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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第5章 闇に目覚し一輪の花
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21. ひなみ:後編

 ああもう、痛い、痛いよ、早く意識だけの世界から目覚めないと。そう思って起きようと意識するのだけれど、痛みのせいか、それとも別の要因があるのか――うまくいかない。


「どうすれば起きれるんだろう、早く怪我をなんとかしないと――あれ?」


 普通に喋れているぞ?

 確かさっきまでは、切られてしまったから息をするだけでも大変だったはず。それなのに、私の口からはすんなりと言葉が出てきていた。


 おそるおそる傷口があると思わしきところに手を伸ばしてみるが、傷はない。

 ……意識だけの世界だから、勝手に回復した? 首を傾げながらも、怪我がないのならとりあえず起きようと思い立ち上がる。


 場所は、さっきと一緒。

 鈴花さんが足かせに繋がれていた螺旋階段の最下層。


 ただ、違う点が一つ。

 イクルと鈴花さんが、どこにもいない。


「……目覚めたっていうこと?」


 起きたことは、たぶん私が鈴花さんの短刀で切られてしまったということ。そのままイクルが何度も私の名前を呼んでくれたけど、そこからの記憶はない。

 どれくらいの時間が経ったのかもわからず、焦る。


「でも、イクルが私を放ってどこかに行っちゃうっていうのは考えにくい……よね? イクルだったら、無理にでも担いでいきそうだし……」


 ただ、もし鈴花さんと戦闘中であればそうではないはずだ。


「ここにいないっていうことは、とりあえず螺旋階段を上がっていったんだよね? 螺旋階段に傷があれば、間違いなく登って行ったことになるはず」


 私は螺旋階段の一番下を見て、傷を見つけた。

 頑丈な作りになっているのかと思ったけれど、意外に傷つきやすい素材でできているのかもしれない。この調子で傷をたどれば、二人のところにいけるかもしれない。


 そう、思ったんだけど……。


「下の数段にしか傷がついてない……」


 ということはやっぱり、二人とも目が覚めたっていうことなのかな? もしそうなのであれば、喜ぶことだけど。


「ああ、そうか」


 わかった。


「鈴花さん、私を切ってすっごく驚いてた。たぶん、そのショックで目が覚めたんだ」


 それは大いにあり得る。

 イクルもびっくりして目を覚ましたんだろう。うん、それならなんだか納得できる。とはいえ、まだ当の本人である私が目を覚ましていないわけで。

 またイクルが意識だけでこっちにきてもいけないし、早く目覚めないと駄目だよね。


「でも、どうしよう――ん?」


 驚いて目が覚めるなら楽かと思ったけれど、一人ではそれも難しい。そんなことを考えていると、カシャンという嫌な音が耳に入った。


 ――私の足に、足かせがはまっている。


「……嘘」


 だって、さっきまではこんなものはなかった。

 私が、鈴花さんのポジションと入れ替わった?


 それはつまり、


「魔王?」


 気付いたときには、あり得ないことを呟いていた。


「そうだ、確認すればいいんだ……! 《ステータス》!」


 自分ではわからなくても、この世界には自分のことが目に見えるステータスという便利なものがある。あまり普段はみないけれど、こういうときはすごく役に立つ。



 〈 楠木ひなみ - 魔王 〉


 15歳

 Lv. 13


 状態:精神体


 HP 10000/10000

 MP 635/635


 ATK 38

 DEF 38

 AGI 63

 MAG 106

 LUK 266


 〈スキル〉

 不老不死

 神様の箱庭

 光の狂詩曲(ライト・ラプソディア)

 癒しの如雨露(ポーション・シャワー)

 天使の歌声(サンクチュアリ)

 光魔法 - 小さな加護(リトル・ポーション)


 〈称号〉

 リグリス神の加護

 レティスリールの加護

 光の精霊キラリの加護



「………………えっと」



 〈 楠木ひなみ - 魔王 〉


 状態:精神体


 〈スキル〉

 不老不死


 気になるべきところは、この3つだろうか。

 精神体っていうのは、現状のことだから問題はないはず。ということで、大きな問題は残りの2つ。


 いつの間にか私が魔王になっている。……どういうことだろう、魔王は意識を持っていて、私に乗り移った? でも、そんな感覚は何もなかったのに。


 それから、スキルの不老不死。


「どうしたらいいんだろう……」


 もしかして、私が目覚めたら魔王として降臨してしまうのかな? それはそれで大問題だから、いっそこのまま目覚めない方がいいんじゃないかと思ってしまうほど。


『ひなみ』

「え?」


 突然名前を呼ばれて、私は声のした後ろへ振り返る。

 そこにいたのは、幼い私だった。


「…………」


 私だったけれど――瞬間的に、これが魔王なのだということを理解した。私自身が魔王となっているのだから、私の姿をとっていたとしてもなんら不思議ではない。

 でも、どうして姿を見せたの?

 鈴花さんもどきと違って、言葉も話すし……見た目だって普通。襲い掛かってくる気配がするどころか、落ち着いているんじゃないかとすら思える。


『そう、魔王だよ』

「! 私の考えたこと……っ」

『わかるよ、もちろん。だって私は魔王だけど、ひなみでもあるんだから』


 にこりと私の姿で微笑んだ魔王は、ひどく楽しそうに言葉を続ける。


『今までの人間は、強かったの。だからずっと、抑えられてた。ひなみだったら大丈夫かと思ったけど、駄目みたい』


 消えてしまいそうだと、魔王が告げる。


「……私は、鈴花さんみたいに強くはないです」


 だから魔王を押さえつけるようなことはできないと、素直に告げる。


『うん、ひなみは強くない』

「ですよね」

『でも、あなたを愛している人がとても強い』

「! え、それって……」


 私に加護を送ってくれているのは、リグ様、レティスリール様、キラリさん。もちろんみんな強いけれど、強さで行ったらきっとリグ様が圧倒的だろう。

 ……私が魔王に支配されないのは、リグ様のおかげ?


『そう』

「……勝手に心を読まないでください」

『無理。流れ込んでくるから』


 私は魔王の心を読めないのに、なんだかずるい。そんなことを思いながらも、私は目を覚ますことができるのかということと、この魔王はどうなるのだろうかということが気になった。


『私は、このままだと消滅する。その、リグ様の力が強すぎるから』

「消滅……」


 ずっと鈴花さんを苦しめてきたはずの魔王が、こんなにも簡単に消えてしまうというのか。改めてリグ様のすごさに感心して、それなら私は魔王にならずに済むのかとほっとして――。


 ふと、気付いた。


「ねえ、魔王」

『何?』

「消えないで、ここにいていいよ」


 そして、その言葉は私の口からいとも簡単にこぼれ落ちた。


「……私が、魔王になるから」

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