表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
71/175

7. レベルアップ大作戦 - 2

いっくるんるんっ!(何

 視点:イクル



 シュッ! 

 風を大きく切る棍の音が深い闇に溶け込んで、オークを打ち倒す。さらに回転させながら棍を振れば、チリッと炎が舞い、残り2匹のオークへ止めをさす。

 闇に浮かぶ炎は美しく、暗く沈んだ森を照らしだした。



「ふぅ……」



 ひとつ深呼吸して、ゆっくり前を見る。7匹いたオークはすべて倒したが、まだ後ろにハイオークが1匹控えている。オークの上位種にあたるそれは、武器の扱いに長け多少の知力を持つ。とはいえ、相手が自分より強い場合に逃げる判断をする、オークを身代わりや囮にする程度だけれども。

 ぐっと棍を握りなおし、ハイオークへ視線を向ける。



「あまりに炎を使うのは癪だし、普通に倒させてもらうよ」

『グガガ』



 風魔法をそっと足に纏わせて、身体を軽くする。

 スキルや魔法は基本的にステータスに載るが、こういった簡単な使い方程度であれば記載されない。そのためか、こういった使い方ができるということを知る人は多くない。

 冒険者のくせに知らないなんて、馬鹿だなと思った。師匠が言うには、「想像力が乏しい」からだそうだけれど……知ったことではない。



「師匠、か。嫌なことを思いだしたな……」



 まぁ、不意に頭に浮かんでしまったのだから仕方ない。今は切り替えて前方のハイオークを倒すことに集中したほうがいいだろう。オークよりも強いため、1~2撃程度では倒せない。

 でも、俺にしてみれば強敵ではない。瞬殺ができないだけだから、まぁ問題ない。戦闘スタイルはスピード重視。それゆえに、攻撃力はそこまで高くはない。

 こればかりは、自分のスタイルだから仕方がないけれど……もっと強くなれたらと思うことはある。

 トンと地面を蹴り上げて、ハイオークとの距離を詰めそのまま棍で一撃を入れる。首を狙えば、軽い俺の攻撃でもそこそこの威力になる。

 棍を打ち込んだ反動でそのまま自分の身体を空に舞わせて、頭上からさらに棍で追撃を加える。

 あまり使用されない武器ではあるが、使いこなすことができれば戦闘の幅はかなり広がる。刃がないので切るということはできないが、棒になっているため身体の動きはかなり自由にコントロールが可能だ。力を入れれば反動で自分の身体を投げることもでき、重宝する。



「さて、トドメだ」

『グガアアァァ!!』



 時間にしたら、3分程度か。まぁこんなものかと思い、身体を伸ばす。口から欠伸がもれて、少し疲れたかなとぼんやり考える。

 ここはひなみ様の家がある迷いの森からさらに1時間歩いた奥地。おそらく街のギルドも情報を掴んでいないと予想するが、ギルドに所属していないし面倒なので報告を行う予定はない。

 ひなみ様の家は迷いの森。そしてそこからさらに1時間歩いたここは、深き迷いの森。



 迷いの森には、3つの段階がある。 

 初期段階の迷いの森。

 2段階目の深き迷いの森。

 最終段階の深遠なる迷いの森。



 ひなみ様の家があるのは、初期段階の迷いの森。そしてここも含めた深き迷いの森は、冒険者がよく狩りに訪れる。とはいえ、そこそこ経験をつんだ冒険者でなければ深き迷いの森へはこないけれど。

 そして深遠なる迷いの森は、基本的に誰も入ろうとはしない。力試しをしようと何人かの冒険者が入ったという話をきいたことはあるが、帰ってきたという話は聞いたことがない。

 どの程度の力があれば入れるのか予想もつかないが、もしかしたら勇者の……アルフレッド様のパーティーであれば生きてもどることも可能かもしれないと思う。まぁ、なんの根拠もないのだけれど。

 なので、迷いの森情報は基本的にギルドが全て把握してはいる。が、迷いの森は突然現れたり消失したりを行うためどうしても漏れはでる。特に、あまり人が行かないような場所であればなおのこと。



「そもそも、俺がここを見つけたのも偶然だし……」



 ひなみ様のためにククリの木を探して迷いの森を歩いているとき、偶然……森の奥がこの深き迷いの森だということを知った。それから、自分のレベルを上げるためにこっそり夜中に訪れた。

 とはいえ、移動時間だけで往復2時間。睡眠時間も必要なので、狩りの時間は30分から1時間程度と決めている。毎日という訳でもないので、そこまでレベルが上がっているわけではない。

 きょろきょろと辺りを見渡して、何か珍しい植物があればいいなと思う。ひなみ様は薬術師だから、薬草の類が多くて困ることはないだろう。まぁ、少しあれば無限に増やしてしまうというありえないスキルを持ってはいるけれど。



「っと、次はレッドウルフが……10匹か。少し多いけど、まぁ大丈夫かな」



 風が魔物の気配を伝えてくれる。探索スキルは本当に自分と相性がいい。スキルの届く範囲はすべてが自分のテリトリーだと思っても差し支えはない。

 まぁ、圧倒的な実力差があればその限りではないけれど。

 ひなみ様と〈アグディス〉に行くにあたり、自分のレベルを最低でも25くらいにはしたほうがいいと考えた。この大陸よりも自然があるため、魔物の数や種類が多い。ひなみ様を護れるように、強くならないといけない。

 護衛として呪奴隷契約を行ったのに、小さな主人1人護れないでは話にならないからね。

 本当は呪のまま、のんびり暮らせればいいかとも思ったけれど。まぁ、自分で呪を解除しようと思ったのだから契約中は頑張るしかない。



「さて。距離にして……70メートルってところかな? 棍で叩くまでもない」



 右手に持っていた棍を大きく振り上げれば、炎が空を舞う。龍となったそれは、真正面からレッドウフルへ躍り出て喰らいつく。

 炎を使うのはなんとなく嫌だったが、使わないのはそれもそれで面倒だったので使うことにした。

 まったくもって、棍の性能がよすぎて酷い。ひなみ様がぽんと大金を出して購入した棍は驚くほど自分にじんだ。まるで自分のために作られたのだと思ってしまうほどに。いや……それはあながち間違っていない、というよりおそらく俺の為に作った棍だろう。

 何せ、この棍の製作者の名前が……師匠の名前だったのだから。



 《疾風の棍》

 製作者:ハル・スズハナ

 素早く振ることで炎を生み出すことが出来る。



 はぁと溜息をついて、棍をくるくると回す。

 ありえないほど、自分になじむ。棍の重さも、長さも、太さも、すべてが。いっそ気持ち悪いほどに自分になじむのだ。いや、もはやこれは気持ち悪い域を超えている。

 そんなことを考えていれば、なんだか寒気に似た何かが身体を襲う。師匠のことを考えるのはやめよう。自由人すぎて何を考えているのかまったくわからない人だし。

 何でこんなことを思い出すんだと自分を責めるも、この棍は重宝するしかないのでやるせない気持ちになる。



「そろそろ帰らないと。レベルはー……丁度上がった、か」



 〈 イクル - 呪 〉


 19歳

 Lv. 26


 HP 3,093/3,093

 MP 1,821/2,041


 ATK 624

 DEF 499

 AGI 749

 MAG 384

 LUK 20


 〈スキル〉

 風魔法 - 探索


 〈状態異常〉

 ステータス値減少

 攻撃魔法使用不可

 猫舌



 これならまぁ、アグディスに向かっても問題ないかな。

 問題はひなみ様だ。確か今日の昼間にレベルが5に上がったと言っていたけれど、所詮5レベル。観光に行くのであればまったく問題はないんだけどね……目的は女神捜し。いくらレベルが高くても高すぎるということはないように思う。

 そもそも、オレが見たひなみ様は平均よりもステータスが低かった。とすると、レベルが5になってもそんなに数値が上がっているように思えない。嫌な予感ほど的中すると言うけれど、こればかりは杞憂であればいいと思う。



「そういえばLUK値だけ高かったっけ。次点がMAGだったはず……」



 とはいえ。

 そもそもMAG値が高めでも攻撃用のスキルも魔法もないひなみ様には意味がない。LUKに関しては、基本的に高い人がいないため何が起きるのかはわからない。

 まぁ、ないよりあったほうがいいとは思うけれど。

 ぐっすり夢の世界にいるだろうひなみ様を思い浮かべ、しかしでるのは溜息。自分に護りきることができるのか……いや、護らなければいけないのだけれども。

 あぁ、なんだか憂鬱だ。



「早く家に帰って、お風呂に入ろう……」







 ◇ ◇ ◇



 翌日、倉庫を整理しながら今後のプランを頭で練る。

 アグディスには行ったことがないうえに、獣人や精霊がおおく純粋な人間はあまりいない。ゆえに、人間はあまり歓迎されないし、なじみにくい。

 きっと能天気なひなみ様はそんなことを考えてはいないんだろうなと思うと、どっと疲れた気がした。



「イクルー?」

「ん? どうかしたの?」



 軽やかな足取りでひなみ様が地下倉庫へ下りてきて、袋いっぱいの姫の加護薬を差し出してきた。あぁ、回復薬(ポーション)を作ったりしていたのか。

 受け取って倉庫へ置く。俺が来たことにより、雑然としていた倉庫はその影をなくし綺麗に整頓されている。どの位置にどの回復薬(ポーション)を置いておくかもしっかり決めてあるので、使い勝手が悪くなることはないだろう。

 というか、ひなみ様は片づけが苦手なんだろうか。別に部屋は汚くないし、むしろ綺麗だ。ただ倉庫だけが雑然としていた。

 まぁ、そういった生活をしていなかったからどうしたらいいかわからなかっただけかもしれないけれど。



「ありがとう。イクルのおかげで倉庫がすごい快適だよ!」

「ひなみ様が放置してたからでしょ……」

「……あはは」



 笑ってごまかされた。

 まぁいいけど。そんなふうに思っていれば、ひなみ様に「あ、また呆れ顔された!」と言われる。別に意識して表情を作っているわけではないのだけれど、割といつもこんな表情なのだから仕方がない。

 そんな俺と違い、ひなみ様はいつもにこにこと笑顔でいる。なんだか顔の筋肉が疲れそうな気もするが、笑顔でいることはひなみ様の長所の1つでもあるのだろう。

 しかしそんなことを考えても見れば、自分以外の人は基本笑顔だったことを思い出す。ということは、自分が顔の筋肉をほかの人に比べて動かさないだけかもしれないが、まぁいいや。

 アグディスに行くにあたって、お店のほうも考えないといけない。方針はひなみ様に決めてもらって、何か必要な手配があれば助言するなり用意するなりしよう。

 まろは……おそらく留守番だろう。ひなみ様のスキル外では精霊化をすることができないため、雪うさぎの姿になる。しかしそうすると目立ちすぎる。

 最悪狙われて面倒事に巻き込まれる恐れもある……うん、置いていこう。そうしよう。



「アグディスにいくとなると、レティスリール様も捜すし結構な長旅だよね?」

「そうだね」

「私欲しいものがあるんだよ! すっごく役にたつと思うんだけど」 



 不意にでたひなみ様の言葉。あまりなにかを欲しいと、普段は言わないので少し驚く。まぁ、今のひなみ様ならたいていのものは買えるだろうし、薬草なら俺が採取に行けばいい。

 特にそんな問題があるわけではないだろう。まぁ、ひなみ様のすっごく役にたつ……は、あてにならないだろうけど。

 何が欲しいのか問えば、とてもいい笑顔で高らかに宣言した。



「普通のかばんなのに、たっくさんのアイテムとかを収納できる万能かばん……!!」

「はい、却下。明日は買出しにいくから、まろに店番頼んでおいてね」

「ちょ、なんでー!?」



 きらきらと目を輝かせて何を言うのかと思えば。

 そういえば買い物にいったときはかばんをよく見ていた……気がする。

 魔法の鞄(マジックバック)なんて、通常では手にはいらない。

 これは通常のかばんに魔法をかけたものと言われているが、詳細は不明。作れる者がいるという噂が流れたこともあるが、そんな人はいないだろう。

 まれにダンジョンで発見されるというこの魔法の鞄(マジックバック)は、とてつもない高値でオークションに出される。もしくは王族や貴族が直接買い取る。間違っても、町のかばん屋に売っている代物ではない。

 効果はひなみ様が言ったとおり、かばんの容量以上に物を収納することができる。限界があるのかないのかは、物流じたいがほぼないといっていいので不明。

 冒険者ならば誰もが憧れるアイテムの1つだ。

 後は商人も喉から手が出るほど欲しいというが、よほど成功していなければ高すぎて購入は無理だろう。もちろん、ひなみ様でもまだまだお金が足りないだろう。

 階段を上がりリビングに向かいながら、理由をしつこく聞いてくるひなみ様は少し微笑ましいけれど。「高くて、とてもじゃないけど買えないよ」と言えば驚いて目を見開いていた。

 いったいいくらで買う気だったのか知らないけれど、おそらく桁がまったく違うだろうなと予想を立てた。



 さて、これからアグディスに行く計画を立てないと。

久しぶりのいくるんでした。

気付いたらまろ嫌いになっていたイクル…なぜだ…ざわ

一応明日も更新予定です!がんばるよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ