19. 新しい回復薬 - 1
「はふー」
アルフレッドさんと別れ、私はイクル達と宿の部屋へ。
ちなみにイクルとロロが同室で、私は1人部屋です。分かれてベッドにダイブして、体をぐぐーっと伸ばす。さすがに今日は疲れた。
この世界にきてから1番疲れたといっても過言でもないかもしれない。それだけ体力的に、精神的に疲れたのだろうな。少しだらしがないかもしれないけれど、ベッドに寝転んだまま交換日記を書いちゃおう。
「何を書こうかな。……いっぱい書きたいことがあるから、うぅん」
悩むなぁ。
でも、やっぱりドラゴンのことかな。あとは、せっかくのクッションを使えなかったのが残念。お披露目は明日の馬車で……ということになってしまった。
せっかくもらったのに。どうせなら枕にしようかなと少し思って、やっぱり明日にとっておこうと取り出しかけて鞄にしまう。
「……今日は、疲れた1日でした、と」
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リグ様へ
今日は疲れた1日でした。
なんと野生? の、ドラゴンが襲ってきたんです。それからたくさんの魔物。
もう死んだかと思っちゃいましたよ……! でも、一緒の乗り合い馬車に乗っていた冒険者さんやイクルが魔物を倒して、ドラゴンを食い止めてくれたんです。
最後にはアルフレッドさんがきて、ドラゴンを倒してくれたんですよ! 戦っているところを初めてみたので、すごい強くて驚いちゃいました。
私もあれくらい強くなれたらリグ様の力になれるかなと思うんですけど……私、あれくらい強くなれますかね。不安です。全然役立たずなので、どうしようかと。
いや、でも……回復薬のこととか、自分にできることをするのが大切なことだって弓術師のお姉さんが言ってて。私の力の使い方は、戦い以外に向けたほうがいいのかなぁとも思いました。
明日は1日この街で休んで、明後日になったら乗り合い馬車で次の街に行きます。次のところは港町で、〈アグディス〉に行く船がでているのだそうです。
ロロのおばあちゃんが向こうの港町にいるらしいので、何か石鹸をここで買って行きたいなって思います。
と、すみません。
もう眠たくて……今日はここまで、です。
おやすみなさい。
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ぱたんと交換日記を閉じて、私はそのままうつ伏せ状態で目を閉じた。
ゆっくり私を襲って来る眠りには、あらがうことができなかった。
◇ ◇ ◇
『ひなみ〜! 朝ご飯ぽー』
ぼんぼんと聞こえる音に目を覚ませば、ロロがノックの変わりにドアへ体当たりをしている音だった。音がした瞬間にまた魔物の大群がきたのかと、一瞬どきりとした。
そうだよね、ロロだとノックが……不便だよね。
「すぐに行くから、先に食堂に行ってて〜」
『わかったぽ!』
指輪がしゅるりとリボンになって、私の髪を整える。気がつけば、寝癖もなおる優れものになっていたのですが……バージョンアップしたのでしょうかリグ様。嬉しいのですが、その……自分の髪を、しかも寝癖までなおされるのは若干恥ずかしい。
鞄から服を取り出して着替えてから交換日記を開く。毎朝の日課なので、これをしないと朝がきた感じがしないのです。
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おはよう、ひな。
だいぶ眠そうだったね。よく眠れた?
もう、昨日は本当にひなが無事でよかった。
まさか小屋に入らないで外にいるなんて思わなかったから、かなり心配したんだよ?
防御スキルがあるとはいっても、ひなは戦闘が得意なわけではないんだから無茶はしなようにね。何かあったら、すぐに教えた通り僕の名前を呼ぶんだよ。
必ず護ってあげるからね。
そうそう、ひなが気にしている自分のできること。
僕から1つ、ヒントをあげるね。
菖蒲の回復薬の材料に使う、菖蒲色草が次の港街近くの入り江で手に入るんだよ。
アグディスへ船で渡る前に探してご覧。きっとひなになら見つけられると思うから。
アグディスでは、ロロのおばあちゃんをはじめいろいろな出会いがあると思うけど……そうだね。へんな奴に騙されないように十分注意するんだよ。
ひなの持っているスキルは珍しいんだから、使う時も注意してね。
いい旅路になるよう、見守ってるよ。
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「菖蒲色草……菖蒲の回復薬の材料……!」
交換日記に書かれていたその情報に、胸が高鳴る。菖蒲色草は、なかなか出回らない希少なアイテムだと聞いた。奥深い森や、危険な場所の水場付近にしか生えていないと。
まさか、それが港街近くの入り江にあるなんて誰が思うのだろうか。でも、リグ様の言い方を見ると……見つけるのが難しい場所にあるのかもしれない。
タクトが教えてくれた薬術師の適正というものが役に立つのかもしれない。レアな薬草を見つけやすいとか、そんなラッキーガールのようなもの。
あぁでも、私は唯一ステータスで高いのがLUK値、幸運であったなと思い……少し希望を見いだした。これがあれば、魔力の回復する新しい回復薬が作れて、きっとアルフレッドさんへのお礼にもなるだろう。
「うん……! こうなったら絶対に見つけるしかない、菖蒲色草!!」
菖蒲の回復薬はラリールのお店で見かけたことがないから、きっとかなり希少なもののはず。体力を回復する薔薇の回復薬は、ここに旅立つ前に1回だけ目にしたことがあるけれど……売れたのだろうか。
あれは確か材料に王子の実が入っているから、それを入手しないことには作ることができない。アグディスにあれば採取して帰るけれど……どうだろうか。後でイクルに相談してみよう。
「っと、ご飯だった!」
いけない。イクルとロロが食堂でまっていてくれているんだった。イクルのことだから、私を待たずに食べるということはない。これ以上待たせては申し訳ないので、急いで支度をして食堂へと向かう。
階段を下りて1階にある食堂へと向かえば、お茶を飲みながら待っていてくれるイクルとロロを見つける。「遅れてごめん」と言えば、2人とも「大丈夫」と優しい答えを返してくれる。
魚の塩焼きと、ご飯と、のりというとても日本的な朝食が並べられたのを見て、私は目を丸くした。港街へ馬車で1日弱というこの街では、新鮮な魚が手に入りやすいのかもしれない。
「どうかした?」
『ひなみー?』
「あ、うぅん。朝から魚の塩焼きって珍しいと思って」
思わず魚を凝視してしまいましたよ。
でも、我が家はトーストでさっとすませることが多かったかもしれない。お母さんも専業主婦じゃないから朝は忙しかったし。私も大学とバイトだったし。
あぁでも、たまに花が作ってくれていたことを思い出す。9割の確率でスクランブルエッグだったけれど。……お姉ちゃんは卵焼きを作ろうとして失敗しちゃったことをちゃんと知っていますよ。
「ふーん? まぁ、食べて休むか観光するか。今日はゆっくりすればいいよ」
「そうだね。いただきまーす」
『いただきますぽ!』
魚を一口食べて、美味しさが口に広がる。
ゆっくり朝食を食べて始まる1日っていいなと思いつつ、横からロロの『ごちそうさまぽ!』と言う声が聞こえてむせそうになった。
まってまってまって、ロロは今しがたいただきますと言っていたはずなんだけど。
横を見ればロロのお皿は綺麗になっていた。魚の骨も残っていない。向かいに座るイクルを見れば、半分ほど魚を食べているけれど、他は普通です。
……え、どうやって食べたの? そういえばいつもロロがご飯を食べるのとかそんなに気にしたことがなかった。普通に食べていると思っていたのだけれど、そうではないのだろうか。
『どうしたぽ?』
「う、うぅん。ロロ食べるの早いんだね」
『人間に比べたら早いぽ〜!』
そうか、そうだよね。ロロはスライムだもん。すごい高速で食べれるのかもしれないもん。
この議題は次回へ持ち越すことにしよう。そう思っていたのだけれど、直後にデザートを身体に取り込むロロを見て解決してしまった。
そうか、まるのみしちゃうんだ。食べるというよりも、身体に吸収しちゃう感じなんだ。また1つスライムの秘密を知ったような気がします。
そしてそんな私の様子を見て呆れ顔をしている人がいるのは、きっと気のせい。
「……と、そうだ。イクル、菖蒲色草が次の港街にある入り江に生えているんだって」
「街の入り江? そんなところに生えている薬草じゃないけど、誰かに聞いたの?」
「うん。りぐ、っと……神様に、教えてもらったの」
「……ふーん」
ちょっと怪しそうに見てくるイクルだけど「いいよ」とすぐに返事をしてくれた。よかったと安堵しつつ、それならサンダル類も用意しておいたほうがいいかもしれないなと思う。
たぶん港街なら丁度いいものが売っているだろうし、入り江ならばタオル類とかもあったほうがいいかもしれない。
「今日はどうする? 宿で休んでてもいいけど……」
「んと。ロロのおばあちゃんへお土産も買いたいし、街で観光かな? 2人はどう?」
「俺はひなみ様と一緒でいいよ」
『ひなみは優しいぽ! 僕も一緒に観光するぽ!』
「うん、わかった。2人ともよろしくね」
特に問題もなく今日のスケジュールが決まる。
イクルも何かしたいことがあればしてくれていいのだけれど、私の護衛という形で呪奴隷契約をしているので行動するときは必ずついてきてくれる。途中、イクルの気になるお店があれば積極的に寄り道しようとそっと心に誓う私です。
「イクル、あれ可愛いよ……!」
「はいはい」
そんなわけで、ぺろりと朝食を平らげて街へ繰り出した私たち。
港街が近いからなのか、貝殻や珊瑚を使ったアクセサリーや小物類が多く売られていた。欲しい衝動にかられるけれど、明日には港街に向けて出発するのだからここで買うより港街がいいのかな?
雑貨屋さんの次は、可愛い服屋を見つけてまたテンションが上がる。私の服はリグ様が用意してくれるので、基本的にお店で買うことはない。
買うのは雑貨類くらいかなぁ。アクセサリーもそんなにつけないし、髪はリボンがあるし。
『ひなみ、このネックレス可愛いぽ!』
「あ、本当だ。ピンクの貝殻がついてるんだ」
『モモのお土産にいいかもしれないぽ』
「たしかに! モモちゃんならピンク色が似合いそうだね」
なんたって身体もピンクだし、女の子っぽくてすごい可愛いと思う。
どうやらお土産にしようと決めたらしく、いそいそと店員さんへ話しかけているロロ。まだ目的地にすらついていないのに、ロロはいいお兄ちゃんだなぁ。
私もシアちゃんとモモちゃんにはお土産買わないと。お留守番をしてくれているまろには、もちろんとびきり奮発をして。
「私は帰り道か、アグディスでお土産を買おうかな」
『確かに、それがいいぽ。ひなみの旅はまだはじまったばかりぽ〜!』
えいえいおーと言わんばかりにロロが跳ねて応援をしてくれた。なにこの子すごく、可愛いです。
最初はスライムという魔物だったから少し恐怖心を感じてしまったけれど、今ではまったく怖くないし、仲良しです。それに外見も可愛い。
「イクルは何か入り用な物とかないの?」
「んー……特にないけど、あ」
「うん?」
「投擲用の小さい短剣かなにかあるといいかな」
まさかの武器……! 観光なんだからもう少し趣味関連とか、好きな物をあげてくれていいのに。イクルはどこか真面目で、自分のはしゃぎっぷりが申し訳なくなる。
でも、武器は大事ですよね。武器屋も行って、後は……そうだ、お風呂用品のお店があれば寄ることにしよう。イクルはお風呂が好きだから、何か気に入ってくれるものがあるかもしれない。
「武器はアグディスに行ってからでいいよ」
「そう?」
「うん。向こうの大陸のほうが、質のいい鍛冶職人がいそうだから」
「そっか。わかった、そうしよう。じゃぁ、今日はロロのおばあちゃんにお土産としてあげる石鹸と、イクルの欲しい物があれば見よう!」
イクルの手を取って、私は斜め前に見える石鹸屋さんへと入る。一緒にお風呂用品もあるかな? そう思ってイクルも引っ張ってきたけれど、置いていなくて少し残念に思う。
店員さんに駄目元で聞けば、お風呂は一般家庭にないから貴族がくるようなお店にしか置いていないということだった。
そうか、盲点だった。家にはお風呂があるから普通のことだと思ったけど、確かに今日の宿にもお風呂はついていなかったなと思う。大衆浴場か、お湯で身体を服というのが一般的なのです。
『あ、この石鹸オシャレぽ!』
「ん?」
「あぁ、中に貝殻が入ってるんだね」
「こっちは珊瑚が入ってる! 私これにする!」
イクルが1つ手にとって、私に見せてくれた石鹸。貝殻を埋め込む加工がしてあって、海を感じさせてくれる石鹸に仕上がっていた。
隣には珊瑚の石鹸もあり、私はこれをロロのおばあちゃんへのお土産に選んだ。




