28. お店番
はふぅ。
初心者講習で森に行き、色々大変なことがあって、眠りこけて… 起きたら3日も経っていて。そして今は起きてからさらに1日立っております。
イクルには何で回復薬を持っていないのか、森は危険なところだと… 3時間程お説教をされたし。まぁ、確かに回復薬を全てあげてしまった私が悪いので反論は出来ないのです。
そしてギルドからはラークさんと、ギルドの副ギルドマスターさんが謝罪に来た。すぐにイクルが追い返したからあまり話はしなかったんだけどね。堅苦しいのは苦手なので、「大丈夫、気にしないで下さい」で終わりにしておいた。甘いとイクルにさらに怒られた…ぐぬぬ。
そして私は現在、自分のお店であるひなみの箱庭でお店番。
神様と行っている交換日記を開きつつ、神様からのお返事を見る。ちなみに、私は森で起きたことを書きました。
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大変だったね、ひな。
でも、無事で良かった。
というか、ピンチになったら僕の名前を呼んでほしかったんだけどな?
次からは、ちゃんと呼んでね。
光の精霊とも無事に会えて良かった。
というか、もっと早く出会ってくれると思ってたんだけど…ひなは可愛いね。
スキルには、名前を叫ぶだけで効果があるのが基本。けど、ある特定の事柄…今回みたいに歌うとかだね。それによって起こる効果もあるから、色々試してみると良いよ。
タクトのことも、キラリ…光の精霊の名前だけど、彼女が面倒を見るからね。ひなは特に心配しなくて大丈夫だよ。何かあったら、いつでもキラリを呼ぶと良いよ。
あとは… あまり危ないことに首を突っ込まない様にね。
まぁ、僕が言うのもあれだけどね。
次やったらお仕置きだから注意するように。
今日は早く寝るんだよ。
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「お仕置き… 気をつけよう、切実に」
神様からの返事を読んで、順調にたまっているポイントを見る。しかし、今は特別必要な物があるわけではないので貯めておくことにする。
カラン。
扉の開く音と「寒い〜!」という声とともに、お客様が入ってくる。
「いらっしゃいませ」
「どうもー」
挨拶を返しながら、濡れた服をタオルで拭く…冒険者さんだろうか。ちらりと窓から外を見れば、雨がパラパラと振っていた。どうやら雨と一緒に気温が下がっている様だ。雨が降ってるのなんて全然気づかなかったや。
「雨が降ってきたんですね」
「そうなんだよね、寒くてさ。ごめんね、お店少し濡らしちゃって…」
「大丈夫ですよ。よかったら、暖かいお茶をどうぞ」
温めておいた魔力回復薬をティーカップに入れてカウンターに置く。実は私もこっそり飲んでいたのです。あったまる。お客さんが「ありがとう」と、カップに口を付ける。
「美味しいねぇ… ちょっと森まで狩りに行って帰って来たところだから、あったまるよ」
「そうだったんですね。冒険者さん…ですか?」
「そうだよー」
お客さんは、黒髪に黒目で、頭にバンダナを巻いている。スラッとしたイケメンさんで、腰に小さい鞄と剣をさしていて、コート代わりにもなりそうなマントを着ていた。
にこりと笑顔を向けられて、思わず顔を背けてしまった…! 照れる…!
「どれも良い回復薬だよね。他の種類は売らないの?」
「他の… というと、薔薇の回復薬と菖蒲の回復薬とかですか?」
「そうそう、それ!」
どうやら、もっと上級の回復薬が欲しいみたい。けど、残念ながら私の手元には肝心の材料が無いのだ。残念なことに!! その旨を伝えれば、残念そうに「そっか」と微笑んだ。
「じゃぁ、とりあえずは諦めるとして… 深紅の回復薬が欲しいんだ?」
「えっと… 残りは30個ですね。何個いりますか?」
「全部もらってもい?」
「えっ! えと、ありがとうございます! 1つ1,600リルなので、えぇと…48,000リルですね」
値段を告げれば、結構な金額なのにさらっとお財布からお金を出す。たぶん10代後半くらいだと思うけど…実は結構すごい冒険者さんなのだろうか? それとも貴族様だろうか。
でも、30個だと鞄に入れるのにもかさばるね…? 通常、その日使う数だけの回復薬を購入する。拠点がその街にある場合以外は、大量に買う人は少ないのだ。
袋に入れてから渡してあげようと思い、引き出しを開けようといたところで… 机の上にあった深紅の回復薬が全てなくなっていた。あれ…? と思ってきょろきょろすれば、冒険者さんが「しまったから大丈夫だよ」と教えてくれた。え、どこに…?
「そうだ、これ… お茶のお礼にどうぞ」
「えっ?」
そう言って、冒険者さんが鞄から小さな木の実を取り出した。金色に輝いていて、奇麗な球体の実は蔓が伸びていてその先に金色の花が咲いていた。
何だろう、見たことの無い実だけど…?
「これはねぇ、王子の実だよ」
「あぁ、これが……って、ええぇぇっ!?」
さらりと! さらりと重大なことを…!
これが王子の実、かぁ。確かに神々しいですけど。あれ、王家の実よりも見た目豪華だよね…?
しかし、これは。
「すごいレアな木の実ですよね…? いくらなんでもいただけません」
「うーん…」
私がそっと断りを入れれば、残念そうな笑顔を浮かべるイケメンさん。
なんだか悩んでいるような感じはするけれど、こればっかりはいただけない。高価な物は貰えません!
「じゃぁ、これは今度の機会にしようかな」
「あはは…」
何ですか今度の機会って。
「っと、そろそろ時間だ。また来るね〜」
「はい、ありがとうございましたー!」
入り口までお見送りをして、ついでにそろそろお店を閉めようかなぁと考える。
雨もかなり降っているし… 人通りもあまり多くはないかなぁ。
まろは料理を頑張って練習中だし、イクルは庭に動物達の小屋を作ってくれている。今頃か! という突っ込みはありますが、庭は雨もほとんど降らないし、野放し状態でした。
「さて、お店を閉めて… それから、あ、イクル!」
「閉めるの? なら、まろがご飯を作ったから… 少し早いけど夕飯にしようか」
「うん。そうだね」
店先にクローズと表示して、私はイクルとお店へと戻る。
まろのご飯かぁ… 味付け、少しは良くなったかなぁ…?
ちなみに本日の販売。
体力回復薬 90個
深紅の回復薬 100個
魔力回復薬 50個
以上。
買っていってくれる人は年齢も性別もバラバラかなぁ。大量に買う、ということはなくて… 冒険に出る際に持ち運べる数を少しずつ購入するスタイルだ。
しかし、冒険…かぁ。私はゲームとかをあまりしていなかったけど、花がいたらテンションだだ上がりだろう。
◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませー!」
カランと音を立てて扉が開いて、本日のお客様が入って来る。
今日も私がお店番。イクルは小屋作りで、まろは相変わらず料理の練習。昨日の夕飯は…お察しください。
「あらぁ〜! あいかわらず可愛いわ〜!」
「えと、ありがとうございます」
市場で露天を開いた時に来たオネエの人だ…!
鼻歌まじりに商品を見ながら、「可愛いお店♪」とお褒めの言葉をいただいた。
「あらっ! これも可愛いぃ〜! 香りの花魔法もあるのね!」
「はい。見た目が良いので、女性のお客様に人気ですよ」
「そうよねぇ。可愛いから、ポーチに入れておこうかしら」
どうやら使う気はないようで、香り一択で香りの花魔法を選ぶようだ。確かに、装飾品の一部として使ったりするのも可愛い。贅沢かもしれないけれど。
これが可愛い、あれも可愛い… そうして彼…彼女? は、5分掛けて1つの香りの花魔法を選んだ。加えて体力回復薬と魔力回復薬を3つずつ購入してくれた。
「でも、商品も可愛いけど… お店もとって〜も! 可愛いわねぇ。いいわぁ〜!」
「ありがとうございます。可愛いもの、お好きなんですね」
「えぇ。ここの回復薬は今一番のお気に入りね。今日はこの後狩りに行くのよ」
なんと! この後狩りに…!
ということは、スライムやハードウルフと戦うのだろうか。オネエさんは…うん、体は逞しいので強そうですね…! それでもやっぱり心配になってしまうのは、私が気弱だからなのだろうか。
「あら、そんな顔しなくても大丈夫よ。私、これでも結構強いのよ」
「あ、すみません…! 私ったら…」
「ふふ。心配してくれてありがと。っと、そろそろ行かなくちゃ…またくるわね〜!」
「はい! ありがとうございます。いってらっしゃい…!」
はふぅ。
市場の人がお店にまで来てくれるなんて、すごい嬉しいな。えへへ。
いや、オネエの人はなかなか周りにいないからちょっと緊張しちゃったけどね。
こんな時は紅茶という名の魔力回復薬を飲んで落ち着くに限るね! と、思っていたら扉の開く音がしてお客様がやってきた。
「いらっしゃいませ〜」
「こんにちは、魔力回復薬を10個、解毒薬を2個下さいな」
「はいはい〜! ありがとうございます!」
そしてさらにカラン…という音と共にお店の扉が開く。
入り口を見やればお客様が2人も! これはちょっと忙しくなりそうな予感。よし、テキパキ働きますよ!
……ふぅ。
あれから2時間程お客様が途絶えませんでした。ちょうど朝のこの時間は、冒険者の人たちが狩りに出かける時間なので一番忙しい時間帯なのです。ふふ、私も少しは分かって来たよ…!
販売は以下の通り。
体力回復薬 100個
深紅の回復薬 50個
魔力回復薬 30個
深海の回復薬 10個
解毒薬 5個
香りの花魔法 3個
うん、いい感じでは無いでしょうか。
午後はあまり人がこないので、これがだいたいの販売数と考えて良いだろう。
どうやらひなみの箱庭に来てくれるお客様のほとんどは、口コミで来てくれている人が多いようだ。回復薬が美味しいから、せめて1つは欲しい…! と言って買いに来てくれる人もいたくらい。
そんなことをのんびり考えていれば、またカラン…と、お店の扉が開いた。
「いらっしゃいませー! って、あれ?」
入り口に向かって声を上げたは良いが、誰もいないぞ…?
風のいたずらで扉が開いただけ?
「こんにちは〜! 体力回復薬が1つ欲しいぽ!」
「はーい…?」
あれ、声がする。透明人間か…? と、思っていたらどうやら足下の方から声があああぁぁ…!?
す、す、すらいむがカゴを手にもってお買い物に来た…!!?
そう、そこにはどうやってもっているのか…カゴを手に? もったスライムがいたのだった。
「売ってくれますぽ?」
「あ、はい…」
私はとりあえず、返事をする以外の答えを持っていなかった。




