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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第5章 闇に目覚し一輪の花
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13. 女神の力:前編

 とぷんと、まるで水の中に沈んだような感覚が私の全身を包み込んだ。でも冷たくはなくて、温かさを覚えるくらい。

 呼吸をしないといけないと思い、口を開いて……思わずむせた。


「あれ、息ができる!」


 水の中だと思ったのに、どうして口を開けたのかと思いつつも一安心する。

 すぐにさぁっと水が引いて、ぽっかりとした空間に立つ。

 周りすべてを緑に囲まれていて、確かにここが木の中だと言われても納得することができる。


「……ん? サリナさんがいない」


 確か私と一緒にいたはずなのに。一瞬の間にはぐれてしまったのか、それとも元々離れるようになっていたのかはわからない。

 一人だということに、不安を覚える。


 でも、これは試験だからどうにかして乗り越えないといけないんだよね。

 どうしたらいいのか、考えないと。


「大樹の成長、かぁ」


 私が内部からできることが、あるんだろうか。少し考えてみるけど、まったく案が浮かばない。

 外からスキルを使ったけど、中から使うとまた違うことが起きるんだろうか?

 とりあえず、やってみるに越したことはないかもしれない。


天使の歌声(サンクチュアリ)


 目を閉じ、成長してと祈るように私は告げる。のだけれども、特に何か変化が起こったようには見えない。

 一度外から使ったから、効果がなかったのかな?

 しょんぼりしつつも、仕方がないので何かほかの方法を考えるしかない。


「私にできることって、そんなにないような気がする」


 スキルは使えるけれど、なんというか今回はあまり役に立っていないような気がする。

 うぅんと悩んでいると、不意に私の前方が明るく光った。


 スキルの効果が遅れて出てきた、とか?

 いつもは即効なのになと思いながら見ていると、それはだんだんとヒトの形を作っていった。


「……? サリナ、さん?」


 ここにいる人といえば、サリナさんくらいしか思い浮かばない。なのでその名を呼ぶけれど、返事はない。

 サリナさんじゃなかったのかな? 私がそう考えたとき、いつも焦がれていた声が響いた。

 それが眼前に現れた人から発せられれたことに、私は大きく目を見開いた。


「久しぶりだね、ひな」

「……リグ様」


 済んだ声は響いて、すとんと私の中に染み渡る。そう簡単に会える人ではないのに、今、その人が私の前に立っていて……。

 優しく微笑む姿はいつもと変わらなくて、会えたことに胸がドキドキと音を立てる。

 どうしてここに、という疑問が私の頭をぐるぐるする。だって、リグ様はそう簡単にここへ来ることはできないと言っていたのに。


「…………」


 何を話したらいいかわからなくて、私はじっとリグ様を見る。……でも、リグ様も挨拶以降、何も言葉を発してはいない。

 いつもは私を気遣うように、たくさん話しかけてくれるのに。

 もしかして、無理をしてここへきたからあまり会話ができないとか、体調が悪いとか、何かあるのかもしれない。

 ちらりとリグ様を見るけれど、いつもと何ら変わらない。直接あった回数は多くないけれど、顔色が悪いということもないし、フラフラしているというようなこともない。

 今日は私から……勇気を出して、話しかけよう。いつもリグ様がしてくれているのだから、私が頑張るのです。


「ええと、お久しぶり……です。いきなりリグ様がいらっしゃったので、驚きました。……ここって、大樹の中ですよね?」


 緑に囲まれたこの場所は、ひどく居心地がいいと思う。でも同時に、どこか寂しくて不安に駆られる。確認するように問いかけると、リグ様から肯定の返事があった。


「そうだよ、ここは大樹の中。これから先、レティスリールを支えていくという役割を担う大樹」

「これから先の?」

「そうだよ、ひな」


 どうしてかわかる? と、リグ様が優しく微笑んだ。


「それは……レティスリール様のお力がほとんどなくなって、私がいただいた女神代行の力では足りないから……ですよね?」


 そんなことを、妖精さんが言っていたと思う。

 私にもっと力があれば、なんておこがましいことは考えない。精一杯この大樹の力になっていけるようにしたいと、そう思ってるから。

 私がそう告げると、リグ様はゆっくり首を振って「違うよ」と言う。


 ……違う?


「ええと、なら……」


 どうなるんだろう。


「大樹の力を、レティスリール様にお渡しする……とか?」


 それであれば、私が成長させていることも頷ける。

 大樹の力をレティスリール様が取り込むことにより、女神として復活したりするのかもしれない。そうであるのならば、きっとそれが一番いい。

 だって、私は平凡な人間だ。

 女神代行なんて、とんでもないのだ。普通ならば。


 私がそう結論付けたけれど、リグ様は先ほどと同じように「違う」と言って首を振る。


「レティに力が戻るということは、今はない。……これから先は、わからないけどね。大樹には、この世界の女神として君臨してもらう」

「はい」


 それは、ちゃんとわかる。

 私ではなく大樹がその役目を担ってくれるのであれば、安心だ。ゆっくりこの世界でお店をしながら生活することができそうでほっとした。


「私に女神代行なんてあるから、焦ってたんです。そんなお役目、私には無理すぎて――あ!」


 もしかして、私にある女神代行の力を大樹に渡せばいいのではと思いいたる。そうすれば、この世界を支える大樹として申し分ないし、成長したと言っていいだろう。

 でも、渡し方なんてわからない。だってこれはレティスリール様にもらった加護の力だから、渡すとかそういう次元の話じゃないような……気がする。

 レティスリール様が大樹に加護を贈ればいいのかもしれないけれど、そういうわけにもいかないだろうし。贈れるのかも、私にはわからない。

 それに、レティスリール様に聞いたら試験じゃなくなっちゃうよね。

 リグ様なら知っているかもしれないと、私が口を開こうとして――それよりほんの少しだけ早く、リグ様が口を開く。


「ひながこの世界にいなくてもいいように、大樹を女神の代わりにするんだよ」

「……え?」


 リグ様の言っている意味がよくわからなくて、私は何度か目を瞬いた。

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