24. 初心者講習 - 6
ふわふわした綿あめの様に、私の心がふわふわと空を舞っている。
《天使の歌声》を紡げば、3色の花がにっこりと笑ったような気がした。
「うわ…っ! すげぇ…!!」
「あ…」
一面の花。そしてその中央にある宝箱。
開けるためには何か仕掛けがあるらしく、タクト曰く…宝箱ではなく周囲の花がキーポイント。私は《天使の歌声》を言われるがまま使ってみた。
結果、は。
花が…歌い始めた、のだ。
『ららら♪ らら~ら~♪』
「どどど、どうなってるんだろう!?」
「いやいや、俺だってわかんねぇよ! 歌う花なんて初めて見たぞ!?」
何がどうなってるのか、まったく分からない。テンパってしまう私。それに関してはタクトも同様の様で…うぅん。今はただ花たちの歌声を堪能するしかないのかもしれない。
『ひなみも歌ってららら~♪』
「えっ! ええぇ!?」
「花からご指名なんて、やるじゃねぇか」
花に誘われ戸惑うが、いつの間にか安心しきっているタクトがはやし立てる。いやいや、順応力高すぎではないでしょうかタクトさん。私はまだこのファンタジーなお花たちにどきどきしっぱなしだと言うのに…!
でも、花が私を歌に誘ってくれるなんて…ちょっと驚いたけど、それは純粋に嬉しい気持ちが強かった。小さい頃はピアノと歌を習っていて、よく歌っていた。バイト三昧になってからは全てやめてしまったが、時折カラオケに行って思い切り歌った。
「ほら、歌えばいいじゃん、ひなみ!」
「もう… タクトは自由だなぁ! わかった、一緒に歌うよ!」
『ひなみ! ら~ら~ら~♪』
「ら~ ら・ら・ら♪」
花が歌うメロディーより少し高めの音を出して、ハーモニーを奏でて行く。普段は恥ずかしいからあまり前に出たりしない私ではあるが、歌とピアノは別次元のように積極的だった。
「ら〜♪」
段々楽しくなって、私の声はどんどん大きくなった。花たちは、私に合わせるように歌を紡ぎ…やがて大きな光りへと変化した。
「…って、大きな光?」
「何だこれっ!」
突如私の目の前に、大きな光が現れた。まぶしいそれに目を細めれば、ひときわ大きく輝いた。私とタクトは思わず目をつぶり、自分の顔をとっさに手で覆った。こんな強い光、今までに見たことが無いよ!
20秒ほどで光が収まり、そっと目を開けばそこには光り輝く人が…いや、小さい妖精が、いた。
『こんにちは、ひなみ。やっと私を召喚してくれたわね!』
「えっ!?」
綺麗な金色の光る髪に、花のついた小さなハットを頭に乗せている。ふわっと軽い内巻きになっている髪は肩より少し長いくらい。リボンと花をふんだんにあしらった膝丈のドレスが、その存在をよりいっそう尊いものに見せているように思えた。そして何より、その背中には小さな純白の翼が生えていたのだ。
な、なんだろう。天使様…? にしか見えない。何故なら背中に翼があるからです。もしかして、神様の使いとか、そういった人だったりするのだろうか。
「…ひなみが召喚したのか?」
『そうよ! もう、2年も待たされるなんて思わなかったんだから!』
「えっ?」
先ほどの言葉から、タクトが私へと問いかける。が、私が返事をする前に天使様が返事をしてくれた。というか、私が召喚? 特にそういった力はないと思う…のですが…?
私が訳がわかりませんという顔をしていれば、天使様が『スキルです!』と教えてくれた。はて、私にそんな特殊なスキルは無かったはずです。一応自分の代わり映えしないステータスを見ていけば…あ!
《光の狂詩曲》
想いを込めて歌を唄うと、光の精霊が召喚され守護者を守る盾となる。
「えと… 光の精霊さん…なのかな?」
『そうよ! やっと分かってくれたのね!』
「ええぇっ!?」
私の小さな呟きに、タクトは盛大に驚き光の精霊さんはとても満足そうな顔で頷いた。このスキルは、ハードウルフに襲われた際に一度使ったきり。そもそもあの時はスキル名しか言わなかったので歌は唄っていない。ということは、スキル名を言えばシールド的なのが出来て私を守ってくれて…歌を唄うとこの精霊さんを召喚することが出来る、ということなのか。
ただの説明文だと思って深く考えなかったことを後悔しつつ、今度からは唄ってみようかなとも思う。
「ごめんなさい、実際に召喚出来るとは思ってなくて…」
『んーん、イイノヨ! でも、私も待てなくて花たちに力をかりちゃったわ! ひなみが天使の歌声を掛けた時、歌うようにしておいたの!』
「ええぇっ!? そんなことが出来るんですか…」
『だって私、光の精霊だもの! リグリス様からもひなみを護れって言われていたのに…登場が大分おそくなっちゃったわ』
その場でくるっと回って、『ごめんね!』と一言。というか、神様…私にこんなすごいスキルをくれていたんだと思いつつ。まったく使いこなせてなくて申し訳なく思う。すみません、神様。私…もっと精進できるように頑張ります。
『じゃぁ、今日は挨拶をしたかっただけだから…またね!』
「あっ! はい、ありがとうございます…!」
『あえて嬉しかったわ! あ、ちなみにこの花はサラダとか、料理に使って食べるととっても美味しいの! 持って帰るといいわ』
えっ! この花はまさかの食用なんですか!? 普通に何かの材料だと思っていたんですが… 一応、調べるくらいはしよう。
詳しく聞こうとしたら、『じゃねっ!』と言って光の精霊さんは消えてしまった。一瞬で。もう少しゆっくりしていってもらっても…と思いつつも、きっと精霊さんも忙しいのだろうと思うことにした。
さて、宝箱は無事に開いたのだろうかと思いつつタクトを見れば…口を大きくあけてあんぐりとしていた。お化けでも見てしまったような顔をしているけれど、いったいどうしたというのか。
「タクト? そんな顔してどうしたの?」
「……いやいやいやいや、何で光の精霊なんてすごいもんが召喚できるんだよ…!? そんな話、今までに一度も聞いたことが無いぞ!?」
「えっ! …もしかして、すごいことなの?」
タクトの勢いに押されつつも、返事をすれば大きな溜息を吐かれた。
「あのなぁ、ひなみ。光の精霊って言ったら…レティスリールにいる精霊たちのトップクラスなんだぞ! 超・超・超! すごくてありえないようなことなんだよ…! まさかこの目で実物を見ることが出来たなんて…!」
「あ、そうなんだ…」
「そうなんだよ! まったく、詳しく聞きたいけど…今は脱出することが先決だな。帰ったらじっくり聞くからな!!!」
「うぅん…」
どうやら思っていた以上にヤバイスキルのようです。あれ、もしかして私って好きに歌うことが出来なくなってしまったのだろうか。歌う度に光の精霊さんを召喚してしまうのは大変申し訳ないのですよ。
「っと、タクト! 宝箱はー?」
「おっと! そうだった!」
あまりにも起こった出来事が衝撃過ぎて、すっかり宝箱のことを失念していたらしいタクト。再び宝箱に手をかければ、今度は蓋がすんなりと開いた。
おおぉぉ! まさか《天使の歌声》で本当に開くとは思っていなかったです。花の歌がキーポイントだったのだろうかと思いつつも、あの歌は光の精霊さんが仕込んでくれたものだから違う要因があるのかもしれない。
「「……? ぬいぐるみ??」」
宝箱から姿を現したのは、小さな猫のぬいぐるみだった。白色の、模様の無いねこちゃんぬいぐるみ。
タクトがぬいぐるみをとりたえずもふっとしてみるが、特に何かが起こることはない。手のひらに収まるサイズなので、手でひっぱったりしてぬいぐるみの中に何か入っていないかなどを探っている様だ。
「うーん… 普通のぬいぐるみ、だなぁ」
「ぽいねぇ… 一応、宝箱から出たアイテムだし持っていく?」
「あぁ、そうだな! もしかしたら、この先の仕掛けで必要になってくるキーアイテムかもしれないしな!」
私が尋ねればタクトは力強く頷いて、ぬいぐるみを持っていた鞄へと押し込めた。
とりあえず、このぬいぐるみはこのファンシーで可愛らしい家の様なダンジョンの様な所に合うアイテムだでした! だってとっても可愛いです!
しかし、この部屋にもう何もないとなると…あの通路をずっとまっすぐ進むことになるのかな? 一本道の通路をずっと歩くのは、景色が似ていることもあり精神的にとても辛い。いや、体力的にも辛いですけどね!
念の為、部屋をもう一度見渡す。中央には空の宝箱。足元には、可愛らしい歌を奏でた花たち。ちなみに、光の精霊さんが出て来てからはしゃべっていない。
「他には何もないみたいだねぇ…」
「そうだな。またあの道を歩いて奥を目指すか」
次の行動を決めて、足元に咲く花をもう少し摘んで行く。美味しいと言われたら、やっぱりもう少しもって帰りたいな、と! 隣ではタクトが自分の分を摘んでいて、なんだかこのほのぼのとした光景に笑ってしまう。
さて、そろそろ花詰みはやめて先に進みましょう! と、言う予定であったんですがね。
『ぽぽぽっ ぽーっ』
部屋の外から怪しい声が聞こえて来ました。 しかも、声は1つではない。何人もの声が重なった様なそれは、私を恐怖させるのには十分だった。ちらりとタクトを見れば、特に気にしている風でもなく…荷物のチェックをしていた。いや、確かに荷物の確認は大切なんですけどね?
「タクト、変な声が聞こえるんだけど…」
「あぁ、あれはスライムの鳴き声だ」
「えっ!」
スライムって、鳴くんだ…知らなかった。というか、魔物じゃないですか…! 恐らく1匹ではないそれに、私は慌てて声を上げる。
「って! のんびりしてないで逃げないと! 多分、スライムが何匹もいると思うよ!」
「えっまじで!? 1匹なら大丈夫だと思ったんだけど… もし部屋に入ってきたら対処出来ない。部屋を出て全力で走るぞ!」
「う、うん!」
「っし、GO!!」
どうやらタクトは1匹だけだと思っていた様で、急いで荷物をまとめた。すぐさま走り出したので、私もその後に続いた。
勢いよく部屋を飛び出して、私とタクトは奥へ続く道へと走り出した。好奇心から、チラリとうしろを振り返れば…軽く20匹以上のスライムがいた。
「にょあっ!」
「ははっ! なんだよひなみ、変な声出しー…うおぁっ!?」
「タクトだってええぇぇ!」
綺麗に隊列してぽよぽよ進んでくるスライムたちは、決して足が速い訳ではない。ゆっくり跳ねて進んでくる為、スピードはむしろ遅い部類に入るのではないだろうか。
しかし、いかんせん数がとてつもなく多い。よく見れば、横5列、縦に5列で計25匹のスライムがいるようだった。しっかり数を数えられたのにまったく嬉しくないです!!
「あれはやべぇ! ダッシュだひなみ!!」
「了解であります!!」
きっとあれに捕まったら喰われる! 気がするくらいに、ちょっと怖い。スライムなんだけど、あそこまで数がいると精神的にも辛い。しかも、速度がゆっくりなところなど怖い話などを思い起こさせる。疲れ果てて休むと、背後にいるんですよね?
つまり、今はダッシュするしかないのです!




