦とくらべれば、どこか余裕があるようにも見える。そこまで強くない魔物なのだろうか? だけど、いかんせん数が多い。



「……ドラゴン、は?」

「え?」



 イクルの戦いに集中していれば、ぽつりとレティスリール様の声が聞こえた。

 ドラゴンと、そう言った? もしかして、レティスリール様は先ほどイクルが倒したドラゴンを探していたのだろうか。

 イクルが倒したと伝えて安心してもらわないと、と。そう思って「大丈夫です」と言葉を紡いで、倒したと口にしようとしたけれど。私はレティスリール様の言葉に声を失った。



「いつも、魔物をドラゴンに倒してもらっていたの。……でも、いないわ! どうしましょう、ドラゴンがいないと魔物を倒せない!」

「…………っ!!」



 まさか、そんな。

 あのドラゴンって、倒したら行けないドラゴンだった!?

 どうしよう。だらだらと冷や汗が流れてきて、なんと説明をすればいいだろうと思考を巡らせる。しかしすぐにいい答えが出るわけはなくて。

 しかし、ドラゴンがもういないということを伝えないわけにはいかない。それに、私とイクルがここにいてドラゴンがいないのなんて……犯人は私たちですと言っているようなものだ。



『グルアァッ!』

「あ、あぶないっ!」

「イクルっ!」



 魔物の声が聞こえて、私とレティスリール様の声が重なる。そうだ、今はこんなことを考えている場合じゃない。一刻も早く魔物を倒して、この状態をなんとかしないといけない。

 レティスリール様は……様子をみる限り、戦えるような人ではなさそうだ。女神様だから強いというわけではないのかもしれない。

 イクルが一歩後ろに大きく飛んで、大きく棍を振り上げて追加の一撃を加え、そのまま流れるように2撃、3撃と打ち込んで行く。

 その速い動作を目で追うのがやっとだけれど、足手まといかもしれないけれど、私だって……!



「レティスリール様!」

「あ、はいっ?」

「……私の後ろにいてくださいね」



 リグ様にもらった弓をぎゅっと握りしめる。

 今日はまだ矢を使ってないから、3回……射ることができる。イクルがいるところに矢を放つのは怖いけれど、これは必ず当たる必中の弓矢だ。

 大丈夫。そう、心の中で3回唱えて心を落ち着かせる。



「…………」



 前をしっかりと見て、弓を構える。

 イクルは……虎のような魔物と戦いながら、他の魔物が私たちのほうへ流れないように棍で捌いている。どうやったらあんな自在に棍を操れるのか。

 私はあんなにすごくない。今だって、弓を構えながら震える足を必死に耐えてる。



 どこを狙えばいいのか、わからない。

 弓を構えて、背筋を必死で伸ばして……前を見据える。イクルが戦っている虎の魔物? それとも、後ろに控えている他の魔物を狙う?

 倒すべき優先順位なんてわからない。でも、狙わずに射る……というのも、きっと間違っている。駄目、早くしないと。私の手が、震えてしまう。

 しかし考えれば考える程に、焦って何もまとまらない。わからない。



「……ひなみ、大丈夫よ」

「……レティスリール様?」



 不意に、すぐ横から聞こえてきた声。

 後ろにいたはずのレティスリール様が、私のすぐ横にいる。

 すっと伸ばされたれティスリール様の手が、一点の魔物を示す。指の先にいる魔物を見れば、それは巨大なスライムだった。



「なにあれっ!!」



 思わず声をあげてしまったけれど、こればかりは仕方がないと思う。

 私の視線の先、レティスリール様が出てきた扉から……とてつもなく巨大なスライムが姿を現した。その身長は、天井についてしまうのではないだろうか。横幅だけで、3メートル以上あるのではないだろうか。



「クソッ! ひなみ様、ここはいいから出口に向かって!」

「駄目だよ! 私だって、少しは役に立てるから……!」



 シュッ!

 風を切り、私は構えていた矢を放つ。レティスリール様が指差した、超絶でかい巨大スライムへ。

 弓の効果通り、しっかりと巨大スライムに命中した。矢は確かに命中した。けれど、刺さったというか、スライムに吸収されたというか。あまりダメージが通っているようには見えない。

 ぷるんとしたゼリーに果物が入っているみたいに、矢がスライムに入って行った。



「うそ……! どうしよう、これじゃぁダメージを与えられすらしないよ!」

「ひなみ、当てるだけではだめ。あそこを狙って……!」

「あそこ……?」



 レテリスリール様が一生懸命に手を伸ばし、スライムの中心部分を指差す。

 私もじっと目をこらしてみれば、そこには赤く光る宝石のような物があった。スライムの体内に漂うように、ゆっくりと揺れているように見える。



「あれは……?」

「…………あれは、私が生み出した魔の心。ひなみの持っているその矢でないと、きっと砕けない」

「魔の、こころ……?」



 それはいったい何なのだろうか。そう思って、口を開こうとしたけれど……次に見た光景に、私は絶句した。

 巨大スライムから、魔物が出てきたのだ。

 いったいどういうことなのか。この世界にいる魔物は、巨大スライムが生み出していた……? いや、さすがにそんなことはないと思う。ギルドの初心者講習でも、そんなことは言っていなかった。そもそも、魔物の産まれ方なんて聞いてすらいない。



「……ひなみ様、下がって!」

「あ、イクルっ!」



 大きく棍を振って、ガッと3匹のハードウルフの攻撃を受け止める。

 最初よりも魔物の数は減りはしたけれど、多い上に……新しく巨大スライムから産まれてきている。現在の魔物の数は、ざっと数えて20だろうか。

 気付けばイクルは私たちの眼前まで来ていて、かなり厳しい状況だということがわかる。



「ここは広いから不利だ、少し下がって通路に……!」

「わ、わかった!!」



 確かに、広間だと四方から魔物が押し寄せて来る。だが、イクルが言うように通路に入ってしまえば魔物はほぼ前方からしか襲ってこない。

 かなり楽になるかもしれないけれど、おそらく巨大スライムを倒さないといけない。



「あのスライムを止められるのは、ひなみ様の矢だけなの?」

「……そうです。リグリス様のご加護がなければ、無理なのです」



 声だけを向けるイクルに、レティスリール様は酷く申し訳なさそうな顔をする。

 しかしきっぱりと、私でないと……いや、リグ様の加護がないと無理だと言った。私の弓に加護がついていると知っているのがなぜかはしらないけれど、この世界の女神が言うのであればきっとそうなのだろう。

 ぐっと棍を握り、「わかった」と一言だけ声にだしてイクルが前へと大きく1歩を踏み出した。

 眼前に来たハードウルフを一撃で倒し、次に来た蜘蛛の魔物も棍で打ちながら炎でダメージを与える。大きく息を吸って、イクルがぐっと身体を前に倒して地面に沿わせた炎を第2波として打ち込む。



「……ひなみ様っ! 俺が隙を作るから、合図したらスライムに矢を放って」

「……っ、わかった!!」



 イクルの声に、私は大きく頷いた。

 放てる矢は、残り2本。必ず必中はするけれど、次は赤い宝石のようなものにピンポイントで当てなければならない。プレッシャーで胸が押しつぶされてしまいそう。

 だけど。1番辛いところは、イクルが全部背負ってくれている。



 大丈夫。

 私の前には、イクルがいるから。

 イクルが懸命に作ってくれるであろうチャンスを、無駄にはしない。絶対に……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ