表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
87/175

24. アグディス上陸

 わ・わ・わ・わ~!

 やばいやばい、すごいよ、さすが異世界の海ですよ……!



「イクル、ロロ! 見て!! 謎の生き物が泳いでるよー!」



 テンションをあげて声を叫ぶ私に、呆れ顔のイクルと笑顔で同意してくれるロロ。まったく反応が逆だと思いながらも、私の心ははずむのです!

 さんさんとした太陽に、綺麗な海、謎の生物。これでテンションのあがらない人がいるのだろうか、いやいない。



 私とイクル、ロロの3人は、この港街についてから4日目である今日を待ちに待っていた。〈アグディス〉行きの船が出航するからです。

 そして今、私たちは〈アグディス〉へ向かう船の上です。

 思っていたよりも小さな船で、乗船しているお客さんは私たちのほかには10人ほどだった。これでは、船が3日に1回程度しか出ていないのも仕方がないかもしれない。

 乗組員を合わせれば、船には20人程度。少し余裕がありそうだから、定員は30名弱ってところかな……と、船を見渡して勝手な予想を立てる。

 椅子などはなくて、室内の床にクッションなどがあり座れるようになっている簡易なつくり。ただ、甲板への出入りは自由になっているので、私たちは甲板から海を眺めているのですよ。



『ひなみ、あっちで泳いでいるのはイールカぽ!』

「あっ! 本当だ……! 親子だね、すごい可愛い!」



 この世界にもイルカがいるんだ! そう思うが、若干名前が違う。イーってのばすんだ、不思議な感じと思いつつも日本と似ている名前なので私としては大助かりです。



「ひなみ様、はしゃぎすぎて海に落ちたりしないでよね」

「しないよ!?」

『ひなみはおっちょこちょいなところがあるぽ~』

「ちょっと、ロロまでなに言ってるの!?」



 2人して、私がうっかり滑って海に落ちると思っているのか……! そんなことないから大丈夫ですよ、もう少し私を信用してくれてもいいのではないだろうか。しょんぼりしつつも、海を眺めるのが楽しいので止めはしないけれど。



 もう、さっきまでいたラリールも、いや、大陸的には〈サリトン〉ですが……結構小さくなってしまい少し寂しい。けれど、それと引き換えに胸がどきどきわくわくしているのも本当で。

 晴れている日は、人間が住む〈サリトン〉から獣人が多く住む〈アグディス〉がうっすらと見える。そし

 て船で進んでいる現在は、その大陸がとてもはっきりと視界に現れている。



「アグディスって、なんだろう……山みたいな大陸だね」

「……あぁ、そうだね。アグディスは円に近い形の島で、中心部に行くほど標高が高くなっているんだ。そこにはドラゴンも多く棲んでいるっていう話だけど……」

『基本的に、人間や弱い獣人の種族は裾野に街や村を作って生活しているのぽ。エルフや妖精は中腹や、もう少し高いところに棲んでいたりするぽ』

「そうなんだ……! 2人ともありがとう、知らなかったからすごく助かるよ!」



 そう言われてみると、見えないけれどドラゴンが飛んでいる気がするかも……!

 島の標高が高いといわれる頂上部分は雲がかかっていてすべて見ることはできないけれど、きっと綺麗な山なんだろうなろどきどきする。

 ……ん? 綺麗な山、標高が高くて……って! もしかして、もしかしなくても。



「イクル! もしかして、アグディスに行ったら山登りなの!?」

「……ひなみ様」



 ちょっと、そこでさらに呆れ顔しないでください。少し不安げにイクルを見れば、名前を呼ばれて頷かれてしまった。どうやら、というか。やはり登山は決定事項のようだった。

 おそらく富士山程度はあると思うのだけれど……いや、少しずつ行けばきっと登れるはず、大丈夫。よしっ! と、自分に言い聞かせてガッツを入れる。やったりますぞっ!



『ひなみならできるぽ! 頑張ってぽ~!』

「ぐぐ、ロロは登らないからって!」

『お土産を待っているぽ!』

「それはまかせてっ!」



 お土産に、そして何よりレティスリール様をお捜しするという私の目標があるのですよ。裾野にいてくれたらいいのだけれど、きっとそれはないだろうと……なんとなく思うのです。

 女神様は、きっとアグディスの深いところにいる。なんとなくだけれど、私の勘がそう告げる。

 大丈夫、きっと見つけてみせるから。可愛い可憐な、夢にでてきた少女。年齢的にはずっとずーっと私より上だけれど、儚さゆえに消えてしまいそうと思った。



 大きく息をすって、「がんばるぞー!」と海に向かって叫べば隣のロロに笑われた。背後のイクルは、顔を見なくてももうわかります。



「はは、元気だな! よう、嬢ちゃん。船は初めてか?」

「…………あ、はい。今日は乗せていただいてありがとうございます!」



 やばい、このタイミングで声をかけられるのはとてつもなく恥ずかしいのですが。海に向かって叫んだ直後じゃなくてもいいじゃないですか。

 声をしたほうを見れば、そこには船員さん。軽そうな麻布の船員服で、40代くらいの男性。どうやら、船酔いをしていないかいろいろな乗客に聞いて回っているそうだ。



「ここは大丈夫そうだな。船に酔うと辛いからな。薬は用意してあるから、もしなにかあれば言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

『ありがとうぽ!』

「おうよ。もう少しでアグディスにつくから、景色でも楽しんでくれ」



 ひらひらと手を振って、船員のおじさんは次のお客さんのところへと足を運んだ。ああやってお客さんを回ってくれるなんて、丁寧なんだなぁ。

 でも、そういうところは〈レティスリール〉の温かくていいところだなと思う。



 それから2時間ほど経ち、私たちは無事に〈アグディス〉の地へ足を踏み入れた。







 ◇ ◇ ◇



「…………」



 すごすぎて、声にならないとはこのことだろうか。

 私は〈アグディス〉の港街に足を踏み入れて、驚きで目を見開いた。街は、今までいた〈サリトン〉のほうが発達はしているのだけれども……いかんせん島の中央部分にあたる山がすごい。とてつもなく高い。

 見たこともない色とりどりの鳥が飛んでいるし、蝶のように可愛らしい植物や、手のひらサイズの小さな羽根の生えた……妖精さん? など、とにかく幻想的だった。



「ファンタジー!」

「ちょっと、ひなみ様。とりあえず宿の確保をするよ」

「あ、うんっ!」



 ぼけっと山を眺めていれば、ペースを崩さないイクルに呼ばれる。

 街の中央部にある少し豪華な宿屋にイクルが入るので、私もそれに続く。船の中でも少し話をしたのだけれど、初めてくる大陸ということもあり……宿屋などはいいとこを選ぶことにした。大丈夫だとは思うけれど、何かあったら嫌だからと。



「とりあえず、2泊を2人ね」

「あれ? ロロは、って……そうか、おばあちゃんの家に行くんだよね」

『そうぽ。本当なら2人も招待したいけど、そんなに広くないから泊めてあげられないぽ。ごめんぽ……』

「んーん、大丈夫。気持ちだけもらっておくね、ありがとうロロ」



 しゅーんと、しょんぼりしてしまったロロをなでつつ、確かにスライムの家だと人間サイズは厳しいだろうなと納得する。



「この後は、ロロのおばあちゃんのところに行って時間があまったらイクルの武器かな?」

『ありがとうぽ!』

「おばあちゃん、ロロをみたらきっとすごく喜ぶね!」



 きゃっきゃ話が弾んでいれば、イクルが宿屋の手続きをしてもどってきた。それくらい私がやると言っているのに、仕事のうちだよとイクルが済ませてしまう。「ありがとう」と伝えて、今からの行動を伝えて了承を貰う。





「ロロのおばあちゃん家は、どの辺りにあるの?」

『海側にある、小さな家で……あ、あれぽ~!』



 大きくぴょーんとジャンプをして、1件の家へと跳ねていくロロが可愛いです。

 紫色の屋根の、小さな可愛いお家。花壇が作られていて、可愛いお花がたくさん咲いている。まるで家主を表しているようだなぁと思っていれば、ドアが開いて紫色のスライムが出てきた。

 ロロのおばあちゃんかな……? そう思えば、大きな声が発せられた。



『んまぁー! ロロじゃないかい! なーにやってんだい、こんなところで!』

『おばあちゃん! 久しぶりぽ~!』



 予想に反して、かなりパワフルなスライムさんだった。

 私とイクルもロロのところに行って、ぺこりとお辞儀をして挨拶をすれば大変驚かれた。ロロが私たちのことを説明してくれて、ここで別れ私たちは山を目指すと伝える。



『んまぁ、ロロを連れてきてくれたのかい! ありがとうねぇ! しかも、あの山にねぇ……気を付けるんだよ!』

「はい。それと、これ……お土産なので、よかったら」

『んまぁ! そんな気は使わなくっていいのに……! ありがとうねぇ。そうだ、それならお礼にこれをあげるわ、持っていきなさい!』

「花壇の花……?」



 買っておいた石鹸のお土産を渡せば、嬉しそうに受け取ってもらえてほっとする。けれどそれもつかの間で、おばあちゃんは元気よく花壇に植えてある花を数本摘み取って私へプレゼントしてくれた。

 紫色の小さな花で、鼻をそっと近づければとても甘くいい香りがする。となりで見ていたイクルが小さな声で「甘……」と言ったので、かなり強い香りのようです。



『その花は妖精が好きなはなさね! 持っていれば、もし何かあったときに妖精がたすけてくれるかもしれないよ!』

「え、そうなんですか!? そんなすごいお花、本当にいただいていいんですか……?」

『ロロを連れてきてくれたんだ、いくらでも持っていきなさい!』

「いや、これで十分です……! ありがとうございます!」



 おばあちゃんのパワフルさに気おされてしまいそう。けれど、話す内容からとても優しい人? スライム? だということはわかるので、なんとなくほっこりしてしまう。

 家の大きさを見れば、やはりスライム基準……にしては大きいけれど、私がぎりぎりドアをくぐれるくらいのサイズの造り。イクルだと、少しかがまなければ家には入れないくらい。

 突然来てしまったということもあり、あまり長居するのもお邪魔だろうと考えてそろそろ行くことを伝える。おばあちゃんが『んまぁっ!』と驚いたけれど、そっと私たちのことを何か察してくれたらしく頷いてくれた。



『いろいろとありがとうねぇ! ロロにも久しぶりに会えて、嬉しかったよ!』

「いえいえ。こちらこそ、お花をいただいてありがとうございます」

『いつでも遊びにきなさいね!』

『帰りは一緒に帰るから、寄って欲しいぽ~!』

「ありがとうございます! ロロも、帰るときにはちゃんと顔を出すから安心して」



 大きく手を振って、ロロとおばあちゃんに一時の別れを告げる。

 ロロはぴょんぴょんと大きく跳ねて『待ってるぽ~!』と声をあげてくれて、おばあちゃんも『また来るんだよー!』と温かい声で送り出してくれた。



「パワフルだったけど……いい人だったね、ロロのおばあちゃん」

「ん、そうだね。旋律の花を手に入れられたのは、ラッキーだったかもね。明日探す予定だったから」

「ん?」



 旋律の花、とな?

 なんだろうと首を傾げていれば、イクルが説明をしてくれた。



「その紫の小さい花だよ。さっきロロのおばあさんも言っていたけど、妖精が好むんだ。これから行く〈アグディス〉の中心部は、獣人よりも妖精やエルフといった存在が多い。だから、この花を持って行くんだ。彼らは人間があまり好きではないからね……」

「そうなんだ……」

「まぁ、全員がそうではないよ」

「…………うん」



 確かに、そんな話をちらりと聞いたような気がするなと思いつつ旋律の花を見る。甘い香りで、確かに妖精が好きと言われれば納得してしまうほどに可憐な花だ。

 《天使の歌声(サンクチュアリ)》を使って、帰ったら庭にも植えようとひっそり考えたのは内緒です。



「さてと、どうしようか。ひなみ様、疲れてない?」

「ん、船酔いもしなかったし大丈夫だよ。イクルこそ、船は大丈夫だった?」

「俺は問題ないよ」



 大丈夫だろうとは思っていたけれど、やはり問題なかったようでほっとする。船の上では普通だったけれど、イクルは体調が悪かったとしても言い出したりしなさそうなので少し不安だった。

 それならば、次はイクルが欲しいといっていた投擲用の短剣……かな?



「それじゃぁ、イクルの短剣を見に行こうよ」

「そうだね。後は、冒険者ギルドに行って〈アグディス〉の地図も手に入れるよ」



 あ、そうか! 地図か……! 確かにそれは重要だと思い、うんうんと頷く。若干呆れ顔のイクルですが、私が地図を忘れていたことは想定内だったようで少しもやっとします。



「もう! ほら、行こう!」

「……はいはい」



 忘れたのをなかったにするように、私はイクルをひっぱって歩き出した。

 目指すは武器屋、レッツゴーです!

受賞をいただいたなろうコンさんで、応援期間に突入したようですっ!

もしよろしければ、応援よろしくお願いします〜!

と、こっそりアピールを…笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ