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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第5章 闇に目覚し一輪の花
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24. 魔法陣

「…………」


 夜になって、私は机に向かいながら交換日記をじっと見つめている。

 正直、怖くて開けない。もしかしたら、リグ様から何かメッセージがきてるっていう可能性もある。もちろん、何も書いてない可能性だってある。


 ……リグ様、私が魔王になったって知ってるのかな?

 それとも、まだ知らないのかな?


「ああもう、怖くて開けないよ!」


 頭を抱えて、机につっぷす。

 結局、魔王になったことは誰にも言い出せなかった。純粋に私を心配したり、お礼を言ってくれる鈴花さんやレティスリール様。


「鈴花さんは、私が魔王になったって知ったら……きっと気にしちゃうよね」


 魔王になる苦しみは、鈴花さんが一番知っているはずだ。私はリグ様の加護があるかた酷い状態にはならないけれど、不老不死にはなってしまった。優しい鈴花さんが気にしないはずない。

 だからなおさら、言い出せない。


 でも、黙っていても老けないんだからそのうちばれるよね。これからどんどん成長する時期だし、もって数年っていうところだろうか。

 うぅぅ、どうしよう。


「……言うしかないってことはわかってるけど、うぅ」


 さすがにまじめに言い出す勇気はない。

 そこまで考えて、ふと思う。


 イクルはこれからどうするんだろう?

 だってもう私の呪奴隷じゃないから、ここにいる必要はない。師匠の鈴花さんがいるし、もしかしたら二人で旅をしたり修行をしたりする可能性だってある。

 そうなると、この家に残るのは私とまろだけっていうことにならない? 地味に低くない可能性を考え、しかしそれならそれで都合がいいなと思う。

 まろは魔物だから、気兼ねしなくてよさそう。ただ、リグ様のことを知っている感じだったから話し合いが必要だよ……。ああ、気になる。


「でもとりあえず、リグ様への報告が先だよね」


 意を決して、私はゆっくり交換日記を開く。

 まず最初に見えるのは、私の所持ポイントや交換できるものの一覧。レティスリール様をお助けしてからは、膨大なポイントを所有してまったくなくなる気がしなかったんだけど――私の視界に飛び込んできたのは、魔法陣のようなものだった。


「何、これ?」


 一間までに一度も見たことがないし、交換日記にこんな不思議な機能があるということも聞いたことがない。思わず椅子から立ち上がって、交換日記から少し距離を取る。

 何か起こるんじゃないかと、警戒してしまう。


 でも、リグ様にもらった交換日記が危険なわけもないよね?


「うぅーん? ……んん?」


 しかし次の瞬間、魔法陣がぴかっと光り部屋中を照らす。まぶしさに目をつぶぶると、浮遊感に襲われる。


「え、どういう――っ!?」




 びくっとして目を開けると、自分の部屋ではない別の場所にいた。


 綺麗な装飾の部屋は、まるでレティスリールと日本が混在したような場所だった。

 シンシアちゃんの家みたいな、貴族のような可愛らしい装飾。でも、テレビがある。リモコンがあるから、とりあえずつけてみると……普通にニュースが流れだす。日本の番組内容だった。


 部屋には扉が三つあって、どこに繋がっているのかわからない。


「そもそも、ここはどこなんだろう」


 部屋に窓でもあればわかったかもしれないけれど、あいにくそんなものはない。扉を開けて進むしかないけど、もしかしてもしかしなくても――。


「ここって、リグ様の家?」

「――正解。ようこそ、ひな」

「っ!」


 私が結論を出すと、背後から聞こえた優しい声。急いで振り返ると、リグ様が立っていた。

 ああ、すごい……久しぶりのリグ様だ。


 でも、どうして?

 聞きたいことはたくさんあるはずなのに、リグ様を見ると何を聞こうと思っていたのか忘れてしまったかのように何も出てこない。

 ただ、また会うことができて嬉しいという気持ちだけが私の中に溢れだす。


「リグ様……」

「うん?」

「…………私、わたしはっ」


 勝手に魔王になりましたと、リグ様に告げなければと思うのに……うまく、声が出てこない。

 確か、交換日記には、魔王を倒すとポイントが無限に手に入るとあった。リグ様の意向は、魔王を倒してほしいというものだった可能性もある。

 ……ここにきて、そのことに気付いてしまった。そうだったなら、私はリグ様の玩具というポジションで最低なことをしてしまったことになるんじゃないだろうか。


 自分の中で、ぐるぐるぐとその可能性があふれ出す。

 失敗してしまった――そんな考えが、私の中でふくれあがった。


「ひな」

「っ!」

「難しく考えてるみたいだけど、別にひなが悩むようなことは何もないよ」

「リグ様……」


 優しく微笑みながら、「大丈夫」とリグ様が告げた。

 私の方までゆっくり歩いてきて、頭を優しく撫でられる。まるで子供をあやすようなそれに、緊張していた体から力が抜けていく。


「ずっとね、待ってたんだ。……ひなを一番最初に僕の場所へよんだとき、すぐにレティスリールへ送ったでしょう?」

「は、はい……」


 花を助けてもらうかわりに、リグ様の玩具になったときのことだ。

 あのときは、真っ暗なリグ様の空間にきた。けれど、私がそこに長時間留まることはできないと言っていた。こことはまた、別の場所?

 そう思っていると、リグ様がくすっと笑う。


「ここは最初にひなを呼んだ場所だよ。過ごしやすいようにね、ちょっと改装したんだ」


 ちょっとっていうレベルじゃないと思いますリグ様。

 思わず心の中で突っ込んでしまい、改めて室内を見回した。あの空間がどれほどの広さだったかはわからないけれど、神様であるリグ様の空間。きっと広さも尋常じゃないんだろうなと思う。


「あ、でも……今の私はここへ来ても大丈夫なんですか?」


 あまり長居するのはよくないんじゃ? そう思って、リグ様に問いかける。


「人間はね。……でも、今のひなはただの人間じゃない。だから僕の力に満ちたこの空間でも、問題なくいることができる」

「あ……!」


 そうか、私が魔王になったからだ……!

 加えて、リグ様はやっぱり私が魔王になったということを知っていたんだと理解した。

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