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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第2章 ミニチュアガーデン
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27. タクトの体

 視点:イクル



 これは、いったいどういうことなのか。



「ひなみ様っ!!!!」

「あ…っ」



 目の前の光景に驚きながらも、今はひなみ様の元へ行くのが先だ。

 あまりの衝撃だったのか、ふらりと倒れそうなところをなんとか支えることに成功する。



 初心者講習で森へ出たとギルドで聞き、急いで後を追いかけた。

 そして森で見つけた彼らの仲に…ひなみ様の姿は無かった。

 即座に彼らとは別れ、ひなみ様を捜した。すぐにそれらしい足跡を発見し、謎の館を発見した。これは恐らく隠しダンジョンだろうとあたりをつけ、中に入った。

 幸いに、道ははぼ一本道だった。何故か群れているスライムを一掃し、その先を見ればひなみ様が居た。



「ひなみ様?」



 泣き喚いて、俺の名前を呼ぶひなみ様を抱き上げる。とりあえず、安心させるように背中を撫でる。

 しかし、タクトはどこに行ったのか。ひなみ様の様子を見る限り、かなり穏やかではないことは確かである。また面倒後となのかと思いながらひなみ様をあやしていれば、不意に歌を唄い始めた。



「ら・ら… ら〜♪」



 驚いたことに、その歌声によって光の精霊が顕現した。

 はぁ… まさか最上級の精霊である光の精霊を呼び出すなんて。相変わらずひなみ様はとんでもないことを平気で行う。







 ◇ ◇ ◇



「さて、どういうことか説明をしてもらおうか…?」



 家に帰り、ひなみ様をベッドに寝かした後。

 現在俺の前には光の精霊と、何故かねこのぬいぐるみとなったタクト。



『…そうだな。初心者講習で何があったかは知ってると思うから省略する。俺はいなくなったひなみを追って、あそこの場所までたどり着いた。あの広い部屋の魔法陣で、王家の実を発芽させれるって言う話を聞いて… そこからは正直俺にも分からない』

「なるほど…? 帰らずひなみ様を危険に巻き込んだ、と」

『それは… 悪かった」



 そう言って素直に頭を下げた。タクトがこんなにも簡単に謝罪を行う何て、よほどなのか。最初に会った時は割とやさぐれていそうなイメージだったんだけど。



『続きは私が説明するわ。まずタクト、貴方の体は死んだわ』

『えっ…?』

『残念だけど、一度ああなってしまったら…元の人間の体には戻らない』

『……そうか、続けてくれ』



 大きくため息を吐いて、光の精霊が言葉を続ける。



『貴方とひなみが行ったのは、王家の実の禁忌の発芽よ。そして、タクト、貴方の心臓はひなみの天使の歌声(サンクチュアリ)によって王家の実の種となった…』

「ひなみ様の?」

『ええ。王家の実の種になれる心臓は、レベル1であること、15歳以上の体であること。そして…レティスリール様の寵愛を受けていることの3つ。タクト、貴方は条件に当てはまるわね? まぁ、寵愛に関しては心当たりが無いかもしれないけれど』



 そう言いタクトを見る光の精霊の顔は真剣そのもので、この残酷なことが現実であるのだと教えられる。というか、レベル1の人間が本当にいる方が驚きだよ。そもそも良くそんなんで森に行こうとしたものだ。大人しくあのエルフの女に全て任せておけばこんなことにはならなかっただろうに。まぁ、その場合は王家の実を手に入れられたかは怪しいところだけど…



『でも、俺は… 天使の歌声(サンクチュアリ)をひなみに掛けられた記憶はないぞ…?』

『タクト、貴方が大怪我をした時… 入り口の仕掛けで開いた穴から落下した時ね。その時にひなみが無我夢中で唱えたの。おそらく、回復薬(ポーション)を持っていなかったから薬草が生えてれば反応すると思ったのね』

「……」



 また、面倒な。

 ひなみ様にはしっかりと回復薬(ポーション)を持たせていたというのに。まぁ、なんで持っていなかったかの予想は出来るけど。これは後でしっかり話し合わないと、と。



『その時に、タクトの心臓は王家の実の種になった。そして運悪く魔法陣の中に入ってしまい、もう1度使った天使の歌声(サンクチュアリ)によって発芽し、タクトの体は木になった…ということ』

『なるほど、ね…… まぁ、仕方が無い。全部俺のヘマだしな。光の精霊様。…俺は、死んだんだな?』

『えぇ。意識はそのぬいぐるみにあるけれど、体はもうずっとあの木のまま』

『……そっか』



 心臓が王家の実となったタクトは、発芽し、文字通り木となった。そしてそれは、光の精霊の力でも治せない…というか、もう既に手遅れだったのだろう。

 ひなみ様の力はそれほどまでに… 恐ろしいという思いと、あんな幼い女の子に酷いことをするという思いが浮かぶ。これも全て神の意思だと言うのか。



『まぁ、体は死んでしまっても意識は生きているから方法はいくらでもあるのよ。タクト、貴方… 私と一緒に来なさい』

「方法?」

『精霊様と一緒に?』

『えぇ。私が貴方に修行をつけるの! そうすれば強くなって、新しい体を手に入れることも出来るわ』



 突然だなと思いつつもタクトを見れば、若干目が輝いている。

 まぁ、当人達がそれで良いならほっとくのが一番だろう。



『そうだ、イクル』

「何?」

『ひなみには、このこと… 言わないでくれな』

「…わかったよ。もともと、言うつもりも無いしね」

『サンキュ。ひなみには、俺の体は治療中って伝えとくから、よろしくな!』

「はいはい」



 まぁ、これでひなみ様を責めるようなことを言い出すのであれば、そう出来ない様にしてやるまでだけど… そこまで馬鹿じゃなくて良かったよ。手間もかからないしね。



「さて、話は以上?」

『えぇ。私は先に戻るから、タクトはこの翼で戻って来るのよ。帰還って言えば私のところに転移出来るからね!』

『ありがとうございます…!』



 そのまま『じゃねっ!』と言って、光の精霊は消えていった。

 翼をじっと見つめたタクトはそれをポケットにしまった。…ぬいぐるみなのにポケットがついているなんて、なんなのか。そしてそのまま動かず、立ち尽くす。何かと思ってみれば、若干目に涙が浮かんでいた。ぬいぐるみなのに泣けるんだ…



『俺、ひなみを見て来る…!』



 ぐっと自分の目元をぬぐって、タクトはぴょんぴょんと跳ねながら階段を上がっていった。

 ぬいぐるみのくせに、身軽だ。まぁ、どうでもいいけど。







「まろ、お店は大丈夫?」

「ん、じゅんちょーだよ! ひなみは?」

「寝てるよ。そのうち目を覚ますでしょ」



 そろそろ閉店にして、今日はゆっくりした方が良いと思いつつ… まろを見ればポケットにたくさんのお菓子を詰め込んでいた。それに気づいたのか、「もらったのであるっ!」と元気な返事をした。まぁ、店内から出たら人化が解けるから、それ以外なら良いと放っておくことにする。



「ちょ、イクル冷たいっ!」

「はいはい、ほら店じまいするから片付けて」

「はーい。さっきまではひなみがいなくてあんなに焦ってたのに…」

「…まろ?」

「お片付けしまーす…」



 少し睨めば、ささっと店内の片付けに入る。まったく、タクトといいまろといい、周りに面倒ごとが多い。

 店内の在庫を確認して、補充をしに家の地下へと降りる。そして店内にある棚の中に補充をしておく。



 呪奴隷になった時は、こんな風に暮らすとは思わなかった。

 戦闘面に立つか、それか貴族のおばさんの給仕係でもさせられるのではないかと思ったが…どうやら自分はかなり運が良い。

 護衛というから、割と外へ出るのかとは思っていたんだけど… ひなみ様は森の家と街を繋いで(・・・)しまった為、それも必要がない。まぁ、今後は薬草採取などもあり行動範囲は広がるんだろうけど。

 自分の指に刻まれた呪奴隷紋に視線を落とす。従事期間は、5年間。それまでに何が出来る、という訳ではないけれど… ひなみ様の力にはなってあげても良いかな、と思う。ご飯も美味しいし、お風呂もあるし。



「……っと」



 カチン、と。

 回復薬(ポーション)を棚に並べようとして、既に並んでいる瓶にあたってしまった。



「イクル、どうかした?」

「別に、手が滑っただけだよ」



 まろがひょっこり覗き見て来るが問題がないと追い返す。



「ふぅ……」



 思っていたよりも、右目の視力の落ちが早い。

 一瞬感覚がつかめなくて、瓶同士を当ててしまった。まぁ、遅かれ視力がなくなるのは分かっていたことだし。……まぁいいか。気にしてもなおる訳ではないし。



「さて。ひなみ様は多分数日くらい眠りそうだし… 今日はお風呂に入って寝よう」

「イクル、ご飯はどうするのであるー?」

「俺はいらない。個人ですませるように」

「えっ…!?」



 はっとして固まるまろを後にして、俺は風呂をすませる。

 寝る前にひなみ様の部屋を覗けば、タクトも一緒にまるくなって寝ていた。ぬいぐるみなのに睡眠が必要なのかは不明だが… なんとなく気に入らないので床に落としておくことにした。カーペットが敷いてあるから問題は無いだろう。



「……おやすみ、ひなみ様」

各キャラ視点だといつもより短くなります…

次回はまったり回ですよ〜!

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