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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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30. 眠りし場所への入り口 - 1

 翌朝、朝食を用意したといわれて食堂へと足を運べば……村長さんが笑顔で出迎えてくれた。



「おぉ、おはようございます。薬術師殿。ゆっくり休まりましたか?」

「おはようございます。はい、とっても。野宿も覚悟していたので、とても助かりました」

「それはよかった」



 あんなに難しい顔をしていたのに、今日の顔はなんと晴れやかなことなのか。

 恐らくその原因をしっているイクルをちらりと見るが……相変わらず表情を表に出さないので、何も読み取ることはできなかった。



 昨日は、寝る前に体力回復薬(ハイ・ポーション)を作って、それをイクルが村長さんに届けてくれた。値段は、ひなみの箱庭(ミニチュアガーデン)と同じ料金。1つ1,000リル、合計100個を渡したので、合計で100,000リル。

 結果だけを聞けば、とても喜んでくれたということだったのだけれど……今の村長さんを見れば確かにと頷く以外はない。



「昨日の夜に、さっそく使わせていただいたのですが……実際にすごい効果でした。怪我を負った者がいたのですが、ひどい重症だったので心配だったのです。しかし、いただいた体力回復薬(ハイ・ポーション)を飲んだらすぐに良くなりましてね」

「そうだったんですね。なら、よかったです」

「この村にも薬術師はいますが、あれほどすごい回復薬(ポーション)を作れはしないのです」



 やれやれと首を振って、「エルフなのに情けないものだ」と寂しそうに言った。



「エルフは人間よりも寿命が少し長いのでね、いろいろと語り継がれていることはあるのですよ。あぁ、どうぞ、お座りください」

「ありがとうございます」



 おいしそうなオムレツと、パンと、サラダにスープ。それらが並べられた机の前に座り、村長さんと一緒に食べ始める。イクルは特に話すことがないようで、私と村長さんの何気ない会話と、ちらほら垣間見える昔話。



「エルフの村では、代々の薬術師から回復薬(ポーション)の作成方法を語り継いでいるのです。しかし、このような回復薬(ポーション)の事例はないのです。いつから薬術師を? それからどなたに師事されているのか、伺っても?」



 どうやらよほど私の回復薬(ポーション)を気に入ってくれたようだ。矢継ぎ早に喋り、昨日の寡黙さが嘘のようだ。

 かくいう私は、どう答えたらいいものかと悩む。私が薬術師になったのは2年前だし、作り方は簡単すぎる。師事している人もいないし、私は基本的な知識もあまりない。

 喋ると必ずぼろがでるなと思い、にこりと笑って少しごまかす。



「私は、森の奥で暮らしていたので……独学の部分が多いんです」

「そうでしたか。森で暮らしていたとは。私たちエルフも森を好むので、嬉しく思うものです」



 優しく微笑む村長さんの、笑顔をここで初めて見たかもしれない。

 ぱんをちぎって食べて、私にも「たくさん食べてください」と勧めてくれた。ありがたくいただいて、さらには旅の道中に食べれる保存用のクッキーまで用意していただいた。



「レティスリール様が、薬術に長けたお方だというのが私たちの中に伝わっていてね。薬術師という職業には、なんとなく思い入れがある。さらに、薬術師殿は適正持ちだとか。どうぞ、大切になさってください」

「はい、ありがとうございます」



 特に深くまで質問されることがなくて、少しほっとする。

 レティスリール様のことをそれとなく聞きたいけれど、なんて切り出せばいいのかわからない。不用意に口にだすのも、なんだか不味いような気がして。

 しかし、村長さんの口ぶりを考えると……おそらく有力な情報はないのだろうと思う。やはり、中心にあるエルフの村に行くか、自分の足でアグディスを探索するのがいいのだろう。

 けれど、何かヒントでも得られればと、私は口を開く。



「私も、レティスリール様は偉大な薬術師だと思っています。お会いできればいいのですけれど、そういうわけにもいかないですからね」

「そうですね。生きていらっしゃる頃にお会いしたかった。私たちにできることは、レティスリール様の墓へ参ることくらいだ」

「…………お墓、ですか?」



 つまりは、死んだレティスリール様が眠る場所だろうか。

 しかし、リグ様によればレティスリール様は生きている。村長さんの言うお墓はきっと偽物か、違う何かなのかもしれないけれど……旅の目印にすることはできるかもしれない。



「ええ。墓守はエルフがしているから、人間は知らないかもしれないな……ここから中心の村へ行く途中にあるのですよ。場所は、そう…………ここです」

「ここに、お墓が。それは、私がいっても大丈夫ですか?」



 地図を指差した場所を見れば、ここよりも少し島の中心に印がついていた。緑色で丸をつけられたそこに、レティスリール様がいるのかもしれない。



「ふむ……」



 少し考え込むように、あごに手を添える村長さん。やはり人間が大切な場所に行くのはこころよく思われないのかもしれない、そう考えるが……行ってみたいと思うわけでして。「うぅむ」と唸っているところを見ると、なかなかに難しいのかもしれない。

 墓守をしているという話だから、おそらく勝手に行っても入れてはもらえないのだろう。どうしようかと思案していれば、イクルがことりと、机の上に回復薬(ポーション)を置いた。



「イクル? って、それ……姫の加護薬だよね?」

「そう。エルフの村の村長、これを1つ差し上げます。その代わり、レティスリール様の墓へ行くことの許可をいただきたい」

「……まさか、姫の加護薬まであるとはな。いいだろう、通行を許可しよう。サラ、許可証を持ってきてくれ」



 まさか、姫の加護薬を1つ渡しただけで許可が下りるとは思わなかった。

 なんてお安いんだろうと思いつつ、それともエルフは魔力の扱いに長けた種族だったりするのかな? もしそうなのであれば、かなり役に立つ回復薬(ポーション)だろうなと思う。

 スキル《真実の鑑定(ジャッジメント)》を使って、姫の加護薬を鑑定した村長さんがさらに驚いた。姫の加護薬は、出回っている数もそう多くはない。なぜなら、材料の入手が難しいから。ましてや、同じ木の花と実が必要なのだから、なおさらだ。

 そして人間の大陸では、もともと魔力が多い人がすくないからか……そこまで需要があるわけではない。売っているお店も少なかったし。



「姫の加護薬の効果は、MPの最大値が1.5倍か。恐ろしいものだな」

「でしょう? あまり主を不快にさせないでくださいね」

「……そのようだな」



 …………いや、その言いようはちょっとどうなのだろうと思うのですが、イクルさん?

 ともあれ、レティスリール様のお墓への許可証を無事手に入れることができました。







 ◇ ◇ ◇



『チョッ!』



 ダッチョンの掛け声と共に、私とイクルは一晩お世話になったエルフの村を旅立った。本当であれば、2泊位して疲れをとりながらいきたいところだけれどそうもいかない。

 やはり人間は大歓迎されていないし、レティスリール様にも早くお会いしたいから。



「ひなみ様、大丈夫?」

「うん! ダッチョンもゆっくり走ってくれてるみたいだから、なんとか」



 イクルが先行して走り、その後ろを私が追う。走りながら何度もイクルが振り向いて私がちゃんといるか確認するので、なんだか少し笑ってしまう。

 ここ、〈アグディス〉は緑が深い。山の形になっているから、中心部に行くほど標高があがり気温も下がる。マントは用意してあるけれど、もしかしたらそれだけでは足りないかもしれない。



「……ひなみ様、もう少しスピードを上げて走れば夜くらいに獣人の村へ着けると思う。でも、あまり無理をしないで夕方前に野宿をしたほうがいい」

「そうだね、それでいいよ」



 さすがに、これ以上スピードを上げるのは辛い。それに、夜につくということは、割とぎりぎりのペース。何かトラブルがあれば、疲れ果てた状態での野宿になってしまう。



「ダッチョン、夕方まで……よろしくね? 《天使の歌声(サンクチュアリ)》!」

『『チョーッ♪』』



 私は旋律の花に《天使の歌声(サンクチュアリ)》を使って、花を咲かせる。2匹のダッチョンに食べさせてあげればとても喜んでくれる。好物を食べてご機嫌だから、夕方まではきっと頑張ってくれるだろう。

 でも、こんなに喜んでくれるということはさぞかし美味しいのだろうか? 花びらをかじってみたい衝動に駆られるけれど、おそらくそれはやっちゃいけないやつだと自分にいい聞かせる。人間、我慢することも大切なのです。



「ひなみ様、ダッチョンを甘やかしすぎ」

「えっ! そんなことないよ、頑張ってくれてるんだよ?」



 これくらい当然だと思うのだけれど、イクルは私以外にはかなり厳しいと思う。

 ダッチョンの頭を撫でて、「食べたいよねー?」と聞けば、『チョッ!』と、可愛らしい返事が帰ってきた。そう、イクルが鞭で私が飴ポジションなのですよ。



「……前方、スライムが5匹」

「えっ!」

「無視してそのまま走り抜けるよ」

「えっ!?」



 イクルがダッチョンのスピードを上げれば、私の乗っているダッチョンもスピードを上げる。おかしい、私はまだスピードを上げる指示をダッチョンに出していないというのに。



『チョーッ!!』



 イクルの乗っているダッチョンの足が、スライムに襲い掛かってそのまま光の粒となり消滅した。



「だ、だっちょんがスライムを倒した……!! すごい、強かったんだ」



 しかも5匹も倒した!

 あんな一瞬で。まさにスライムを瞬殺したダッチョンは、何食わぬ顔でそのまま走り続けた。私はただただすごいと、そう思うことしかできなかった。



 そんなわけで、私はほぼダッチョンに乗っているだけ……という状況で、夕方になり、本日野宿をするところまでやってきたわけです。

 山の天気は変わりやすいのだけれど、ちょうど浅い洞窟を見つけることができたのでそこを寝床にすることにした。



「ダッチョンは洞窟前につないで、火は洞窟に入ってすぐのところに焚くよ」

「わかった。奥は……5メートルくらいかな? 丁度よさそう」



 あまり深い洞窟だったら、魔物もでてきそうで少し怖い。だけど、見つけたのは奥まですぐに見られる浅い洞窟。高さは3メートルくらいあるだろうか。

 雨もしのげて、周りも見渡せて、ばっちりです。まぁ、暖かさは焚き火にたよることになってしまうけれど。



「小さい鍋は持ってきてるから、スープは作ろう。後はパンと干し肉ね。ひなみ様は、洞窟の奥にこのマット敷いておいて」

「うん、わかった!」



 野宿用にと、用意しておいたマットと簡易的な寝袋。それを私が洞窟の奥に用意して、その間にイクルが焚き火をおこす。

 夕方とはいえ、山の中だからかなり冷える。木々が多いため、太陽の光が届かなくなるのも早い。夜になると、魔物が増えたりするのだろうか。少し不安になって、私は無意識のうちに身体をぎゅっと抱きしめた。

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