4. レティスリールとの再会
お店に人が押し掛けてきてから数週間。
街は少しずつではあるけれど、落ち着きを取り戻してきていた。主に勇者であるサリナさんと、アフレッドさんが活躍をしてくれたおかげだろう。
街に中を多目に巡回したり、原因を解明している最中だ。
「ひなみ〜!」
「まろ?」
かちゃりとドアが開き、まろがイクルの部屋に入ってきた。
そう、ここはイクルの部屋だ。鈴花さんも一緒に、この部屋で寝かせて様子を見ている。
私はといえば、いつ二人が起きるかも……と。ちょこちょこ見にきたりしているのだ。けれど、やはり今日も起きる気配はなかった。
「また見てたのである? レティスリール様がお店にきたのであるっ!」
「え? 本当!? すぐに行く!!」
私が待ち望んでいた人の来訪に、階段を駆け下りて店舗へと向かう。アグディスでは入れ違いになってしまったので、結局会えなかったのだ。
自宅と店舗をつなぐ扉をくぐれば、そこには以前見たままのレティスリール様の姿があった。
ふわふわとした柔らかな髪に、綺麗な水色の瞳。
会えたことにほっとしつつ、しかしすぐにでも話したいことが山ほどあるのだ。
「久しぶりね、ひなみ。さっそくだけど……」
「すみません、きていただいて。私も、お話したいことや聞きたいことがたくさんあります」
二人で頷き、私はお店をまろに任せて家へと戻る。
そしてふと、レティスリール様が一人でいることに気付く。
ミルルさんと一緒に出かけたと聞いたけれど、違ったのだろうか。
それを確認してみると、冒険者ギルドで情報収集をしているとのこと。
なるほど、確かに情報はあるだけいいだろう。
◇ ◇ ◇
ひとまず先に、私はイクルの部屋へレティスリール様を案内した。
お茶を飲みながら話すよりも、実際の現場を見てもらった方がいい。
「春くん!」
すぐに鈴花さんを認識して、レティスリール様が駆けよった。
ベッドのそばに膝をつき、鈴花さんを観察しているようにも見える。
そして小さな声で、「やっぱり」とつぶやいた。
「お二人は、知り合いだったんですね」
「……ええ。春くんは、私が日本から召喚した勇者だもの」
静かにレティスリール様が頷いて、今回のことを話してくれた。
「魔王の気配は、少し前から感じていたの。でも、ずっと昔に春くんが倒してくれていたから、勘違いかとも思った」
それは、私がまだアグディスにいたときに少しだけ感じたらしい。
けれど、今はその気配がはっきりしているのだとレティスリール様は言う。
黄金のドラゴンが言っていたことと、一致する。
おそらく魔王ということは、間違いないのだろう。
「でも、魔王は倒されていなかったのね」
「レティスリール様?」
寂しそうに瞳を伏せて、ぎゅっと鈴花さんの手をにぎる。
私は、鈴花さんに瘴気があるということを思い出す。この部屋にも、浄化の花を置いているのだ。
もしかして、それは魔王に何か関係があるのかもしれない。
「魔王は、春くんの中で生きていた」
「えっ⁉︎」
つまり、浄化の正体は魔王だったのだろうか。
けれど、真実はもっともっと残酷だ。
「……いいえ。春くんそのものが、魔王なのだわ」
「……っ‼︎」
そんな、まさか。
けれど、レティスリール様が嘘をつくとも思えない。うっすらと涙がにじむ瞳を見てしまえば、本当だと信じるしかないのだ。
初代勇者は、魔王なのだと……。
「今は、イクルが春くんを助けようとしているのね。でも、春くんが強すぎてイクルが苦戦してるの」
「そんな。そこに、私が行くことはできませんか⁉︎」
イクル1人が厳しいならば、私は助っ人として飛び込むことも厭わない。
レティスリール様は、もちろん可能だと微笑んだ。
「女神代行の力を持つひなみにしか、無理矢理介入することはできないわ」
「なら、すぐにでも!」
私にできるのであれば、戸惑う理由なんてない。
しかし、レティスリール様はふるふると首を振った。
「今のままでは、まだ駄目。もう少し力をつけなければ、厳しい」
「力を……?」
それは、レベルを上げろということだろうか。
そうなると、正直に厳しい状況になる。私のレベル上げは、いつもイクルが手伝ってくれていたのだから。
むしろ、戦闘能力がリグ様にもらった弓しかないのだ。一人でとなると、かなり辛い。
ぐぬぬと悩む私を見て、しかしレティスリール様は違うと声をあげる。
「レベルという概念の強さでわないの。ひなみの、精神の問題……かしら」
「精神の?」
「ひなみは、かなりの能力があるのよ。リグリス様の加護もあるし……。できることは、多い。だからその分、力をつけることもできるのよ」
私の力というのは、外から取り入れる力だとレティスリール様が言う。
正確には、妖精が持つ4つの力。火、水、風、土。これを自分のものにできれば、魔王に立ち向かうことができるだろうと教えてくれた。
「加えて、黄金の花。ドラゴンに、もらったのでしょう?」
「あ……! はい。でも、まだ食べてないです」
「あれは光の力を強化してくれる。4要素と、その光があれば戦えるはずよ」
なるほど……。妖精は、お店にいるベアトリーチェたちに協力をしてもらえばいい。けれど、水の妖精はまだ回復しきっていないはず。
様子を見ながら、回復をまたないといけない。
うう、もどかしい。
「とりあえず、動くのはそれからね。今は辛いでしょうけれど、準備を進めましょう」
「わかりました。頑張ります」
私の声に、レティスリール様も大きく頷いた。
今すぐに鈴花さんとイクルを助けてあげられないけれど、何もわからなかった今までとは違う。すべきことがはっきりしたので、頑張ろう。
まず行うのは、妖精から力を貸してもらうこと。
それから、黄金のドラゴンさんがくれた花を食べて力を付けることだ。
「あとは、あれが必要だわ」
「あれ?」
「春くんが知っている、回復薬のレシピ」
鈴花さんのレシピ?
けれど、私は鈴花さんからそのような話を聞いたことがない。そう考えて、けれど1つ思い当たることがあった。
もしかして……。
「水晶の回復薬?」
「あら、知っていたの? それなら、話は早いわ」
「い、いえ! 存在は知っているんですけど、内容は知らないんです」
水晶の回復薬とは、ダンジョンのお店で稼ぐことのできる秘密の硬貨と交換することのできるものだ。
けれど、今は秘密の硬貨を貯めたとしても、交換してくれる鈴花さん本人の意識がない。これでは、硬貨を集めてもレシピをゲットすることができない。
それをレティスリール様に説明すれば、「そうだったの」と顔を曇らせた。
「ないのならば、仕方がないわ」
「水晶の回復薬って、何なんですか?」
「これは、防御を高める回復薬よ。絶対にひなみの力になるのに……」
防御を……?
今までは回復をしたり、魔力の底上げがメインだった。
それを考えると、特殊な位置づけになる回復薬なのだろう。気になるけれど、こればかりはどうしようもない。
「とりあず、今は力を付けることを先決に動きましょう」
「はい!」
レティスリール様の言葉に大きく頷いて、私はレティスリール様とダンジョンのお店へ向かった。




