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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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3. スラム街の壁画

『スライム街、もといスラム街へようこそぽ!』



 …………え?



「これって、どういうことなの?」

「ん?」



 ばんぱかぱーん! と、効果音が鳴り響いている錯覚におちいった気がした。

 ロロがスラム街の前に立ち、私とイクルを迎え入れてくれたのだ。

 とはいっても、そこは私の想像とは大分かけはなれたものなのですが。意味がわからずイクルを見れば、丁寧に理由を教えてくれた。



「あぁ、ひなみ様の世界にはスラムがなかったの? もともとは、スライム街っていう看板があったんだけど、『イ』の部分が壊れてね……」

『それを見たみんなが、スラムって略すと可愛いねってなったぽ!』

「なるほど……?」



 つまりは、こう。

『スライム街』という看板があった。

 しかし看板の『イ』の文字だけ壊れてしまった。

『スラム街』という看板になった。

 そしてそのままスラムと呼ばれるようになった、と! そういうことなのかっ‼︎



 スラムっていうから、家もお金もない人たちの溜まり場……だと思い込んでいました。いい意味で裏切られてよかったけれど。

 シアちゃんがスラムに行かないほうがいいって言ってたのは、スライムが魔物だからかな?

 とりあえず、安心したので正面からスラムを見渡せば、そこはまるで一面のスライム畑だった。

 まず、スライム街なので建物のサイズが小さい。それでも、スライムよりは大きめにつくられてあるためかかがめば入れる程度の大きさはあります。どうして人間の街とスライムの街が合体しているんだろう……?



「この街には、調教術師と召喚術師の両職業を兼用している学校があるんだよ。俺たち人間よりも、スライムのほうが詳しい部分もあるからね」

「なるほど! スライムの学校があると。でも、スライムって魔物……なんだよね?」

「ここのスライムは、特殊魔物だよ。まぁ、人間に危害を加えることはないから安心しなよ」



 とくしゅまもの、とな? 頭に疑問符を浮かべれば、イクルが「家に帰ったら説明するよ」と言ってくれた。ありがとうございます、イクル先生。いつも助かっております。



 ロロの後に続いてスラム街を進んでいけば、そこは本当可愛いファンタジーだった。

 住居がなぜかきのこ型の家! お店は人間もくるためか、室内ではなくほとんど外にでているカウンター式! そしてところどことにスライムの像が建っているではないですか!



「うぅん、可愛くてくせになりそう!」

「…………」



 ちょ、コメントが欲しいですイクルさん。

 きょろきょろしているのは私だけで、ロロはまっすぐ家に向かっている。イクルにいたっては興味がないのかどこも見ていないような気がします。なんてこった。いったいイクルの興味は何に向けられるのだろうか。

 っと、そんな阿呆なことを考えていれば、目的地……ロロの家についたようだ。

 そこにはやっぱり可愛いきのこ型の家があって。ロロが『ただいまぽ』と家に入れば、ロロより一回り小さいピンク色のスライムが飛び出してきた!!



『お兄ちゃんおかえり~!』

『今日はお客様をつれてきたぽ! 回復薬(ポーション)をくれたひなみさんとイクルさんぽ!』

『えっ! あの美味しい回復薬(ポーション)の!?』



 とっても驚いている小さなピンクのスライムは、どうやらロロの妹のようだ。てっきり調教術師の冒険者さんやその妹さんだと思っていたので、私のほうが驚きだ。



「はじめまして。私はひなみだよ、よろしくね」

「……イクルだよ」

『はじめまして。妹のモモです! 回復薬(ポーション)ありがとうございました。とっても助かりました!』

「いえいえ、お役に立ってよかったよ」



 なんと礼儀正しい子なのか……! スライムの魔物といっても、これではなんら人間と変わらないなと思う。見た目が違うだけで、言語も同じみたいだし、生活だってみたところ私たちと同じだ。

 スラム街に入って5分ほどあるいたところにあるロロの家は、しゃがみながら中に入ると広いリビングだった。梯子がついていて、きのこのかさの部分をロフトにしていた。

 私の家も切り株で可愛いけれど、こういったきのこの家も可愛い。うん、この異世界〈レティスリール〉は何かと可愛いものが多いのです。



『お茶をどうぞー』

「あ、ありがとう。そうそう、これ……お土産なの。よかったらもらって?」



 ティーカップにお茶を淹れてくれたモモちゃんに、先ほどお店で購入した石鹸を渡せば、顔が綻んだ。どうやら嬉しかった様で、ぴょんぴょんとその場ではねている。



『ありがとう! 開けてもいいですか?』

「もちろん。気に入ってもらえるといいんだけど……」

『せせせせっけんだ! すっごい可愛い! ありがとうございます、大好きなんです石鹸!』

「よかった!」



 どうやら無事に気に入っていただけたようで、一安心です。ぴょんぴょん飛び跳ねていた高さが一気に倍ほどになった気がしますが、私はなにも見ていません。スライムすごい……!

 私の中でスライムイコール石鹸! という図式が出来上がったが、異世界豆知識として私の知識に詰め込んでおこう。

 モモちゃんときゃっきゃ女子トークをしていれば、隣ではイクルとロロが男トーク? をしていた。ロロ君が戦い方のコツをイクルに聞いているようだ。

 平和に暮らすのが一番だけど、やっぱり魔物のいる世界だとなかなかそうはいかないよね。死なないためには、きっと強くなるのが一番いいんだろう。と、レベルの低い私が言うのもあれですが。



『あ、壁画見るぽ?』

「うん、見たい! 確か近所にあるんだよね?」

『そうぽ! 行くぽ~!』



 そうそう。お茶をしつつ話に花が咲いてしまったが、本来の目的はレティスリール様の壁画を見ることなのですよ。ロロ君がモモちゃんに『出かけてくるぽ』と言い、壁画を目指すために出発です。

 壁画、というと。なんとなく遺跡を思い浮かべてしまうのだけれども。ロロ君の家から数分歩いた先にあった“壁画”は、壁画というよりも、石碑に近い感じを受けた。

 スラム街の中心に、その石碑は建っていた。描かれた絵は、まさに夢で見たレティスリール様と特徴が一致していた。ふわふわの髪の毛の、女の子。

 大きな絵と、横には何か書かれているようだった。



「へぇ、こんなものがあったなんて知らなかったよ」

『これはスラム街の宝だぽ! レティスリール様は平和の象徴ぽ』



 イクルとロロ君の会話を耳にいれつつも、私は素敵な壁画を見て、横に描いてある文字を読んでいく。



「なになに……? 『レティスリール、〈アグディス〉の大地で引きこもり中』? え、ということはアグディスに行けば会えるのかな?」

「ひなみ様……?」

「ん? なに?」



 驚いた顔をしたイクルと、ロロと目が合う。

 どうしたのだろうと思っていれば、イクルが慌てて私の手を掴み走り出した。その前をロロ君が先導した。どうしたのだろうと思いつつ、とりあえずロロ君の家に帰ってきた。この間わずか1分。



「はぁはぁっ…… いきなり走らないでよイクル。びっくりしたぁ」

「ひなみ様、自分が何をしたかわかってないでしょう」

「え? 私何かしちゃった……?」



 がしっと肩をつかまれて、イクルがいつもより真剣な表情で私に問いかけてきた。隣のロロ君も、『あれはびっくりしたぽ~』と、驚きというよりも若干はらはらしているような気がする。



「そうだね。ロロ、このことは内密に」

『もちろんぽ!』

「じゃぁ、俺とひなみ様は帰るから……」

「えええぇぇ!? まだちょっとしか見てないけど……はい、帰りましょう!」



 すぐに帰ろうとするイクルにまだあまり見ていないと伝えれば、にっこりと恐い感じの笑みを向けられたのですぐに家に帰ることにしました。

 今は逆らってはいけないときなのですよ。



「んと、また遊びにくるね?」

『いつでもどうぞぽ! 気をつけて帰ってぽ~!』

『私も待ってますー』

「うん、それじゃぁまたね!」





 ◇ ◇ ◇



 なんてこと……! まさかそんな展開だったなんて。

 でも、ちゃんと考えていれば私にもわかる簡単な問題だったのだ。



 ひなみの箱庭(ミニチュアガーデン)へもどり、箱庭の扉をくぐって家へともどる。そしてリビングではとまらずに、私の部屋までやって来た。

 イクルがそのまま後ろ手で鍵をかけたところで、私もことの重大さにやっと気付いたのだ。



「自分が大変なことをしたって、気付いてる?」

「うん、そうだね。今さっき、気付いたよ……」



 そう。

 問題とは、私が石碑に描かれていた日本語(・・・)を読んだことだ。

 この世界の文字は、なんて書いてあるかわかるし、書くこともできる。ただ、普段意識をしているわけではないので、私は石碑の文字が日本語であったことをスルーしてしまったのだ。



「私が、文字を読めたから……だよね?」

「あ、今日は理由がわかったんだ」

「わかるよ!」



 絶対気付かないと思ってたふしのあるイクルの言葉にちょっとショックを受けつつも、素直に頷いた。

 イクルの説明によれば、レティスリール様関連の遺物に添えられていることが多いそうだ。ただ、それが文字である確信を得られるものが居なかったためあやふやなままだそうだ。

 でも、あれは日本語だった。英語とかではないし、日本人が書いたのかな……?



「あれは、私の国の言葉だよ。だから読むことができたの」

「ひなみ様の……? それじゃぁ、ひなみ様のような存在が過去にも居たってことか」

「それは、わからないけど……」



 ほんの少し、イクルの言葉にちくりと胸が痛んだ気がした。

 いやいや、私は望んで神様の玩具になったのです。過去に何人か似た境遇の人がいたって気にしません。

 とりあえず、この日本語を書ける過去の人たちのことはおいておくとして。今は石碑に書かれていた内容のほうが大切だと思うのですよ!ぶんぶんと顔をふり、両手で頬を軽く叩いて気合を入れる。



「イクル、アグディスに行こう!」

「わかったよ」

「ふおっ! あっさりオッケーするね?」



 本で見た地理の記憶をたどれば、アグディスは島国だったはずだ。ここからだと結構遠いため、時間も掛かるし行くのもとても大変だろう。なので、そう簡単にイクルのオッケーが出るとは思わなかったのですが……特に悩んだりもせずにいい返事をいただけた。



「ひなみ様が行くところであれば、どこでもついて行くよ。だって俺、護衛だしね?」

「イクル…… ありがとう! 頑張ってレティスリール様、捜そうね!」

「はいはい」



 嬉しくなって、イクルの手をとりその場でぴょんと跳ねる。

 ロロ君のおかげで手に入れることができたこの情報は、レティスリール様がアグディスにいるということだけだけれど、大きな1歩です! 前進です!

 イクルを見てにっこりと笑えば、イクルも少し微笑み返してくれた。割といつも無表情が多いから、なんだかとっても嬉しくなる。これはすべてがいい方向に向いているのではないだろうか!

 そんなことを考えていれば、ちょっと呆れ顔になったイクルが「あまり無茶はしないでよね」と私を撫でた。



「うん。大丈夫、注意するよ!」

「それほど頼りない言葉は始めて聞いたよ」

「ちょ、イクル酷いよ……」



 ドンと胸をたたき、まかせろとイクルを見れば心外な言葉が帰ってきた。

 まぁ確かに、ちょっと注意不足なところはみとめますよ。あまり確認をせずに進みますよ。あれ、私やっぱり駄目な部類……?

 本当はイクルにも楽をさせてあげたいのだけれど、なかなかにファンタジー世界は難しい。やはりもう少し森でレベル上げをして……っと、そんなことを考えていれば部屋にノックが響いた。まろだと思い開けようとすれば、それをゆるやかにイクルが静止した。



「……イクル?」

「ひなみ様、開けないで」

「えっと……?」



 扉の前で、ドアノブに手をかけた状態でイクルに言われて少し戸惑う。とりあえずドアノブから手を離してイクルのほうを向けば、真剣な表情がのぞいた。背後には扉、目の前には真剣なイクル。

 そのまま手を引かれ、私は扉から離れて部屋にある椅子へと座らされた。イクルは何か考え込んでいるようだったが、すぐに結論が出たようで口を開いた。



「ひなみ様が文字を読めること、まろには言わないほうがいい」

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