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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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32. 眠りし場所への入り口 - 3

「あまり勝手はされないようにお願いします」



 凛とした墓守さんの声に、緊張してしまう。

 木の門をくぐり、墓守さんの後について歩みを進めた先にあったのは……一面の花畑と、その中央にある石碑。あれがレティスリール様の墓標となっているのだと、私でもわかる。

 こくりと頷いて、イクルと石碑の前まで歩みを進める。



「ここが、レティスリール様の……」

「ひなみ様、あまり勝手な行動はしないでよ。いつもとんでもないことばっかりするんだから」

「そ、そんなことないよ?」



 あははと笑いながら石碑まで歩けば、この世界の文字で中央に“レティスリール”と彫られていた。そしてその下には、懐かしい文字が彫られていた。

 “合言葉はひらけごま”と、右肩上がりの日本語。ロロに案内してもらったスラム街で見たものと同じ筆跡だった。



「花畑の中央に、レティスリール様の名前が彫ってある石碑。……とりあえず、お祈りしようか?」

「好きにしなよ」



 やれやれと肩をすくめるイクル。おそらく、石碑の文字までは見えていないのだろう。

 墓守のエルフさんがいるから、内容をここで伝えるのもはばかられる。どうしようかなと考えて、とりあえず今は保留にして祈りを捧げることにした。



「こんにちは、レティスリール様。私は、ひなみっていいます。貴女にお会いしたくて、ここまで来ました」

「……ひなみ様、それお祈りじゃないよ」

「うっ……だ、だって! 何を祈ればいいかわからなかったから」



 いつもと同じ呆れ顔のイクルが、「のんきだね」と私の隣へ歩いてくる。

 一緒に祈ってくれるのだろうかと思ったけれど、石碑へ触れたイクルを見てやっぱりそんなことはないらしい。

 形を、材質を確かめるように触るイクルの手。石碑の文字をなぞり、日本語部分でイクルの指が一瞬だけ止まった。

 おそらく墓守さんにはわからないほどだったと思うけれど、すぐ横にいる私にはそれが伝わった。

 読める、と。そう伝えるために小さく頷いてみせれば、イクルが振り返り頷き返した。



「さすが、レティスリール様の墓標。素晴らしいできですね。この花畑なら、花を愛していたレティスリール様もお喜びでしょうね」

「あぁ。ここの花畑、絶えず管理をしているからな。レティスリール様の幸せを祈るのが、墓守の仕事だ」

「そうですか。昼夜問わずに、ですか? それだととても大変でしょう」

「まぁ、な。しかしレティスリール様のためと思えば、これくらいは問題ない」



 イクルと墓守さんの会話を聞いて、やっぱり24時間見張っているということがわかる。

 本当はもっといろいろ石碑を調べたいのだけれど、なかなかに難しそうだ。

 せめてイクルと2人で石碑の場所までこれればいいのだけれど、無理だろう。



「とても、厳重なんですね。昼夜の番は、とても大変ですよね」

「お気遣い感謝する、薬術師殿。前に、侵入者があってな。その石碑に、いたずらがあるだろう?」

「……この、レティスリール様のお名前の下にあるやつですか?」



 ひらけごまの文字を指して問えば、肯定の返事が返ってきた。

 ……間違いなく、日本人だよね? 外国の人なら、母国語か英語を使いそうだし。

 いったいどんな人なんだろう。まだ生きてこの世界にいるのか、それとも……もう、亡くなってしまっている可能性だってある。

 でも、きっとこの人は何かを知っている……というか、レティスリール様と親しい間柄なんだろうと思う。

 もし会えるのであれば、会ってみたいなと、少し思う。



「……とりあえず、祈りも済みましたし行こうか」

「うん、そうだね。墓守のエルフさん、ありがとうございました。また、伺ってもいいですか?」

「あぁ。レティスリール様へ丁寧に祈っていただいたからな。いつでも歓迎しよう」

「ありがとうございます!」



 厳しい瞳をしていたエルフさんだったけれど、今は少し穏やかになっていた。

 私たちが荒らしに来たわけではないことがちゃんと伝わったのだろう。ふぅ、よかった。

 また、来たい……というか、どうにかしてもう一度だけ来たい。

 墓守さんの前でひらけごま! とは言えないので、今は保留。

 信頼関係を作って、イクルと2人でこられるようになるのがいいんだけど……やっぱり難しいかな?



 もやもやと、どうしようかなと思案をしていれば既に帰りに歩いているイクルと墓守さん。「ひなみ様、はやくー」と言うイクルの声にはっとして、慌てて後を追いかける。

 行くなら一言声をかけてくれたらよかったのに……!







 ◇ ◇ ◇



『チョ?』

「ちょっと止まってね、いい子!」



 レティスリール様の墓標から少しダッチョンを走らせて、深い森の中で一旦ストップ。

 前を走っていたイクルが振り向いて、先ほどの石碑に関して問われたので見たままを伝える。



「……合言葉、ねぇ」

「ひらけごまっていうのは、その言葉を言うと扉が開く合言葉。私の世界にある、絵本に出てくる有名な台詞なんだよ」

「ふぅん」



 どうやら言葉の意味には関心がないようで、どのようにまた行くかを考えているようだった。



 やっぱり、墓守さんと仲良くなって説得をするしかない。

 ……最悪、文字が読めることを伝えて立ち会ってもらうというのもひとつの手かもしれない。

 だけど、文字が読めることを伝えるという行為を……きっとイクルは嫌う。あくまで最終手段にと考えて、また少ない脳みそをフル回転させていく。



 しばらく考えて、しかしあまりいい案は浮かばなかった。

 そんなとき、おもむろにイクルが口を開いた。



「今日はここで野宿をして、真夜中に墓を暴くしかないね」

「…………え?」

「ん? とりあえず、夜中に起きてないといけないから寝床を探そう。村に滞在して、抜け出したのがばれたら面倒だからね」

「いやいやいやいやいや!! お墓を暴いちゃだめだよ……!」



 さも当然のように言うイクルに慌てて「駄目だよ」と伝えるが、いまいち伝わっていないのか首を傾げられる。この世界はお墓を暴いてはいけないという考えがないのかと焦る。

 しかし、イクルがゆっくりと首を振って「違うよ」と言った。



「まだ死んでないなら、墓暴きじゃないよ」

「いや、そうじゃなくて! って、そ、そうかもしれない……けど」



 確かに、レティスリール様は死んでいない。

 それならば、真夜中に訪問するのも問題ないのではないだろうか。その時間にレティスリール様が起きているのかは謎だけれども。



「でも、墓暴きじゃないとしても……真夜中に訪問するのはマナー違反じゃない?」

「大丈夫でしょ。寝てたら少し待たせてもらえばいいし、どうせ中はダンジョンか何かになってるんじゃない? そうしないと、仮に掘られたらすぐにばれちゃうしね」

「あ、なるほど……」



 私たち以外にも、そう考える人がいてもおかしくはない。それならば、あの石碑の下が地下ダンジョンになっていて……その奥にレティスリール様がいたとしてもなんら不思議ではない。

 さすがイクル、私よりも数歩先を見てくれている。助かるなと思いつつ、イクルは目が見えていない状況なんだからもっとしっかりしないとと、活を入れる。



「わかった。夜中に、レティスリール様のところに行ってひらけごまをしてみる。でも、目が見えないのに大丈夫……?」

「ん、問題ないよ。そもそも、目が見えないから昼も夜も関係ないしね。それより心配なのは、ひなみ様だよ。月明かりがあるとはいえ、かなり暗くなるから覚悟しておいてね」

「ぅぐ。だ、だいじょうぶだよ……!」



 おばけはそんなに得意ではないけれど、きっとイクルから離れなければ問題はないだろう。くれぐれもイクルからは離れないようにしよう。絶対。いや、おばけが怖いからではなくて、もちろん魔物とか何かあるといけないから離れないという意味です。



「というわけで、少し移動して休もう。どこか洞窟でもあればいいんだけど、そう上手くいくか……」

『チョッ!!』

「ん?」

「あ、もしかしてダッチョンが洞窟の場所を知ってるんじゃない? ね、ダッチョン?」

『チョー♪」



 私の問いかけに、大きく返事をしてダッチョンが走り出す。イクルは呆れ顔をしているけれど、ダッチョンを止めるわけでもなくすきにさせている。きっといい寝床的な洞窟に案内してくれるはず。



「ダッチョンって、すごいおりこうさんなんだね!」

「まぁ、もともとはこの大陸に棲んでいる野生だしね。本能的な何かが感じるんじゃないの?」

「そうなんだ。ダッチョン、元は野生の動物だったんだね」



 よしよしと頭を撫でれば、『チョ♪』と嬉しそうに声を上げる。最初はあんなにも私を振り回していたのに、いまではすっかりダッチョンと仲良くなった。まぁ、旋律の花を餌としてあげたからという微妙な馴れ初め話ではありますが。



「ひなみ様、ダッチョンに乗るときはちゃんと手綱を持って。むやみに頭を撫でたりして落ちたらどうするのさ」

「む、大丈夫だよ。ダッチョンはこんなに優秀だし! すっかり仲良しだよ」

「……はいはい」



 それから20分くらい走って、ダッチョンが私たちを連れてきてくれたのは小さな滝のある崖。と、その横には縦1メートルほどの洞窟。

 ……少し小さすぎるんじゃないかな? そう思いつつ中をそっと覗けば、意外に大きな空洞になっていた。天井の高さも5メートル程度あり、奥行きも同じくらい。



「へぇ。これなら水もあるし、いいかもね」

「うんうん! さすがダッチョン。ご飯作って、食べて休んじゃおう」



 私は洞窟に荷物をおいて、うーんときしむ身体を背伸びで解していく。やっぱりなれないので、ダッチョンで移動していると身体が凝るのですよ。休憩のたびに適度な運動をして、なんとかごまかしている。



「んー……っと。あ、いいもの見つけた!」

「ん?」

「ジャガイモ! あそこにジャガイモの葉っぱがある。天然ものだよ! 掘ってスープに入れようっと」



 山の中で自然の食料を発見できるなんて、なんだか嬉しい。サツマモを探し当てたときのまろうの嬉しさが、今なら私にもわかるかもしれない。

 葉が生えているところまで行って、回りを少し手で掘り進めて行く。最後にぐっと引っこ抜けば、5個のジャガイモがついていた。



「やった! これでご飯を作れそう」



 くるりと振り返れば、イクルは既にスープ作りを開始していたので慌てて合流した。相変わらずイクルはマイペースだなぁと思いつつも、その器用さに驚く。目が見えていないはずなのに、なんなくスープを作り上げていく。料理人の執念かと思ってしまうのですよ。



「どうしたのさ。街で買っておいたチーズもあるから、それも使っちゃうよ」

「チーズ! うん、いいね。ジャガイモに乗せて焼いて、あとはあまったら少し溶かしてパンに乗せよう!」

「はいはい」



 イクルに投擲用の短剣を借りて、水場の近くでジャガイモの皮を剥いていく。短剣で野菜を切るなんて、まさに大冒険だなぁと思いつつ……私とイクルの時間はあっという間に過ぎていく。



 夜になったら、レティスリール様のお墓へ行く。

 墓守のエルフさんがいるから、気付かれないようにしなければいけないけれど。木の門を見張っているようだったから、どこかに回り込めば抜け道があるかもしれない。

 今夜は眠れそうにないから、それまではゆっくり休むのです。

なかなかこまめに更新できず…すみません。

次回の更新は、土曜日を予定しております!


そして嬉しいことが起きたので、ここでこっそり。

なろうコンとコラボしている、イラストのクラフェさんに『箱庭の薬術師』の素敵イラストが投稿されていました!!!

私が確認した限り、この2作品のはず…!


ぜひぜひ皆様、見てくださいっ!


http://cg-crafe.crowdgate.co.jp/crafe2015spring/gallery/detail/0c92c24eccd429dbc0d913eb304ce5b7


http://cg-crafe.crowdgate.co.jp/crafe2015spring/gallery/detail/0918ac6f94f166d6089d8a50600a5e9d

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