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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第2章 ミニチュアガーデン
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18. ハートの模られた瓶

お久しぶりな更新になりました。

きっとパソコン部屋にクーラーがないからいけないんですよ…

遅くなりすみませんでした。


お気に入り登録が凄いことになっててびっくりしました。動揺してます。

みなさんありがとうございます…!

「レティスリール様の…回復薬(ポーション)?」



 どきりと、胸が鳴った気がした。



 私の前に立つお婆さんはいったい何者なのだろうか。

 私の回復薬(ポーション)を見ただけで、特に飲んだりもしていないと言うのに。



「おや、恐がらせてしまったかね」

「あ、いえ…」



 戸惑う私の反応を見て、私を安心させようとしているのか、にこりと微笑んだ。「昔から薬術を?」という問いかけに…なんて応えればよいか分からなかった私は戸惑ってしまう。



「ふふ。お嬢ちゃんは、回復薬(ポーション)のことをどこまで知っているかね?」

「え、えと… まだ勉強中なので、あまり」

「そうかい。私はね、代々レティスリール様を祭るクレイシス家の者でね。ずっとずっと、レティスリール様をお捜ししているのさ」



 回復薬(ポーション)をそっと棚から手に取って、愛おしそうにそれを眺める。

 というか、レティスリール様を捜している人がいるなんて知らなかった。じゃぁ、レティスリール様を捜したい私と目的は同じ…と考えて良いんだろうか。

 むむむ、と。うなり声を上げつつ思案すれば、お婆さんに少し笑われた。ちょっと恐い人かな? と、思っていたんだけれど、笑った顔を見ればそんなに恐怖は感じなかった。



「私は、マーリー・クレイシス。教会の者さ」

「教会の…! あ、私は楠木ひなみです。えと、ひなみが名前になります」

「そうかい。良い名前だね」



 ということは、シスターさん…なんだろうか。確かにそう言われれば魔術師のローブというより、聖職者と言われたほうがしっくりとくるローブを着ていた。

 純白のローブは神に仕えている…そう、感じることが出来た。



 と、言うか。



「教会って… 《神託》を教えて貰えるって聞いたんですけど」

「あぁ。興味がおありかね?」

「…はい」



 神様から、教会で《神託》のスキルを教えて貰える…と聞いていたのをすっかりと忘れていた。街へ出たら教会へ行って《神託》を教えて貰おうと思っていたのに。

 そんな私の言葉が意外だったのか、マーリーさんの視線が上から下へと、私に絡めつく。若干居心地が悪いぞと思いつつも…もしかして《神託》を教えるに値するのか見定められているのではないだろうか。

 そもそも、確か現在《神託》を使えるのは3人程度だったはずだ。と、考えると。今の申し出は大分出すぎた物だったのではないだろうか。



「《神託》を覚えたいのであれば、教会へ来ると良いよ。礼拝堂で祈りを捧げ、聖水を飲み干せば《神託》を覚えることが出来る。…とはいえ、そう簡単に取得できるスキルではないがね」

「そうなんですね。今度、是非伺います…!」

「あぁ、待っているよ」



 なんだか難しい勉強等がいるのかと思っていたけれど、そういった物はいらない様で一安です。





「……レティスリール様に、お会いしたことがあるのかい?」



 しばらく沈黙をつくり、回復薬(ポーション)を眺めていたマーリーさんが私にそっと小さな声で問いかける。さきほどのしっかりした声と少し違って、若干の不安が声に混じっている様だった。

 私が小さく否定の意味で首を振れば、「そうかい」と寂しそうに微笑んだ。



「レティスリール様は“いない”という者も大勢居る。けれど、教会に所属する者は皆この世界のどこかにレティスリール様がいらっしゃると信じているのさ」

「そうなんですね。…私も、きっとどこかにいらっしゃると思います!」

「ありがとう。そういってもらえると嬉しいね。てっきりお嬢ちゃんの回復薬(ポーション)はレティスリール様に手ほどきを受けたのかと思ったのさ」

「え?」



 というか、レティスリール様は薬術師なのだろうか。

 私が頭に疑問を浮かべつつマーリーさんを見やれば、「知らないのかい?」とゆっくり説明をしてくれた。



 曰く。

 レティスリール様はこの世界の女神様であり、母の様な存在である。

 薬術を得意とし、人々の怪我や病気を治しながら皆で穏やかに暮らしていた。故に、薬術を扱う者が多く存在し、今よりも回復薬(ポーション)も質の良いものばかりだったという。



 レティスリール様の周りは人々の笑顔であふれ、まさに幸せの象徴であった。



 争いの無い平和な世界。



 しかし、何を血迷ったのか…何者かがレティスリール様の大切な“宝石華”を盗んだ。

 そこから世界は一変した。

 嘆き悲しんだレティスリール様は、心を閉ざし、姿を隠されてしまった。

 “宝石華”がどういった物かまでは現代に伝わっていないが、それがとても大切な物であったということは、伝わっている。



「私の祖先は、レティスリール様と共に生きていたそうでね。…これは、代々我が家に伝わっているレティスリール様がお作りになった回復薬(ポーション)だよ」



 マーリーさんが懐からそっと1つの瓶を取り出し、私に見せてくれた。

 それは、私が作る回復薬(ポーション)と少し似ている作りだった。

 私が作る物はしっかりした瓶だけど、これは少しいびつな形の瓶だった。けれど、瓶の表面に私と同じマークが模られていた。これにはハートが1つ模られているから、おそらく体力回復薬(ハイ・ポーション)なのだろう。

 確かに…こう見ると同じ人物が作ったように見える。これじゃあ、マーリーさんが勘違いしてしまうのも仕方が無いのかもしれない。



「瓶はいびつですけど、ハートのマークはまったく一緒ですね。…ビックリです」

「私にはこれが偶然とは思えなくてね。この瓶はどこからか仕入れているのかい?」



 あぁ、なるほど。

 恐らく、マーリーさんは瓶の仕入先に何かあると思っているのだろう。

 さすがに私のような子供がレティスリール様と繋がっているとは思わないのだろう。いや、うん。当たり前ですけどね。確かに、瓶がそっくりなのであれば仕入先を辿るのが確実であろう。

 が、この瓶は勝手に生成されているので仕入先はない。あるとすれば、神様だろうか。元は神様にポイントと交換してもらってる瓶が、スキルによって加工されているのだから。

 神様の瓶だからこの形になるのか、それとも私のスキルによってらこの形になるのかは不明だけれど。今度、お店で購入した瓶で試して見た方が良いかもしれない。



「仕入先は、その、なんというか…少し特殊な所でして」

「特殊?」

「ええと、個人の方に瓶をいただいている…と、言いますか」



 一応、神様個人に交換してもらってる瓶なので間違ってはいないはずです。

 私個人のスキル云々は、言わない方が良いだろう。なので、とりあえず特殊な仕入先設定にしておくのが良いだろう。



「あまり人と関わらない方で、お会いするのは難しいと思います…」

「どこにいるかだけでも教えてもらえないかい?」

「すみません、私ももう…何年もお会いしてなくて。居場所を知らないんです」



 マーリーさんはどうしても会いたいらしく、すこし慌てた様子で私の肩を揺らした。しかし、私の返事を聞いて「そうかい」と寂しそうに微笑んだ。そして、手の中にある小さな瓶を見て…きゅっと抱きしめた。



 あぁ、本当にレティスリール様にお会いしたいんだろうな。きっと、ずっとずっと恋い焦がれる様に、長い時間を待っていたんだろうな。私も花の病気が良くなるのをずっと待っていたから、なんだか少し切なくなった。



「力になれなくて、すみません」

「いいや。一目、この回復薬(ポーション)に出逢えただけでも嬉しいさね。これ、何個か買っていてもいいかい?」

「あ、勿論です。ありがとうございます」



 棚に置いてある体力回復薬(ハイ・ポーション)を3個手に取り、「お願いするよ」と微笑んだ。

 すぐにお会計をして、マーリーさんへと商品を渡す。少し自分の手が震えているのが分かって、なんだか情けなくなる。そんな私の様子を見て、マーリーさんが心配そうに覗き込んできた。



「私も、レティスリール様はいらっしゃると思っています。だから、その…なんと言いますか…」

「……心配を掛けてしまったようだね。すまないね、ありがとう。お嬢ちゃん、いや…ひなみちゃんに会えて少し希望を持てた気がするよ」

「いえ、私も…マーリーさんにお会い出来て良かったです。もし何か分かったら伺いますね」



 私の言葉に、少し驚いた様子のマーリーさんだったが、すぐに笑顔になって頷いてくれた。



「ひなみちゃんは不思議な子だね。この回復薬(ポーション)を見てしまったからそう思ってしまうのか、それともひなみちゃんに不思議な力があるのか…」

「私はまだ、薬術についてもあまり知らないひよっこです。でも、出来るのであればレティスリール様の様な薬術師になりたいです」

「あぁ、その時を楽しみにしているよ」



 そのままマーリーさんが帰るのを見送って、お店は閉店にした。



 本当ならば、私もレティスリール様を捜していることを伝えた方が良かったかもしれない。けど、今の私は若返ってしまった為に子供だ。いや、例え若返っていなくともそこまで大人ではなかったのだけれど。

 しかし、レティスリール様が薬術師だったことには驚いた。でも、イクルの話には出てこなかったから、あまり表立っていない話なのかもしれない。有名であれば、マーリーさんのもっている回復薬(ポーション)が狙われたりして危険かもしれないし。



 まだ見ぬレティスリール様は、植物を愛し、薬を作り、幸せに暮らしていたのだろう。

 話を聞く限り、“呪”なんて嫌いな性格をしていそうなのに。それにより、“呪奴隷”となってしまった大勢の人。今、どこかに居てこの世界の現状を知っているのだろうか。それとも、世界が見えない程に…ショックから立ち直れないのだろうか。

 私がいくら考えても答えは出ないけれど、きっと…何かどうしようもない理由が有るような気がする。

 だって、レティスリール様が作ったと見せてくれた回復薬(ポーション)は、とても優しく、暖かく見えたから。

 なんて、私の勝手な思い込みですけどね。



「ひなみ様?」

「あ、イクル…」

「遅いから見に来たんだけど、どうかしたの?」



 少し考えていたら、思っていたよりも時間が立っていた様だ。イクルが心配したらしく、私の顔を覗き込んできた。

 素直にマーリーさんのことをイクルに伝えて、それで少し考え込んでしまったと言えばいつもの呆れ顔をされた。



「ひなみ様のが、女神レティスリールの回復薬(ポーション)ねぇ…」

「瓶の形は違ったけど、模ってあるハートのマークはまったく同じだったんだよ」

「ふぅん…」


 棚に置いてある回復薬(ポーション)をまじまじと見て、イクルも何か考えている様だった。しかしそれはほんの数十秒ほどで、すぐにこちらへと向きなおった。



「まぁ、今考えても仕方ないからご飯にしよう」

「あ、うん…そうだね。確かに、今考えても答えは出ないだろうし。少しずつ頑張るよ」

「うん。その方が良いよ」



 なんだか、イクルの言葉でちょっと身体が軽くなったような気がした。

 私は努力して凄く頑張るところが長所なのだけれど、同時に短所にもなりえる厄介な性格なのです。だから、頑張りすぎる前にストップを掛けてくれるイクルにはいつも助けられている。

 心の中でありがとうと呟いて、お店からリビングへと移動した。



 さて、美味しいご飯を食べてから考えましょう。

 それに明日は…冒険者ギルドの初心者講座なのです!

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