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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
131/175

23. 開かれた扉

 地下 9階 鍛冶屋


「うそぉっ! ひなみちゃんが、ひとりで、倒したの!?」

「えぇと、えと……偶然ですよ?」

「どんな偶然があったかは知らないが、ひなみが倒したというのは事実だろう」



 私が中ボスだった魔物を倒したことにより、サリナさんにとても驚かれた。もちろん、アルフレッドさんやサイネさんも驚いていたけれど。

 ソールはなぜかそんなに驚いていなかった。もしかして、私への評価が過大すぎるのではないかと逆に不安になってしまう。



「それにしても、9階へ降りるための仕掛けがなくてよかった。おそらく、フロアにいた魔物を倒すというのが条件だったのだろうが……ひなみとともに、この9階へ移動したからな」

「あ……そうか、ここは9階なんですね」



 確かに転げ落ちたことを思い出して、納得する。そうか、ここは9階。

 あまり周りを見ていなかったと思い見てみれば、たしかに鍛冶屋といわれれば納得できるようなつくりだった。ワンフロアの空間になっており、鉱石のようなものが端に積んであった。

 その横には、ずっと使われていないのか、ほこりをかぶった鍛冶の道具などもあった。



「ここは前回来たときとなんら変わっていませんね」

「……そうだな。鍛冶スペースのようだが、なぜこんなものがダンジョンにあるのか」



 アルフレッドさんとサイネさんは、地下10階までは来たことがあると言っていたのを思い出す。地下10階に行くための階段は、すぐに見つけることができた。

 仕掛けはなんだろうと思えば、扉の横に大きなくぼみができている。拳が描かれた石碑があるけれど、どういう意味なのだろうか。

 首をかしげてみていれば、サリナさんがくぼみの前へと立つ。



「ふふ、私の出番ってことだね!」

「……ひなみさん、危ないですから少し下がりましょうね?」

「え? はい……?」



 サイネさんに手を引かれ、くぼみの前にサリナさんを残した状態で10メートルほど離れた。

 いったい何が始まるのだと思えば、ぐっと拳を握り締めたサリナさんが……くぼみへ強い一撃を加えた。え!? いったい何が!? そう思いつつ、もしかしてと仕掛けの答えが脳裏に浮かぶ。

 拳が描かれた石碑。……つまり、己の拳を示せということなのだ。パンチングマシーンのように、その人を試すのだろう。



 ドオォォン……。

 大きな音と砂埃をたてて、サリナさんが立っている。その背中がとてもたくましく見えて、あぁ、勇者なのだろ……思い知らされる。

 ゆっくりと扉が開いたのをみて、サリナさんはくるりと回り、笑顔でブイサインをした。







 ◇ ◇ ◇



 地下 10階 妖精の泉



「うわ……ぁ……」



 私は感嘆の声を上げるしかできなかった。

 階段を下り、視界に広がったのは妖精の泉。そこは今までの荒れ果てたフロアとは打って変わり、きらきらと輝く空間だった。

 クリスタルの花が咲き、妖精と思われる小さな跳ねの生えた人が楽しそうに過ごす空間だった。



『誰か来た!』

『人間だ!』

(ぬし)様のお友達?』



 私たちを見つけた妖精さんが、そわそわしながらこちらを伺っている。

 妖精なので、おそらく魔物ではないのだろう。

 可愛らしいその姿に、なんだか見ていてどきどきしてしまう。赤色、緑色、黄色の妖精さんたち。何かそれぞれ種族があるのだろうか。



「すごい! 妖精がいるなんて知らなかった!」

「赤は炎の妖精。緑は風、黄は土の妖精だな」



 それぞれ、自然の妖精さんがいるんだ。アルフレッドさんの言葉に耳を傾けながら、私はそろりと足を踏み入れる。妖精さんとお友達になれたらいいなと思うけれど、さすがに難しいだろうか。



『人間だ! 私は炎の妖精よ! あなたはだぁれ? 何をしに来たの?』

「えっと、ひなみです。ここには、魔物が多い原因を調査しに来たんですけど……」

「何か心当たりはないか?」

『魔物! 主様のやつだ!』



 どうやら何か心当たりがあるようで、ぽんと手を鳴らす。

 主様と呼ばれている人が関係しているようだけれど、いったい誰なのか。このダンジョンの主だろうか。もしいるのであれば、会って話をすることができればいいのだけれども。



『んー……。ここのダンジョンはね、地下に少し主様の瘴気がたまってるの。それが、魔物に影響を与えて、活性化させるの』

『だから、活性化した魔物が地上へ登って行ってるんだと思うの』

「瘴気? 聞かない言葉ですが、いいものではなさそうですね」

「……そうだな」



 いったい、このダンジョンの地下に何があるのだろうか。妖精さんの言葉を聞き、魔物を活性化させるそれが少し恐くなる。レティスリール様のときのような、心の闇なんだろうか。

 ここのダンジョンは、地下13階。居住スペースと書いてあったから、恐らくそこに主様という人が住んでいるのだろう。いや、もしかしたら現在はいないかもしれないけれど。



「とりあえず、原因は地下にあるということか?」

『そう! 地下13階に行けば、そこに瘴気があるの』

『でも、瘴気なんてどうやって消すの?』

『そうよ! 無理よ』

『だけど、なんとかしないと魔物が止まらないもの』

「「「…………」」」



 なかなかに、瘴気を払うということは難しいようです。

 妖精さんでも解決方法を知らないというのであれば、いったいどうすればいいのか。困ったなぁと思うけれど、アルフレッドさんは実際に見てから考えるという結論を出した。

 ひとまずは精霊さんたちにお礼を言って、さらに先へと進むことにした。



「ここの仕掛けは、4人でなければ駄目でしたね」

「そうだったな。ひなみはここに立っていろ。俺たちもそれぞれは位置に付く」



 階下へ進む扉の前、床に色の違う四角いパネル。

 どうやらそこに乗ると色が変わるという仕掛けになっているようで、それぞれ部屋の端に全部で4つあるようだった。

 確かにこれでは、2人で先へ進むことはできない。



 サリナさんが最初に配置まで付いて、次にアルフレッドさんとサイネさんも配置に着く。どきどきしながらパネルの上で待機をすれば、4人が乗ったときにパネルが光り輝いた。



『おぉぉ、すごいポッホ!』

「うん。これで扉が開くんだよ」



 私の肩に乗ったソールが翼を広げて、いつも見ないような後景に心を躍らせている。私も一緒にわくわくして、冒険というものは不思議な胸の高鳴りを感じさせてくれるのです。



「……開いたっ!」



 フロアに咲くクリスタルの花が一斉に輝いて、ふわっと辺り一面が明るくなる。

 ゆっくりと扉が開くのをみて、私は胸の高鳴りを抑えることができないでいる。

 だってだって。そう、次のフロアは……地下11階の空き店舗スペースです。ダンジョンの中だからとは思うけれど、いや。だからこそ、なんだかどきどきしてしまう。

 花がやっていたダンジョン攻略のゲームでも、途中にお店をしている人がいたのを思い出す。フロアに敷布を広げて商品を並べる。ダンジョンを攻略している人が買うということを前提にしているため少し高めだけれど、アイテムがなくなった際に補充できるから便利だと言っていた。



「ひなみ、大丈夫だったか?」

「はい。アルフレッドさんたちも無事でよかったです」



 罠がある仕掛けには思えなかったけれど、全員がちゃんと無事だということを確認して安堵する。

 妖精さんたちも『おぉ~』と声を上げて、きらきら光るクリスタルの花にはしゃいでいた。



「それでは、行きましょうか」

「うん。ここからは、完璧に未知の領域だね!」

「あぁ、気を引き締めていくぞ。ひなみは、俺の後ろから離れるな。サイネよりも後ろには行くなよ?」

「は、はい!」



 さすがに中ボス部屋で馬鹿をしてしまったので、素直に従う以外の答えは持っていません。こくりと頷き、サリナさんを先頭にして、アルフレッドさん、私、サイネさんの順番でフロアをあとにした。



『また来てねー!』

『がんばって~!』

『いってらっしゃいなの!』



 妖精さんが見送ってくれた。ただそれだけで、私はなんだかがんばらねば! という気持ちになる。単純だけれども、応援をしてもらえるということはかなり嬉しいのです。



「んんっ? なんだか、この階段は少し長い?」

「そのようだな」



 階段を進んでいけば、今まで下りてきた階段よりも距離が若干長いことがわかった。螺旋状になっている大きな階段を進み、しかし途中でサリナさんが足を止めた。

 何だろうと見れば、そこには階段の途中なのに扉がひとつ。

 クリスタルで作られたオシャレな扉が、ひときわ目立ちます。



「何か、お店みたいだね?」

「……開かないな」

「え? どれどれ……ぐぬぬぬぬっ! 開かない!!」



 扉の開かない、お店。

 アルフレッドさんが軽く開けようとしたのはいいけれど、かなり力を込めて開けようとしたサリナさんでもびくりともしなかった。

 先ほどあんなに凄まじいパンチを披露してくれたというのに、この扉はあのパンチをもしのぐ防御力なのだろうか……。



「んんっ? 扉に張ってあるこれって、貸し出し条件?」

「ここで店ができるということか?」



 私はどきどきしつつ、扉を見ているサリナさんとアルフレッドさんのところへ行く。扉には張り紙がひとつあり、この世界の言葉で店舗募集中と書かれていた。

 サリナさんが目にしたそれを、私も一緒に覗き込む。

 そして、賃貸の契約内容も書き添えられてた。



 店舗貸し出し条件

 ・店舗として通常の営業が可能なこと

 ・妖精を店員として雇用可能なこと



 私が思っていたような、厳しい条件ではなかった。妖精さんの雇用条件がどういったものかにもよるけれど、とても魅力的だと思えたのです。

 しかし、このダンジョン奥地にお客さんが来るのかと言えばそれは……否。



「そういえば、ひなみさんはお店を経営してるんでしたね。やはり気になりますか?」

「そうですね。クリスタルで外観もすごく素敵ですし、気になります。扉を開くとっても、綺麗な装飾がされていて……え?」

「ひなみ、お前……」



 普通に、私も皆と一緒に見ていただけなのですが。

 私が装飾の綺麗さに見惚れて扉の取っ手に手をかければ、いともかんたんに扉が開く。先ほどサリナさんが力をこめても開かなかったこの扉が……。



 開いた扉の先にあったのは、クリスタルでできた店舗。

 きらきら反射して光る店内は、とても幻想的な雰囲気に包まれていたのです。

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