9. レベルアップ大作戦 - 4
「いらっしゃいませええぇぇ……」
「こんにちは。随分ぐったりしるね?」
まろの修行から翌日。早朝ランニングと称して庭を5周させられた。辛い。
最初に「10周」と笑顔で言ったまろに、必死で「それは慣れてたら! 順序が大切なんだよ!」と伝えた私の熱意は正解だったようだ。
その後朝ごはんを食べて、私はひなみの箱庭でお店番。
え? まろとイクル? 私の体力作りトレーニングのスケジュールを相談してましたよ。楽しそうに。これはしばらく筋肉痛が続くのを覚悟しなければなりません。
っと、お客さんがきてたんだった。
「ちょっと体力作りをしようと思って、朝から走り込みを少し……」
「あぁ、それで。確かに体力はあったほうがいいからね」
くすくすと笑うイケメン男子のお客さんは、なんだか見覚えが……あっ! 以前お礼に王子の実をくれようとしたイケメンお兄さんだ。黒髪にバンダナを巻いているから、すぐに思い出せた。
まさかまた来てくれるなんて。私の回復薬を少しは気に入ってもらえたのかと嬉しくなる。
「真紅の回復薬が欲しいんだけど、ある?」
「はい、ありますよ。今日はあと70個ありますけど、いくついりますか?」
「ん、全部欲しいな」
……全部?
このイケメン冒険者さんはいったいどれほど無茶な冒険をするつもりなのか。回復薬を大量に買う人はいないので、いったいどんな狩りをしているのか不思議です。
そんなことを考えつつ、全部売ってしまうのもいかがなものかと考える。1人何個まで、という制限を設けようとは思わないけれど、あとから必要な人が来るかもしれないし。
「ええと……50個でもいいですか? さすがにいっきに在庫がなくなってしまうと少し困るので」
「あぁ」
駄目かな? どうかな?
ちらりと様子を伺えば、「それでいいよ」と返事をしてくれた。拒否されなかったことに一安心し、真紅の回復薬を準備する。
結構な量だけど、大丈夫かな? と、お客さんを見ればすべて鞄にしまっていた。え? 鞄のサイズ的に全部入れるのは厳しいんじゃないかと思っていたんだけど。
あ! いっぱい入る魔法の鞄かもしれない。イクルが超絶レアだといっていたそれ。だとしたら、その鞄をもっているお客さんはやっぱりすごい人なんだろう。
あまり詮索するのもよくないだろうし、ここはそっとしておこう。そんなすごい鞄を持っているなんて、他の人に知られないにこしたことはないと思う。
「っと。1,600リルが50個なので、80,000リルになります」
「うん、ありがとう」
「ありがとうございます」
代金を受け取り、なんとなく「今日も狩りですか?」と聞いてみた。
いやな顔ひとつせずに、「そうなんだ」と笑顔を向けられた。
「まぁ、狩りは狩りなんだけど、ムシュバール方面に行こうと思ってね」
「なんと! 長旅ですか?」
「そうそう。のんびり歩いて行くから、結構長旅かも」
「気をつけてくださいね」
「うん、ありがとう」
ムシュバール帝国は、私がいるサリトンより北西にある人間の大陸。私が行くアグディスとは逆方面になってしまうので、もう会う機会はないかもしれないなぁ。せっかく回復薬を気に入ってくれていたのに。
あ、でもまたこっちにもどってきたりもするのだろうか。いまいち冒険者さんの行動がどういうものかわからない。
「じゃぁ、そろそろ出発だから。またこっちにもどってきたらよろしくね」
「はい、ありがとうございます! いってらっしゃい」
「いってきまーす」
笑顔で送り出せば、お客さんも笑顔で手を振ってくれた。
極力怪我をせずに、いい旅になることを祈りつつ。私も頑張ってアグディスに行かねば。
でも、こうやって話をするお客さんが冒険で遠くに行くって不思議な感じ。私はまだまだ強くないけど、がんばろう。まずは体力作りから。
カラン。
「いらっしゃいませ!」
「こんにちは」
「ちわっすー」
女の人と、男の人の冒険者さん。格好を見ると、2人とも剣術師……というやつかな? まぁ、腰に帯剣しているからそう思っただけなんだけどね。
「体力回復薬を10個頼む」
「はい、10,000リルになります」
「サンキュ。この前パーティーを組んだ奴にここの回復薬をもらったんだけど、すっげー美味かったから自分で買いにきちまったよ!」
にっと笑って、親指を立てて「美味い!」と男の冒険者さんが言ってくれた。慌ててお礼を言って、これからもよろしくお願いしますと握手をした。
「でも、味だけじゃなくて効果もすごいのね! 私なんて、気にしてたお腹の古い傷跡も一緒に消えたのよ。もう嬉しくて嬉しくて……!」
「そうだったんですね。喜んでもらえて、私こそ嬉しいです!」
実際に使ってくれた人の話を聞く機会はあまりないので、買いに来てくれたお客さんにこういう話を聴けるのはとても嬉しい。あとは、オネェの人がちょこちょこ買いに来てくれて、いつも重宝してると話してくれたり。
と、不意に男の冒険者さんが大きい盾を背負っていることに気付く。剣で戦いつつ、防御も行うスタイルなのだろうか。1メートルほどの大きさの盾で、私が装備して防御に徹しようとしていた構想と似ている。
「あぁ、この盾か?」
「あっ! すみません、つい。私は戦闘が得意じゃないので、盾を装備したらいいかなって思ったんですよ」
「嬢ちゃんがか? それは無理ってもんだ!」
ドンと、冒険者さんが背中から盾をおろして私へ「持ってみな」と言ってくれた。
優しさに甘えることにして、冒険者さんの持っていた盾を持ち上げ…………られないぞ? おかしいな。ふんっと力を入れてみるが、とても重い。
…………盾ってこんなに重いものだったのか!!
軽いショックを受けつつ、冒険者さんの笑い声が耳に入る。
「ははっ! 盾ってのは、すげー大変な仕事なんだぞ?」
「そうなんですか?」
「そうよ。基本的に重たいし……女の子で盾を持つ子はあまりいないわね。小さいものを持つ人ならいるけれど、戦闘になれていないと扱いにくいの」
「な、なるほど……奥が深いんですね」
でも、女性の意見はとっても貴重だ。やっぱり盾は持たないで、光の狂詩曲のバリアスキルに頼ったほうがよさそうかな。
自分の考えは冒険に向いていないんだなとちょっとへこみつつも、教えてくれた冒険者さんにお礼を言って見送った。今から狩りに行くそうです。
「盾は大変、かぁ」
まぁ、そうだよね。
だってひたすらに攻撃を耐える! 耐える! 耐える! だもんね。
イクルやまろに甘えっぱなしにならないように、がんばらねば。
◇ ◇ ◇
「はっはっ!」
お昼を過ぎて、お店も落ち着いた時間。私は庭で自主的に走りこみを行うことにした。
すでに朝、5周走っているのであまり無理はしないほうがいいとは思うけれど。念入りにストレッチをして、ゆっくり走ることにした。
とりあえずの目安として、3周。たぶんそれ以上は私の身体がもたないとおもう。悲しいけれどこれは事実だと思う。
夕方はまろに特訓をしてもらう予定だし、ゆっくり、でも少しずつペースを上げていく。急激に行うと身体が悲鳴をあげてしまうだろうしと、はやる気持ちを抑えつつも私は頑張ることにした。
「ふぅ……あと、1周」
2周走ったところでかなりくたくたになり、正直寝転んでしまいたいと思う。が、たぶんここで足を止めたら私は走らなくなる自信がある。こんなことにばかり自信をもっても仕方がないのだけれども、こればかりは仕方がない。私クオリティです。
頑張れと呪文のように心でつぶやいて、必死に走る。たかが3周、されど3周なのだ。
やっと走り終えた私は、ぜぇぜぇと肩で息をしつつゴールとしていた家の前でそのまま倒れこむ。予定だったが、ふわりと身体が宙に浮く感覚がして。
イクルが支えて、そのまま抱き上げてくれたことに気付く。
「イクル! ありがとうぅ……」
「自主的に走るなんて、めずらしい。けど、お疲れ様」
「へへ、がんばったよー」
疲れ果ててしまったので、そのままイクルに身体を預けることにする。さっそく甘えてしまったと思いつつも、疲れているからもう今は無理です。また後で頑張る。
だって夕方からはおちゃめ地獄のまろ特訓がまっているのだから。
一つ息をついて、さぁっと頬をなでてくれる自然の風が心地いい。きらきら光る木漏れ日がお疲れ様、頑張ったね! と、励ましてくれているように感じる。
「さてと、ひなみ様は汗でも流しておいで。俺はお店にいるから。あ、昼食は机の上に置いておくよ」
「ん、ありがと」
浴室で下ろされて、イクルは必要なことを伝えるとお店へ向かった。私がお店に出ようとおもっていたのに、疲れていたのを見て気遣ってもらったのだろうなと思う。あまり言葉にしないけれど、こういうことがよくあるイクルはとても優しい。
その分、ちゃんと自分で気付かないといけないプレッシャーもありますけどね!
お言葉に甘えてお風呂に入り、筋肉痛にできる限りならないようにマッサージも。とはいっても、プロでもなんでもないのでただ身体をもんでいるだけのような気がしなくもないけれども。
そういえばこの世界はマッサージ屋さんとかあるのかな? 今度街で探してみるのもいいかもしれない。
葉っぱのオケにお湯をためて、身体を洗って汗を流す。相変わらず可愛いこのお風呂は、私よりイクルのほうが実は気に入っていたり。
ポイントに余裕ができたらお風呂の増築もしたいけど、いかんせんポイントがまったくたりない。第2の箱庭の扉をつけるポイントだってまったくもってたりない。
お風呂の増築はそのあとかなぁとぼんやり考えて、アグディスとつなげることが出来たらいいのに。けど、間違いなくアグディスにいる間にポイントを貯めるのは不可能だ。
箱庭の扉を設置するのに必要なポイントは100,000ポイント。現在のポイントは1,000ぽいんとちょっと。いや、絶望するポイント差!!
姫の加護薬を1個作ると5ポイントもらえるから……え? 2万個も姫の加護薬を作らないといけないの? 死んでしまう! これはデジャヴなのか……!
1つめの箱庭の扉を設置するときも同じような絶望をしたなと思いつつ、私はゆっくり湯船につかった。
まろとの特訓に向けてしっかりお風呂で休憩だ。いや、本当に、まろとの特訓は油断したら死ぬかもしれない。マジで。
そして夕方、鳥たちのチチチという応援を受けながら、私はまろの前に立っている。
正直、恐い。恐怖。だってまろはいったことをすぐ忘れてテンションをあげる。これほど信用なら無い人が他にいようか? いや、いない!!!
たとえ無駄な努力になろうとも、まろに注意事項を話すのはやめられない。
「まろ、最初の5回は1個ずつ、順番に、どこに投げるか言ってから投げてね?」
「わかったのである!」
「その次は、ランダムに投げていいんだけど、絶対に1個ずつね?」
「おまかせである~!」
くっ! なぜまろはこんなにも自信満々なんだろう。昨日あんなに私の注意を無視して氷の塊をぶつけてきたのに……! もう忘れちゃったの? まろ……。
とてつもない不安が私を襲う。が、それをぐっと心の奥底にしまいこんでまろをきっと睨みつける。ようしこい、私の準備はオッケーだ! ということを視線でまろに伝えた。
私とまろの仲良し具合になれば、アイコンタクトくらいお手の物なのです。
「ようっし、いくのである~!」
ヒュンッ!
氷の塊2個を作ったまろが…………え、2個?
「光の狂詩曲! 光の狂詩曲!!」
バンッ!
「痛ッ!?」
なぜか突如氷の塊2個を投げてきたまろ。おかしいな、私があんなにゆっくりまろに話をしたはずなのに。すっぽ抜けてしまったのだろうか?
氷の塊1個はなんとかバリアが間に合ったが、2個目は間に合わず私の肩へ直撃した。
あまりの痛さにそのまましゃがみこみ、かといって手で支えると激痛がはしる。どうしようも出来ずにそのまま地面に倒れれば、心配したまろが私の元まで走ってやって来た。
そのままの勢いで回復薬を私にかけるまろの顔は、こっちが申し訳ないと思ってしまうほど泣きそうだった。
「ひなみ!? ごめんなのである、すごいカモン! って顔だったから、2個投げちゃったのであるううぅぅぅ」
「あはは……大丈夫だよ、まろ。でも、次は1個……だよ?」
どうやらアイコンタクトを上手く受け取ってもらえなかったようだ。加えて私の睨むような視線もいけなかったようだ。まろに挑発と思われるとは。私、挑発できるほど強い子ではないんだけどね……?
回復薬のおかげで傷はすっかり治ったが、朝と昼の走りこみ、今の怪我の衝撃でちょっと立ち上がれそうにない。
イクルもお店だし、体力が回復するまでちょっと地面に寝転がるのもいいかもしれない。だって草が生えてて実は心地いいんです。あ、でも起き上がらないとまろが泣いてしまいそうだ。
そう思いつつも、身体は言うことを聞かなくて。加えてとてつもなく眠い。きっと身体が睡眠を欲しているんだろうな。
どうしようかなーと思ったら、不意に身体が宙に浮いた。
「……え?」
「ひなってば、急に無茶するんだから。大丈夫?」
嘘。
そんな馬鹿なと、私を軽く抱き上げた人を見る。もう信じられなくて、信じられなくて……でも、何か言いたいはずの私の口は何も言葉を発することができなくて。
頑張って「神様」とだけ言葉を紡いだけれど、私の身体はそのまま眠りに落ちてしまった。
神様の出番は無いはずだったのに勝手にでてきました。
どうしてこうなった!今後の予定が全てくるってしまった。。。
きっと昼間イクルがひなみを抱き上げた+ひなみが割りと大きい怪我をしたから出てきてしまったんだ。
書いていると考えていたものと違う方向にいくことが多い最近です。
あ、そういえばあらすじを修正しました。
あとはタグも修正しようか悩み中。こんなタグいいんじゃなーい?みたいなのがあれば、是非教えてください~!
溺愛タグをいれたいけど神様あんまり出てこないから悩み中。いや、今日の更新で勝手に出てきてしまいましたが……




