12. 手に入れた妖精の力
火の妖精であるベアトリーチェの試験は無事に終わり、私は疲れ果て、家に帰りすぐさまベッドへとだいぶした。
すごかった。
私が放った矢は、ダンジョンにぽっかりとお穴を空けてしまった。人が落ちてしまったら一大事じゃないかと慌てたけれど、そこは魔法の結界があるため大丈夫なのだとベアトリーチェが説明してくれた。
あの穴は、人間ではなく妖精の行き来、育てた木へ栄養を与えるために必要なのだと教えてもらった。
「……でも、真っ暗だからお日様の光は入らないんだよね」
早く、あの木にも本当の太陽を見せてあげたいな。
そう思いながら、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
◇ ◇ ◇
翌日、私が起きたのは大きく昼を過ぎた時間だった。……こんなに寝るはずじゃなかったのに、どうやら私の体はひどく睡眠を求めていたようだ。
今日も頑張って、妖精の試験を受けなければ!
そう気合いを入れてベッドから出ると、庭の方から私を呼ぶまろの声が耳に入る。部屋の窓を開けて見下ろすと、魔力マングローブのところにまろが立ちこちらに手を振っているのが見えた。
何かあったのかな? 首を傾げつつ、私は急いでまろの下へいく。
「ひなみ、おはようなのである~!」
「おはよう、まろ。何してるの?」
「水の妖精が元気になったのである!」
「!」
まろは、じゃーんと効果音が付きそうなポーズで育てていた花を見せた。
綺麗な花が咲いた場所には、さらりと長い髪の妖精がいた。透明感のあるそれは、すぐに水の妖精だということを理解することが出来る。
「よかった、元気になったんだ……」
『はい。こんな素敵な場所、ありがとうございます』
魔力マングローブであるため、妖精の花を育てる環境としてはかなりいいのだと説明してくれた。加えて、空が暗くなるまでは日当たりだってよかったのだから。
とりあえずは、元気になってくれたから一安心だね。ほっとしながら、私はお腹が空いていたり、何か欲しいものはないかと尋ねてみる。
『いいえ、大丈夫です。ここは魔力がふんだんにあるので、もう少しゆっくりしたいです』
くすりと笑って、ここにもっといたいなと水の妖精さんが主張してくる。私はもちろんだよと頷き、あまり無理をさせるのもよくないから「ゆっくりしてね」と言って立ち去ろうとし――止められた。
「?」
『まってまって、お礼くらいさせてください!』
お礼……? そんなの、気を使わなくていいのにと苦笑する。
大丈夫だよと言おうとして、私はその言葉を止める。彼女が持っていたそれが、水の宝石だったからだ。昨日、ベアトリーチェが試験合格だと言い、くれた力。
でも、私は水の妖精の試験をしていないのに。
じっと綺麗な宝石にくぎ付けになっていると、くすくす笑う声が耳に入る。
『私を助けてくれたことが、試験になるでしょう? もらってください』
「……それじゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
すぐに部屋から弓を持ってきて、火の宝石がはまっている横に水の宝石を埋め込む。きらりと光って、弓が輝きを増したような気がした。
……なんだか、嬉しいな。
リグ様にもらった弓が、私の頑張りによってどんどん強くなっていってるんだから。使っていないから強くなっている確証はないけれど、きっと強くなっているはずだ。
「おぉ~! すごいのであるっ!!」
「だよね」
まろがわくわくした目で見つめてくるので、私もそれを素直に肯定する。
妖精の試験は、あと二つ。その後は水晶の回復薬を手に入れればイクルと鈴花さんを助けに行くことができる。
はやくはやくと焦る心を落ち着かせるようにして、ゆっくり深呼吸をする。
「……よし!」
「ひなみ、気合いばっちりなのである!」
「うん。頑張って、残りの試験を受けに行ってくるね」
『頑張ってください』
応援してくれるまろと水の妖精さんにお礼を言い、私は気合いを入れて二号店へと向かった。
◇ ◇ ◇
二号店へ足を踏み入れると、そこではサリナさんが手伝いをしていた。
「あ、おはようひなみちゃん!」
『おはようございます、店長』
『おはよう』
『…………』
「おはよう、みんな」
私と一緒に昨日試験を受けていたのに、サリナさんはまったく疲れた様子を見せていなかった。さすがは勇者様だなぁと感心しながら、フィーナとアークルの試験を受けたいことを告げる。
「ようし、今回も頑張って手伝うね!」
「ありがとうございます、サリナさん……!」
体力も強さもない私にとって、サリナさんがいるといないでは雲泥の差だ。フィーナとアークルを見ると、サリナさんが手伝うことも問題ないと頷いてくれた。
いったいどんな試験が始まるのかと思うと、少し体が震えてしまう。
『私たちは、二人で試験をします』
『……ん』
「二人同時……?」
思ってもいなかった言葉に、嫌な汗が浮かぶ。ベアトリーチェの試験だって大変だったのに、それが二つ同時になるのはやばいのではないだろうか。
私の不安に気付いたからか、二人は『大丈夫』と首を振る。
『二つじゃなくて、試験自体は一つだから』
「な、なるほど。確かにそれなら、なんとかなるかも……」
こっちだって、サリナさんと二人で受けているからね。二人の試験が同時に一つの方が、確かにフェアかもしれない。
私はよろしくおねがいしますと、気合いを入れて返事をする。
ベアトリーチェに店番を任せて、私たちは試験をすることにした。
『私たちの試験は、大樹の成長」
「……大樹?」
聞きなれない言葉に、それはいったいなんだろうと首を傾げる。そんなものがこの世界にあったのだろうかと考えていると、『昨日生えた木』だとフィーナが告げた。
なるほど、確かにあの木は大きかったね。
「でも、スキルを使って成長させたりしたんだけど」
まだ足りなかったのだろうか。
そう問いかけると、二人はこくりと頷いた。
『大樹は、この世界の守りになることができる。だから、早急に立派な大樹が必要』
「早急に?」
『そう。……この世界は、力が不安定』
フィーナの言葉を聞き、ふいにレティスリール様のことが思い浮かぶ。もう、女神の力はほとんどないと告げていたから、それが関わってきているのかもしれない。
というか、私が女神代行というとんでもない位置にいるのもどうかと思うけれど……。
つまり、代行の私がいるからなんとかなっているけど……あくまで代行だから、不安定ということなのかもしれない。
確かに、急いでどうにかすべき案件だよね。
「頑張って大樹を成長させるね。スキルと回復薬を使えばいいのかな?」
『それもあるけど、それだけじゃ足りない』
『……大樹の中、入る』
「え?」
大樹の中に入るって、どういうことだろう。
中が空洞やダンジョンにでもなっているのだろうか。でも、昨日みた感じではそのようなこともなかった。何か、私の知らないことがあるのだろう。
ゆっくり大樹の下まで歩き、大きく成長しているのを見上げる。
……これでもまだ成長が足りないのかぁ。いったいどれだけ成長させなければいけないのかと考えると、大丈夫だろうかと心配になる。
回復薬はたくさんあるけど、それだけだと駄目みたいだし。
『店長、大樹に触れて』
「? うん、わかった――わっ!?」
フィーナに告げられたとおりに大樹に触れると、まるで吸い込まれるようにぐっと引っ張られる感覚に襲われる。
まさに、文字通り中に入れられそうだと思い体がこわばる。すぐにサリナさんが助けようと私の下にきてくれたけれど、あっけなく私たちは大樹の中に吸い込まれた。




