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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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26. 水の妖精

 回復薬(ポーション)を2号店へ運び込み、いつでもお店を開店できるようになりました。

 店員になってくれた妖精さんたちは、「すぐにでも売りましょう」と意気込みは十分。が、そんなにとんとんと進めてしまうのはちょっと怖いというか、心配になる。



 とりあえず、と。

 私はソールとともにいったん自宅の庭へきていた。まろの姿は見えないから、おそらくお店に立ってくれているんだろうと思う。

 約束していた、青い花。これを庭に植えて、綺麗な花をたくさん咲かせる。



『わぁ、すごい森ポッホ!』

「うん。魔物もでるから、絶対に庭から外へは出ないでね?」

『わかったポッホ!』



 私の持つスキル、神様の箱庭。

 これは私の家と店舗に効果を発動し、危険なものを寄せ付けないのです。魔物とかね。なので、庭はいいけれど、一歩でも森へ踏み出したら安全は保証できない。



「ここでいいかな?」

『お水がいっぱいのところがいいポッホ!』

「そう? なら、こっちにしようか」



 畑の片隅にと思ったのだけれど、ソールの言葉を聞いて魔力マングローブのところへ植えることにした。

 ここは綺麗な魔力水が流れていて、きっと青い花の成長を助けてくれるだろう。



『あ、水の中に植えて欲しいポッホ!』

「え?」



 さすがに水の中に植えたら、水の取り過ぎになってしまうのではないだろうか? 大丈夫なのかなぁと思いつつも、ソールが言うのであればきっとその方がいいのだろう。

 私は魔力マングローブの水に手を入れて、花を植えるくぼみを作る。



『水が大好きだから、きっと喜ぶポッホ!』

「そうなんだ。青い花だもんね。……よし、これでいいかな?」

『ありがとうポッホ!』



 青い花を魔力マングローブの根元に植えて、一安心。これで綺麗に、もっとたくさんの花を咲かせてくれたら嬉しいと思う。

 元々生えていたのは、洞窟の地下だったから、太陽の光が足りなかったんじゃないかなぁと思う。とは言っても、日本とはまったく異なる花や植物もあると思うから一概にそれがいいとは言えないけれど。



「……ん?」

『きたポッホ!!』



 そんなことを考えていれば、なんだか違和感を覚えた。

 いったい何がと思って植えた青い花を見れば……そこには、小さな女の子が。



 いや、青い髪の妖精がいた。



「…………えっ?」



 くるんとした髪の毛が、結ばれている。澄んだ色の瞳は、綺麗な水を思わせる。



『よかったポッホ!』



 嬉しそうに妖精さんのところへと飛んで行くソール。

 そしてふと、お店にいる3人の妖精さんを思い出す。

 火、風、土。そういえば、4大精霊といえば……水がたりないのではないだろうか。あのダンジョンには、水の妖精らしい姿は見えなかった。



『……』

『うぅん、まだ喋れるほどの回復は無理ポッホ。でも、植えただけで姿を取り戻せるのはすごいポッホ! すぐに元気になるポッホ。ひなみ、ありがとうポッホー!』

「うぅん。どういたしまして! というか、妖精さんだったんだね? 全然わからなかったよ」



 ということは、この世界の妖精さんは花から産まれているのだろうか。今度調べてみるのもいいかもしれない。

 2年以上暮らしたけれど、わからないことや知らないことがまだまだ多い。

 花が妖精さんになって、しかもぐったりとしていることにはとても驚いたけれど、とりあえず今後回復をしていくのであれば一安心です。



「大丈夫かな」



 それでもやっぱり心配で、ついつい声に出してしまう。

 そうすれば、ソールが大きく頷いて『大丈夫ポッホ』と言ってくれる。



「よし。じゃぁ、このことをまろに伝えないと。ソールのことも紹介するから、一緒においで」

『まろ?』



 首を傾げるソールを手招きしながら、私はひなみの箱庭(ミニチュアガーデン)へと移動した。



 そうすれば、驚いたまろが私へと突撃するというイベントがおきました。……まろ、今日も元気だ。



「ひなみ〜! 会いたかったのであるっ!!」

「私も会いたかった。ただいま、まろ」



 ちょこんと結ばれたツインテールが揺れて、私の腰にぎゅっと抱きついてきた。

 その様子がなんだかとっても可愛くて、まろの頭をいいこいいこと撫でてみる。嬉しそうに笑ってくれたので、どやらお気に召してくれたらしい。



「ん? ふくろう?」

『ソールだポッホ!』

「おぉ〜! まろはまろだよ、よろしくなのであるっ!」

『よろしくポッホ!』

「魔力マングローブのところに、妖精さんの青い花を植えたの。しばらくは、ソールと一緒にここで暮らしてもらうからよろしくね」

「わかったのであるっ!」



 すんなりと頷くまろは、やはり精霊なだけあると思う。

 あまりどころか、ほぼ説明をしていないのに……。妖精さんが花から産まれること、確かに精霊であれば知っていてもおかしくはないなと思う。

 普段はわりと抜けているように見えるけれど、その知識量は確かなものだと思う。



「妖精はこっちにこないのである?」

「あ、えぇと。まだ体力? が、回復してなくて。ちょっとぐったりしてるんだ」

「そうなのである? 日陰にでも植わってたのである……? ひなみの庭なら、きっとすぐ元気になるのである!」



 やはり、まろは花から妖精が産まれるということを知っているようです。

 もしかしたら、いいお世話の仕方とかも知っているかもしれない。時間ができたらいろいろ話してみようかな、なんて。少し考えると楽しくなった。



 加えて、店舗の2号店のことを伝える。



「ええぇぇぇっ! すごいのであるっ!! 2号店!!」

「とは言っても、まだ準備ができただけで実際に販売してるわけではないんだけどね」

「でもでも、それならもう勝ったも同然なのである!」



 いや、特に勝負をしてるわけではないよ?

 ガッツポーズをするまろは、いったい何を見ているのだろうか。とはいえ、まろがお店のことをそんなふうに考えてくれるのはとても嬉しいからいいのかな?



『ここが1号店なのポッホ?』

「そうなのである! 今やお昼には全部売り切れちゃう人気店なのである〜っ!!」

『すごいポッホ!』



 どやっと嬉しそうに自慢するまろは、胸を張って「ふふん」とにやけている。

 気付けば、すっかりまろがこのお店の看板娘です。私は遠出したりと、あまりお店にいることがないからなぁ。こんなことではいけないと思うけれど、リグ様のためにもいろいろ冒険をしなければと思ってしまう。

 2号店も、妖精さんにおまかせするような形になりそうだし。いや、世界で起こっている魔物の凶暴化をなんとかするのが先決だけれども。

 ちょこちょこ様子を見に戻ってきたいなとは思う。

 それに、私自身お店をするのも大好きだから。



「っと。そろそろ戻らないと」

「もうなのである?」

「うん。サリナさんとかも待たせちゃってるから。こっちを任せきりにしちゃってごめんね?」



 残念そうなまろの顔を見ると、戻るのを少しためらってしまう。

 けれど、まろはそんな私を察したのか笑顔で「まかせるのである」と言ってくれる。ありがたいなと思いつつ、今度甘いお菓子をお土産にしようと心に誓った。







 ◇ ◇ ◇



『ありがとうなのだわ』

『またよろしく』

『……』



「…………」



 なんということでしょう。

 再び箱庭の扉を潜り、ソールは家においてきて1人で戻ってくれば……開店してました。



 3人の妖精は接客をしたところだったようで、ぱたんと扉がしまった。

 というか、お客さんが来たということに私は大変驚いたんですけどなんでしょうか。お客さん来たの? 人間? 妖精? それとも、もっと別の何者か?



「あ、ひなみちゃん! おかえりなさい」

「サリナさん! ただいまです。えぇと、これは……」



 棚の前で回復薬(ポーション)を見ていたサリナさんが、私に気付く。とくにどこに行ってたとか、そんなことを聞かれず少しほっとした。

 というか、サリナさんは私なら何でもできると思っているような気がします。



「お花を飾ったの。可愛いでしょ?」

「うん、すっごく!」



 ……って、そうではなくて!



「お客さん、というか、いつの間にお店をオープンしたの!?」

『あら、商品があるのだもの。オープンするのは当然よ!』

『店長、売れた』



 赤い髪をなびかせて、ベアトリーチェが持っている傘をくるりと回す。『ふふっ』と自慢気に笑い、とても生き生きしているように見えた。



『ほら、売り上げよ!』

「んんっ? これって、硬貨?」



 ちゃりんと、小さな硬貨をベアトリーチェが見せてくれる。

 それはこの国のお金よりも小さくて、虹色をしていた。中央に花が描かれているそれは、まさに妖精のお金と言っても過言ではないだろう。



『これは、妖精や精霊が使っている秘密の通貨よ。世界に住む妖精のお店などで使うことができる、とても貴重なものなの』

「すごい、こんなお金があったなんて知らなかった」



 人間とはまた違い、妖精さんたちには共通の硬貨があるなんて。

 少し話を聞けば、これを人間の通貨と交換など行っているところはないという。つまり、人間の硬貨を妖精の硬貨にできないし、逆もしかり。



『この硬貨を使うと、この店舗の設備をグレードアップさせることができるわ。もっともっと、素敵なお店にしていかないと』

「グレードアップ?」

『そうよ。主様に協力してもらえば、ここはもっともっと素敵なお店になるのよ!』



 嬉しそうに語るベアトリーチェを見て、なんだか私よりもこのお店に期待をしてくれることがわかる。

 1号店はまろ、2号店はベアトリーチェたち。

 なんだろう、店主なのに私ってば出遅れてる……!?



 いやいや、がんばらねば。

 そう意気込みを入れようとしたら、入り口が開いて来客を告げる。



「……え?」



 見覚えのあるその人に、私は間抜けな声を上げてしまう。

 まさかお客さんとしてきてくれたのだろうか? いや、冒険者だと言っていたからたまたまこのダンジョンに入ってきただけという可能性も高い。



 と、思っていたのだけれども……。

 私の考えは、ベアトリーチェの言葉によって砕かれた。



『あっ! 主様!! おかえりなさい』

「……ただいま、ベアトリーチェ」

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