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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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20. 新しい回復薬 - 2

『海ぽ〜!』

「海だー!」



 私とロロの大きな声が重なって、より大きな声になった。イクルの呆れ顔が若干気になりますが、この異世界〈レティスリール〉にきて初めての海なのでテンションが上がってしまう。

 きらきらと空の光を反射する海は、まるで自然のダイヤモンドみたい。



 がたごとと走る馬車から見える海の景色に、私は感動を覚えた。激しい馬車の揺れを忘れられるくらいには、感動したと思います。

 ……と、思ったけれど。揺れが気にならないのは海のおかげではなくてリグ様に貰ったお花クッションのおかげでした。中央部分が少しくぼんだ、大きめなクッション。厚みもあるため、馬車のゆれはほとんど気にならないものになっていた。

 これはすごい物をいただいてしまったと思いつつ……私も何かお返しをできたらいいんだけど。というか、仮にお礼の品を用意できても渡す手段がないなとしょんぼりした。



『ひなみは海、はじめてぽ?』

「故郷では何度も行ったよ。島国だったからね」

『しまぐに……? アグディスの出身ぽ?』

「あ、えぇと……アグディスではないんだけど、小さい島国だから知っている人はほとんどいないかな?」

『そうなのぽ! まだまだ知らないことが多いぽ〜!』



 ロロの鋭い突っ込みにどきりとした。

 そうだった。この〈レティスリール〉で島国は〈アグディス〉だけだ。もちろん、小さい島がいくつもあるだろうけど……そういった所は基本無人島で人は住んでいないらしい。

 私の出身が島国だということは伏せたほうがよさそうだなと思い、イクルの呆れ顔に気まずくなった。慌てて話題を変えてみることにした。



「そういえば、イクルはまたレベルが上がったりしたの?」

「ん? いや、まだ上がってないよ」

「そうなんだ。アグディスでも修行? するの?」



 こっそり夜中に抜け出されるくらいならば、今聞いておいたほうが気持ち的に安心できるのですよ。いくらイクルが強いとはいえ、何かあって朝になっても昼になっても戻ってこないなんて事態になったらと思う。それならば、先に行き先だけでも告げておいて欲しいと思うのです。



「ん、しないと思うから安心しなよ」

「え? そうなの?」

「さすがに、アグディスでひなみ様を1人にはしないよ。例え宿屋に泊まっているとしてもね」

「……ありがとう。でも、何かあればちゃんと時間を取るから言ってね?」



 きょとんとしてしまったけれど、続く理由に頷いて私も協力する旨を伝える。イクルも「わかった」と言ってくれたので、何かあれば私へ相談してくれるだろう。

 それからしばらく乗り合い馬車に揺られて、お昼過ぎに港街へと到着した。





「ひなみ様、船の出港予定を聞いて来るからそこで待ってて」

「はーい」

『わかったぽ〜』



 港街についてすぐ、イクルがすぐそこにある船屋のカウンターで出向時間などについて確認をとりにいってくれた。海に面したところにあるので、私とロロはすぐ横で海を眺めてのんびり待つことにした。

 きらきらと白く光る砂浜は、ところどころに綺麗な貝殻がまざっている。透明な色の海は、珊瑚があるのか色とりどりにゆらめいていた。

 少し離れたところから海をみているのに、はっきりと魚が見える。すごい綺麗な海で関心するのはもちろんなのだけれど、何よりゴミが1つも落ちていない。

 日本の海はゴミが多かったので、なんだかいろいろとやるせない思いが込み上げて来る。自然は綺麗なままが1番だよね。



『入り江にはいつ行くぽ?』

「今日1日はゆっくりして、明日がいいかな?」



 あまり無理なスケジュールは組まないほうがいいと考えて、そう告げればロロも『それがいいぽ』と頷いてくれた。

 はしゃぎすぎて体調を崩してしまうのもいけないし。それに、私にとって初めての旅、冒険です! 割と張り切ってしまうタイプだけれど、その反動で体調を崩してしまったこともあるのです。

 イクルとロロに迷惑をかけないためにも、休憩は十分に取っておきたい。



『薬草、見つかるといいぽ!』

「うん。私も楽しみだよ」



 次はどんな薬草なんだろう。魔力回復薬の上位性能のものだし、すごい薬草であることには違いないと思うのだけれども。菖蒲色で、小さな花がたくさんついている薬草だったはず。

 でも、それなら庭に植えたときに小さなお花畑ができあがりそうでわくわくしてしまう。



「ひなみ様、確認が取れたよ」

「ありがとう、イクル」

「うん。アグディスへの船は3日に1回、今日の朝にでたらしいから次は3日後だね」



 あれ、意外に船の行き来は少ないんだ。

 毎日何往復もしていると思っていたけれど、やっぱり異世界の交通事情は日本とまったく違う。それか、国が違うからあまり頻繁に行くことができないとか……そういう決まりとかもあるのかもしれない。



「菖蒲色草を探すし、丁度いい日程かもしれないね。今日は休んで、明日探して、残りはゆっくりすればいいよ」

『それがいいぽ! 観光してみるのもいいし、ギルドへ行ってみるのもいいぽ〜!』

「うん。ありがとう! 今日はこのまま宿をとって、ゆっくりしよう」







 ◇ ◇ ◇



「やばい、迷った……かな?」

「ひなみ様がどんどん進むから」

「う、ごめん……」

『大丈夫、なんとかなるぽ』



 そして港街に着いた翌日。

 私たちはギルドで入り江と菖蒲色草の情報を聞いた。しかし、答えは期待していたものとは違うものだった。菖蒲色草はこんな街付近の入り江にはない、欲しいときはもっと難易度の高いダンジョンや森へ行けということだった。

 けど、リグ様が私に嘘の情報を教えるなんてことはない。と、思います。なので、とりあえず入り江にはきてみたのだけれども。



 街から15分程度歩いたところにあるこの入り江は、青みがかった砂が幻想的だった。ゆっくりとした優しい波に、色とりどりの魚が泳いでいた。

 崖の上には花畑があるとギルドの人に聞いていたのだけれど、風に吹かれた花びらが入り江まで降り注いできて想像していたよりもずっとずっと綺麗。

 ただ、崖にも、崖の下にも薬草どころか草の1本すら生えていない。青みがかった砂、のみ。



 そう思っていたのだけれど、うっかり入り江の端で洞窟のようなものを私が見つけてしまった。

 とは言っても、その入り口は小さくて、ほふく前進でないと入れない程度だった。イクルが細身でよかったなと思い、3人で洞窟へと足を踏み入れたのです。



「この洞窟が綺麗だったから。ほら、壁がところどころ光ってて綺麗だよ!」

「まったく。この壁のやつは、シンシア様がお店の開店祝いにくれた桃色の宝石の材料だよ。これをたくさん集めて魔法で加工すると、ひなみ様がもらったような大きな宝石になるんだ」

「え、これが!? そうなんだ、すごい……」



 というか、壁の鉱石の大きさは指の先程度。桃色の宝石の基本サイズがこれだとしたら、材料集めはかなり大変だったのではないだろうか。

 手作りだからと、割と気軽に受け取ってしまった気がします。まさかこんなに大変なものだったなんて。アグディスのお土産は奮発しようと心に誓う。



「というか、普通こんな洞窟気付かないよ。ギルドでも何も言っていなかったし、未発見かもしれないね」

「そうなの?」

「そうだよ。それに、洞窟内の壁も採掘されていないし、状態はかなりいいよ」

『こんな綺麗な洞窟は初めて見たぽ!』



 むむむ。そう言われると、確かに人が足を踏み入れた形跡のようなものはないように見える。きょろきょろと見回していれば、イクルに「勝手に歩き回らないでね」と注意される。……そんなことしませんよ!



「俺だけだったらここの入り口には気付かなかったと思うから、他の冒険者が……ってことはないと考えていいよ。まったく、ひなみ様は抜けているんだか鋭いんだか……」

『すごいぽー!』



 ぴょんぴょんとロロが跳ねながら進んで、角を曲がり『魔物はいないぽ〜!』と報告をしてくれる。というか、先頭がロロでいいのだろうか。凶暴な魔物がいたらぱくりと食べられてしまうのではと不安で仕方がない。ロロもイクルも何も言わないので私も言わないけれど、はらはらしてしまう。

 それから10分ほど進んで、洞窟の再奥へと着いた。少し広い空洞になっていて、中央に泉があった。その周りには、小さな花がたくさん咲いている菖蒲色の草が。



「菖蒲色草だ……!」

「まさか本当にあったなんてね。これは本当に、あの迷信めいた薬術師適正の力なのか」

『すごいぽ〜!』

「ようし、少し摘んで行こう!」



 やったやった! これで新しい回復薬(ポーション)を作ることができる! そうしたら、リグ様のためにポイントも貯められるし、アルフレッドさんへお礼としてプレゼントすることもできる。

 ついでに桃色の宝石を採掘するのもいいかもしれないと思いながら、ふと泉へ視線を移す。この泉、色が白いぞ……? 洞窟の薄暗さでわからなかったけれど、透明の水ではない。にごっているのか、白いような、そんな色。



「ねぇねぇ、イクル。この泉ってなんだろう?」

「さぁ。なんだろう……白くにごっているような水だね」

『こんな洞窟の奥だから、何か特殊な水だったりするぽ?』



 ロロが身体を少し乗り出して泉をのぞく。『魚はいないみたいぽ』と教えてくれて、私も泉のふちに座り込む。ロロ、私、イクルと3人並んで泉の水に触れて……温かい!!



「お、おんせん?」

「『おんせん?』」

「あ、えと。こうやってお湯がはってるやつのことで、お風呂として使えるんだよ。普通の水と違って、身体にいい成分がお湯に溶け込んでいたりするみたい。たいていは、地下から沸いたお湯がたまっている……のかな?」



 お風呂という単語にイクルが反応したけれど、私は見なかったことにした。ここでイクルの入浴タイムになったら私はどうすればいいかわかりませんからね!

 仕方がないけれど、ここの温泉は諦めてもらおう。……夜にこっそり入りにきたりしないよね? 若干不安になりつつも、私はイクルを信じますよ……!



『温泉ってすごいぽ〜! よいしょっぽ』

「ちょ、ロロ……! いくらなんても飛び込んだら危ないよ!?」



 もし底に魚の魔物とかがいたらどうするんですか!

 焦りつつもでてくるように伝えれば、『大丈夫ぽ』とお気楽な返事が返ってきた。



「もう、イクルが真似しちゃったらどうするの!」

『ぽ?』

「…………ひなみ様?」



 思わずでた私の言葉に、怒るよ、と。イクルの顔に書いてあります。「ごめんごめん」と謝りつつ、だって本当にそう思ってしまったのですよ。



「なんのお湯かは分からないけれど、せっかくだし少し持って帰れば?」

「え?」

「菖蒲色草が生えていることを考えると、特殊なものである可能性は高いからね」



 あ、なるほど。

 菖蒲色草の生息する条件に、この水が必要不可欠ということもある。だから、この泉が発生している場所でしか採取ができないのかもしれない。それは総じてダンジョンの奥だったり、深い森だったり。

 鞄から瓶を何個か取り出して、泉のお湯を汲んで行く。あまり瓶がないから、5個分だけ満タンにする。もし何か必要なことがあれば、またここまで汲みにくればいいかな。



 本日の成果。

 菖蒲色草が20束と、温泉っぽい水を瓶5個。



 宿屋に戻ってから、菖蒲回復薬(アイリス・ポーション)を作ろう。新しい回復薬(ポーション)にどきどきしつつ、私たちは来た道を戻ることにした。

 イクルが温泉を名残惜しげに眺めていたのは、見なかったことにしてあげましょう。

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