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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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5. イクルの服完成

 独特な紙のにおいと、小さな灯り。

 まだ午前中だというのに薄暗い店内は、独特の世界を作り上げているように感じる。それは不安ではなくて、どちらかというと優しく包み込まれているような、そんな安心感。



「あぁ、いらっしゃい」

「こんにちは」



 どこかデジャヴを感じる挨拶をしつつ、現れたのはこのお店の店主。

 長い髪を丁寧にまとめて、落ち着きをもった男性。深緑のローブを軽く羽織、何冊か本を手に持っていた。

 そして私は相変わらず、いつもの可愛らしい……神様にいただいたワンピース姿。今日も自動で編み込まれた髪が私の肩を撫でる。

 後ろにはイクルが険しい顔をして立っているため少し冷や汗がでそうな気がしますが。ラフな服装のイクルですが、実はこの後に頼んでいた服、もとい装備を取りにいきます。

 あれからもう2週間経ってしまったとは、時間が過ぎるのははやいのです。



「またくるって言ったのに、遅くなってしまって……すみません」

「いいえ。そもそも、この店はあまり開いていないですからね」

「あはは……」



 そう、そうなのです!

 ひなみの箱庭(ミニチュアガーデン)の隣にあるこのお店、初めて行った以来開いているところを見たことがない。いくら規定がないとはいえ、こんなにも閉まったままのお店があるものかと思った。



「実は精霊さんに会いたくて」

「あぁ。……手紙を預かっています。実は今、出かけていましてね」

「え、そうなんですか?」



 差し出された白い封筒を反射的に受け取り、まじまじとみる。あの精霊さんは、確か私の手のひらサイズくらいの大きさだったはず。私のために大きい紙に書いてくれたんだろうか。そう思うと優しさにきゅんとする。小さく可愛い精霊さん。



「ありがとうございます。確かに受け取りました!」

「いえいえ。とはいえ、アグディスへ行くと言っていたのでしばらくは帰ってこないでしょう」

「えっ!? そうなんですか……? 私たちもアグディスに行こうと思っているんです。もしかしたら、向こうで会えるかもしれないですね」



 不意に告げられた行き先に、内心かなり驚きつつも精霊さんの行き先を聞いてやっぱりレティスリール様はアグディスにいるのでは……と、期待にあふれた。

 手紙に視線を落として今読もうかと悩んでいると、後ろから頭をぽんとされた。



「イクル……?」

「用事が済んだらもう行くよ」



 うわ、イクルさんが超絶不機嫌だ。

 どうしてだか、この本屋さんをあまり好きではないようで……いや、まぁ。最初の印象が最悪だったんだよね。イクルの警戒度合いすごかったし。

 それでもこうして一緒についてきてくれることに、申し訳ないとおもいつつ少し嬉しく思った。



「ふふ、怖いですねぇ。取って喰ったりしませんよ」

「あぁっと……すみません」



 そんなイクルを見てもまったく不快な様子をみせない店主さんは、心が広いと思う。まぁ、お客さんだから……と言われればそうだけど、今日は何かを買う訳でもないし。

 また本を全部読み終わったら何か買いにこようと心に誓う。

 早く読めればいいのだけれど、バイトばかりであまり読書をしなかった私は、本を読むのにかなりの時間を要する。速読を行う人は人間ではないのだろうかと思うくらい。



「じゃぁ、また来ますね!」

「はい。まぁ、あまり開いてはいませんが……」

「あはは。手紙、ありがとうございました!」



 再度手紙のお礼を伝えて、イクルとともにお店を出る。

 まだ不機嫌オーラを出しているけれど、イクルがここまで敵意的なものをむき出しにするなんてちょっと珍しいなぁと思う。

 そのまま裏通りから小通りに出て歩いていると、前方にジュース屋さんが目に入った。新鮮なフルーツを絞り、生ジュースとして販売しているようだった。

 半歩くらい斜め前を歩いているイクルの袖をひっぱり、ちょっと待ってと意思を伝える。



「ん? どうしたのさ」

「生ジュース飲みたい! 買っていこうよ」

「ん、まぁいいけど」



 あっさりとイクルの了承を得て、小走りでお店の前へ。

 店先には色とりどりのフルーツがたくさんあり、目移りしてしまう。りんご、オレンジ、ぶどう、いちご、それからマンゴー……かな? 自分のはいちごにしようっと!



「おじさん、いちごと……イクルは何にする?」

「じゃぁ、ぶどうかな」

「まいどどうも! すぐに絞るからね」



 お金を払って、お店のおじさんから絞り立ての生ジュースを受けとる。ちょうど店先に2人掛けのベンチがあったので、そのままイクルと座ってのんびり休憩する。

 こくりと一口飲めば、甘酸っぱいいちごが口いっぱいに広がった。ふわぁ、これは幸せな味だ。

 隣でぶどうジュースを飲んでるイクルをチラ見すれば、特に感動的な表情をしてはいないようだった。



「ねぇねぇ、イクル?」

「ん? どうかした?」

「いやぁ、イクルってあの本屋さん……すごい嫌い? だよね??」



 勇気を出して聞けば、イクルは「あぁそんなこと……」とあきれた顔をした。



「あ、いつものイクルっぽい」

「何さ、それ」

「いやほら、ずっとぴりぴりしてたから……あはは」

「あぁ、そのこと。まぁ、ちょっと気に喰わないだけだから気にしなくていいよ」



 むむむん。なんだか聞いてほしくなさそうなオーラをかもしだしてるなぁと思いつつ。ちょっと気に喰わないのかそうなのか。まぁ、人間誰しも相性はあるし……しかたがないのかなぁ。

 いろいろと考えて、あーでもないこーでもないと味わうことなくジュースを飲んでいたらまた頭にぽんとした優しい感触が。犯人はイクルだ。



「悩み過ぎだよ、ひなみ様」

「いやぁ、気になってさ……」

「まったく、仕方ないね。あの時……もらった俺の本、覚えてる?」



 イクルのもらった本……?

 そういえば、確か1冊イクルも受け取っていた。そして私はそれが何の本か把握していない。その時にもらった本に何かあった、ということかな?

 もしかして呪われた本だった……とかじゃないよね? 実はどんどんやつれていくとか、実は本とみせかけて白紙だったとか!? あ、これだといじめか。



「ひなみ様には、なんの本か伝えてなかったね。あの時もらった本は……俺を捨てた奴が書いた本」

「えっ!? 捨てた奴……!?」



 思ってもみなかった展開に、私の頭にはハテナマークが飛び回った。イクルを捨てた……? 両親とか、恋人とか、そういった立ち位置の人だろうか。

 というか、こんなジャニーズ的イケメンを捨てる人がいることも驚きだけど、でも、きっと辛いことがあったんだろう。



「まぁ、大げさに言ったけど別にそんなたいした話じゃないよ。俺に棍や魔法とか……そういったことを教えてくれた師匠だよ。ある日突然いなくなった、それだけ」

「イクルのお師匠様? ある日突然? 理由無くいなくなったの?」

「そう。朝起きたらいなかったよ」

「ええぇ……それは恨むね」



 まさかイクルにお師匠様がいたとは!

 というか、お師匠様なぞの失踪事件なんじゃないだろうか。朝起きていない、ということは……自分の意志で出て行った可能性が濃厚な気がするし。

 というか、無言で出て行くとは何事か……! ちょっと、いや、かなり酷い! 会ったこともないイクルのお師匠様に怒りが込み上げてきた。私は自分のこと以外では、結構怒りやすかったりしなかったり。

 どんな人なんだろう、イクルのお師匠様。そもそも人付き合いをあまりしなさそうなイクルが師匠と認める人……ってことは、かなりすごい人なのではないだろうか。



「気になってますって、顔に書いてあるよ」

「あれ、私ポーカーフェイスとくいだったはずなのに」

「なに言ってるのさ。まぁ、人間としてはどうかと思うけど、技は世界一だったと思うよ」

「おおぉぉぉ!? すごいんだ……!」



 いや、まって、それよりイクルが「世界一」と言った。べた褒めじゃないですか。まさかイクルのデレがこんなところで出るとは思わなかったよ……!

 そんなことを考えていれば、私の様子を見ていたイクルが少し笑った。どうやら私の百面相を見て笑ったようだ。失礼な!

 でも、さっきまでの不機嫌さはどこかにいってしまったようで安心です。



「さ、そろそろ行くよ。これから服、取りに行くんでしょ?」

「うん。行こう!」



 なんだかぎすぎすしてた空気がなくなって、私の足は羽根のように軽くなったような気がする。スキップをして通りを進んで行けば、イクルから「ちょっと、恥ずかしいことしないでよね」と小言が飛んできた。しかし嬉しい気分なので、そんなことは気にしません!

 なんだかイクルとの距離が少し縮んだ気がしたのは、私の思い過ごしではないはずだ。たぶん。







 ◇ ◇ ◇



「あーもう! やぱりイイ!! さすが私のデザインね!」

「うん、いいよイクル! すごく似合ってる!」



 さっそく服を取りに行き、イクルに着てもらえばお姉さん大絶賛。もちろん私も大絶賛です……!

 すらりとしたイクルだから、服も体のラインが出ているもの。私は特にデザインの指定はしなかったけれど、そこはさすがデザイナーさん、完璧です。というか、余計なことを言わなくてよかったなと思った。

 イクルが身にまとってる服は、白と緑を基調とした服。オーダーメイドなだけあり、細部のデザインがとても細かくなっていた。ハイネックになっている上着は気軽に脱ぐこともできるし、腰に巻き付けることも可能なデザインになっていて、実はそれも狙いだとはお姉さんの言葉。

 膝丈のブーツはしっかりと作ってあり、棍を振る際に下半身かぶれないように工夫もされているらしい。腰には斜めに小さめの鞄がついており、回復薬(ポーション)をいれるのにちょうどよさそうだ。



「もっとラフなのでもいいのに」

「何を言ってるんですか……! イケメンは国の宝ですよ! 服のデザインだって大切なんです。いいですか、イクルさん? そのスラッとして、引き締まった筋肉。そう、女子のときめき度ナンバーワンの細マッチョタイプです! これはイケメンであることの三大要素の1つです! 戦うときにもアピールするために、袖口部分にはクロス状に長く細い布がついていて、戦闘中に宙返りをするとシルエットが綺麗に見えるのよ!」

「…………」

「あ、そうなんですね。でも、すごい素敵なデザインで私はとってもいいと思います!」



 とても熱く語ったお姉さんに、イクルはノーコメント。いや、結構な迫力があったから誰でもそうなるかもしれないけれど。あきれ顔を通り越して嫌そうな顔をしていた。

 しかし戦闘中に服が美しく見えるデザインとか、さすが異世界だ。日本とは基本的にデザインの概念が違うのかもしれない。あってダンサーとかの衣装……だろうか。

 というかお姉さんの変貌ぶりに驚いたよ。頼んだときはここまで熱血な人ではなかったのに。

 ……でも、イクルの似合いぶりを見てしまえばそれも仕方が無いかもしれない。



「ひなみ様……」

「ん?」

「ん、服。ありがとうございます」

「えっ! いや、ううん、すごい似合ってるし、よかったよ!」



 イクルが改めて私にお礼を伝えてくれた。いつものイクルと少し違うから、なんだか緊張してしまったよ!

 でも、ちょっと嬉しそうだし。どうやらイクルも気に入ってくれたようでよかったと一安心。それを遠くから見ているお姉さんもうんうんと満足そうにしてくれていた。



「ようし、今度はまろにお披露目だね!」

「え、別にいいよ。それに、狩りにいったりするとき以外は普通の服で十分だし」

「いいえ、だめよ!! イケメンは目の保養だもの! あ、そうそう。これは大きめの鞄ね。あと私服用に何着か作ったからプレゼントするわ」



 そう言って、頼んでおいた鞄を受け取る。服と同じデザインになっていて、イクル専用だ。

 それからプレゼントと渡された服は、確かにイクルに似合いそうなものばかりだった。お姉さん曰く、イクルの服作りが楽しくて作り過ぎてしまったらしい。



「ありがとうございます。今度、また買いにきますね!」

「ええ、楽しみにしてるわね。ありがとうございました」



 にっこりといい笑顔満開のお姉さんに見送られ、私とイクルはお店を後にした。

 帰り道にイクルをちらちら覗きみれば、呆れ顔をされた。

 だってすごく似合ってるんだから、みたくなるのですよ。

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