23. 初心者講習 - 5
「タクト、タクト…!!! お願い、目を開けてよぉ…」
血だらけで、地面に横たわるタクト。
顔色がとても悪くて、とてもじゃないけど生きている様には見えない。
私が壁にあるスイッチらしきものを押してしまったせいで、床が崩れ落下してしまった。私はタクトにかばわれたらしく、小さなかすり傷だけ…という奇跡のような状態だった。
「やだあぁ… 死なないで、目を開けて、たくとぉ…」
どうして、どうして。否、私が不用意に壁を触り罠を発動させたから。タクトが、私をかばったから。
目にから溢れ出る涙を止めることは出来なくて、かといって回復薬の手持ちが1つもない。あぁもう! どうして私は1つくらい自分用に持っていなかったのか! 全部あげてしまったことを今更悔やんでもしかたがないのだが、それでも後悔するのはやめられない。
もう、どうしたらいいのか分からない。
誰か助けて…
タクトを助けて、私はどうなってもいいから…っ!
「お願い…っ もし、この神殿に薬草があるのであれば…私の、声を聞いてっ」
思いっきり息を吸い込んで、目を閉じてとめどなく溢れている涙をどうにか止める。
「《天使の歌声》!!!」
お願い、私の願い…届いて!
が、やはり薬草の類は生えていなかったのか…何かが起こる気配は無い。
「げほっ!」
「タクト!?」
そんなことを思っていたら、タクトが咳き込み意識を取り戻した…!
しかし、意識がもどっても重症なことに変わりは無い。急いで治療をしなければならない為、タクトに回復薬があるかどうかだけすばやく確認する。
すると、ポケットから1つ…私が作った真紅の回復薬が出てきた。
「げほっ… 半分だけで大丈夫だから…」
「う、うん…っ!」
身体を起こして飲もうとするタクトだったが、よろめいて再度倒れてしまう。慌ててタクトを支え、回復薬を口元に運ぶ。こくんと、小さく喉を鳴らしてタクトが飲み込めば…たちまち傷ついていた傷が癒えた。ゆっくり身体を起こし、「助かった…ありがとう」とタクトが微笑んだ。
「良かったあぁ…」
「もう大丈夫だから、泣くな」
「だって… 全部、私のせいだ…っから、うぅ…」
先ほどよりも、安心した為か涙がとめどなく溢れて止まらなくなってしまった。本当に、本当に…良かった。もう、このまま目を開けないんじゃないかと思った。
私がひとしきり声を上げて泣いた後、タクトが立ち上がり辺りを見渡した。
顔を見れば真剣で、先ほどまで自分が重症だったことなど忘れてしまっているようだった。いやいや、あんなに死にそうだったのに…せめてもう少し休んで貰わないと不安でしかたない。
「ん? あぁ、重症になるのは慣れてるから大丈夫」
「えっ!?」
私がじぃっとタクトの顔を見ていれば、心を読まれてしまったかのように返事が帰ってきた。しかし重症になるのに慣れる人なんていないのではないでしょうか。…きっと、私を安心させる為に言ってくれているんだろう。私のせいであんな目にあったというのに、優しすぎるのではないでしょうか!
いっそ私が悪いと責め立ててくれた方が… いや、こんなことを今考えるのはやめよう。この状況下でネガティブになってしまっては、この先が不安すぎる。何事もポジティブ思考でいかないと、上手くいくものも行かないものなのですよ。
「……ここ、神殿の内部なのかな」
「っぽいなぁ」
なんとか涙と鼻水を拭い、タクトの横に立ち私も辺りを見渡す。
神殿のような白い壁の造り… 入り口と同じ素材だろう。ただ、よく見るとところどころに小さい穴のような隙間がある。それは、私の指が入るくらい小さいものから、私の腕が入るくらいの大きさのものまで。何があるかわからないので、もちろん腕は入れませんよ!
「何の穴か検討もつかないな。でも、取り敢えず… 奥に進むしか道がないな」
「う…うん。そうだね」
「幸い壁にランプがあるから暗くは無い… 注意をしてゆっくり進めば大丈夫だろ。こんなに綺麗な床や壁なら…きっと魔物もいないんだろう」
タクトがそっと床に触れ、深呼吸をして前を見据える。
長そうな道がまっすぐに続き、ここからでは奥に何があるのか見ることが出来ない。私は絶対壁には触るまいと誓い、ゆっくり歩き出したタクトの後ろを歩き始めた。
◇ ◇ ◇
しばらく進めば、途中から白だった壁が淡いピンク色へと変わっていった。なんだろう、いよいよボスでもでてくるのかとドキドキするが…どんどんファンシーな内装へと変化していった。
「厳かな神殿…だったのに、なんだこの造りは」
「可愛い女の子が住んでそうだねぇ」
段々と警戒心が薄れ、歩くスピードも上がっていく。そしてそれに比例するかのように可愛い造りの内装。もう、これが神殿だなんて誰も思わないだろう。
というか、本当にここは何なのか。これがゲームならば、きっとダンジョンなのだろうけど…うぅん、謎です。
「なんだか段々家っぽい造りになってきたねぇ…」
「確かに。けど、森に家を建てて棲むのもなぁ。そんな奴、中々いねぇだろ」
「そうだねー…」
って、私の家は森の中に建っているんだった。今は街に行くことが多いからすっかり忘れていた! いや、ちゃんと覚えてますけどね!? 家の敷地から森へ出るって、あまりなかったからなぁ。
とりあえず、今はこのファンシーな家のような場所がどこか…ですが。落下地点から、もう30分程度は歩いていると思うんだけど、まっすぐの一本道のまま…曲がり角もないのです。となると、下手をすれば森を突っ切って違うところの地下にでも突入していそうです。
あぁやばい、なんだか段々と不安になってきた。
「ひなみ、あれ」
「え…? あ、扉だ!」
もんもんと考えながら歩いていれば、タクトが扉を見つけた。が、それは前方にある訳ではなく、右手の壁にあった。その先も一本道はまっすぐと続いている。構造的に見れば、何か部屋がありそうな位置づけではあるのだけれども…?
開けるべきか、それともこのまままっすぐ進んでいくべきか。かといって、このまま進んで何か進展があるかも定かではない。むしろ、ここを開ければ宝箱がある可能性もある…!? と、花がやっていたゲームを思い出してみる。まぁ、現実そんなに上手くはいかないですよね。
どうしようかとタクトに視線を投げれば、既に扉に手をかけて開けるところだった。
「ちょっ! 罠だったらどうするのタクト…!」
「や、家っぽい造りだし… おそらく問題はないはずだ」
慌てて静止の声をかけるが、どうやらタクトの中では既に問題ないという結論が出ているらしい。実は頭脳派であるタクトが問題ないと判断をしたのであれば、本当に大丈夫…であるような気はするが、ここでは何が起こるかわからないのだ。だって入り口に落とし穴の罠。ああいうのって、入り口に作る罠ではないと思うのですよ。
鍵はかかっていなかったようで、カチャリと小さな音を立てて扉が開いた。全ては開けずに、そっとのぞきこめるだけの隙間を開いてタクトが慎重に中を除く。私も後ろからそっと覗いて見てみる。
が、これは…なんというか、うん。
「「宝箱だ…!!」」
私とタクトの声が綺麗に重なり、一番ラッキーである予想が来てほっとした。
というか、宝箱だからといって持ち帰るわけにはいかない…よね? だって、ここは人の家のような造りになっているし。ダンジョンや遺跡のような場所であれば飄々と持って帰るところではあるが。
部屋の中は、中央に宝箱が1つ。他には何も置いていないが…部屋の中は花畑のように一面花が植わっていた。
「てか、乙女チック通路の部屋には花畑と宝箱か。本当、なんなんだっつの」
「でも、可愛い花だねぇ。ちょっと和むよ~」
タクトが無造作に足元の花を手に取り、まじまじと見ながらつぶやく。「見たことない花だな…」と続けて、私に視線で問いかけてくる。その花は、私が見たことがないものだったので、そっと首を横に振り知らないということを告げる。
白と、ピンクと、水色の花びらでできている花で、花の中央には宝石のようなものがついている。きらきら光っていてとても綺麗ではあるが、ゆえにあまり植物っぽさを感じることが出来ない。
もしかしたら、薬術の材料になるかもしれないので数本摘んで鞄へとしまう。
「んー…」
「?」
宝箱の前でしゃがんで、タクトがうなり声を上げた。どうしたのだろうと見れば、どうやら宝箱が開かない様だ。鍵でもかかっているのかと思ったが、特に鍵を差し込むような場所も見当たらない。
そうすると、単に宝箱の蓋が硬いだけなのか…それとも魔法の呪文でもいるのだろうか。
「私も手伝うよ」
「あぁ、サンキュ」
とりあえず、1人より2人! というわけで私もレッツ宝箱チャレンジ。
「ふぬぬぬぬ…!」
「うぐぐぐ!」
駄目だ! なんだこの宝箱は…! まったくもってびくともしない。私の膝くらいの宝箱は、微動だにせずその場に堂々と居座っているのです。
やっぱりよそ様のものだから盗むんじゃねぇ! ということなのだろうか。うぅん、そんな気がしてきましたよ…?
「開けるのには何か仕掛けを解除しないとならないっぽいなぁ」
「そもそも、ここに誰かが普通に暮らしていて、その人の物っていう可能性は…」
「あぁ、それは無いな。おそらく、ここは“南の森隠しダンジョン”だと思う」
「……え?」
これは、本格的にゲームっぽいですね。
タクトの説明によると、南の森に王家の実があるのは確定。だが、ギルドにその情報はまったくない。で、あれば…南の森にほぼ知られていない“隠しダンジョン”があり、そこに王家の実がある。ということらしいです。
隠しダンジョンというのは、ある一定の条件を満たさなければ踏み入れることが出来ないダンジョンだそう。通常のダンジョンと違う点は、希少な素材や強かったり珍しい魔物がいること…らしい。
確かに、そう考えるとここが南の森の隠しダンジョンである可能性は十分ある。いや、むしろ間違いないだろうとタクトが断言をした。
一本道を歩いているとき、とても真剣な顔で何かを考えていると思ったら…きっとこの場所のことをタクトの頭脳フル回転で考えていたのだろう。
ん? ということは、隠しダンジョンに入るキーポイントはもしかしてキノコだろうか。であれば、確かに中々見つけにくいダンジョンである気がします。だって、キノコを取る人なんて中々いない。
「一面の花、その上の宝箱…か。きっとこの花に宝箱を開けるための仕掛けがあると思うんだけどなぁ。ひなみ、何かスキルでもいいんだけど、花に使うのってないのか?」
「花に使うスキル? うーん、一応成長促進的なのはあるけど、どうだろうね?」
宝箱の周りをくるくる回り、どうやら宝箱事態に仕掛けは無いと結論付けたらしい。
となると、一面に咲いている花は確かに怪しい。タクトが何かスキルがあれば使ってくれといって入るが…成長させるだけの《天使の歌声》が役に立つのかは不明だ。
「そんなスキルがあるのか。んー…とりあえず、試してもらってもいいか? 何も起こらなかったら次を考えればいいさ」
「ん。そういうことならOKだよ!」
とりあえずは、何事にもチャレンジの方向で行くようです。
私は空気を大きく吸い込んで、一面に咲く花を見つめる。はじめてみる、3色の可愛らしい花は『見つけてくれてありがとう』とでも言っているような、そんな気がした。きっと、花の中央にある宝石のようなものがきらきら輝いてまぶしいからだろう。
「名前も知らない、小さな花たちよ…その成長した姿を、私に見せて? 《天使の歌声》!!」




