表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
129/175

21. 強敵と書いて雑魚と読む

 地下 7階 動物園



「……ふぁっ!?」

「くそ……ッ! 我の炎よ、剣ツルギとなり漆黒の焔を纏え……」

「アルフレッド!!」



 サリナさんが声をあげて、大地を蹴り上げる。

 私は震えて声を上げるしかできなくて……サイネさんにぐいと後ろから手を引かれ、背へと庇われる。



「《剣王の乱舞(フィア・ダンス)》!」



 アルフレッドさんの肩に、大きな虎のような魔物の爪が喰い込む。しかしそれと同時に、アルフレッドさんの魔法が完成する。

 前に、一撃でドラゴンを倒した炎の魔法剣王の乱舞(フィア・ダンス)

 アルフレッドさんが得意とする、とても強い魔法。炎の剣が出現し、敵を討つ。その後景はとても幻想的で、危険な戦闘中なのに……美しさに目を奪われる。



「光の(しるべ)よ、その雫をここに。《癒しの光(ヒール)》」



 地下7階へと下りた瞬間、私たちを襲ってきたのは2匹の巨大な虎の魔物だった。

 すぐにサリナさんが1匹を剣で押さえ込む。が、すぐに攻撃を仕掛けた2匹目はアルフレッドさんへとその爪を喰い込ませた。

 痛みと恐怖があるはずなのに、アルフレッドさんは少し苦しそうな声を上げるだけ。すぐさま呪文を唱え、魔法を使った。きらきらと輝く炎の剣は、一瞬にして魔物を闇へ葬った。



「これが、治癒魔法……すごい」



 怪我をしたアルフレッドさんの傷を治したのは、サイネさんの治癒魔法。優しい光がサイネさんから溢れて、アルフレッドさんの傷を治す。

 私の回復薬(ポーション)とは違う、人を包み込んで癒す光。

 サイネさんが優しく微笑んで、「もう大丈夫ですよ」と。震えて何もできなかった私を、安心させるようにフォローをしてくれる。



「ひなみ、無事か?」

「ひなみちゃん、大丈夫!?」



 戦闘の終わったアルフレッドさんとサリナさんが、私を心配してくれたのか駆け寄ってくる。私はサイネさんの後ろにいたので、怪我もない。

 というか、アルフレッドさんは怪我をしたのに私の心配より自分の心配をして欲しい……!!



「私は大丈夫です! というか、怪我をしたのはアルフレッドさんじゃないですか! アルフレッドさんこそ、大丈夫なんですか?」

「ん? あぁ、これくらいなら問題はない」

「私からしてみれば大問題ですよ……」



 涼しい表情(かお)で告げるアルフレッドさんは、まるでいつものことだとでも言うようで。サリナさんも横で頷いているから、本当に普段からこんな危険な戦いをしているのだということがわかる。

 そんな私を「まぁまぁ」とサイネさんがなだめてくれる。これがこのパーティーの日常だなんて、私には絶対についていけないと……思う。



「まぁ、とりあえず進もうか! 結構魔物の気配が強いから、ひなみちゃんは絶対サイネから離れないでね」

「わ、わかりました!」



 絶対という部分を、サリナさんが強調する。動物園というこのフロアは、魔物がイコール動物ということなのだろうか。

 そうなると、かなり……悪趣味だ。



「護りの光よ、ここに《女神の加護(レティス・シールド)》」



 サイネさんの魔法は治癒術師ということもあり、護るということに特化している。戦う姿が勇ましいということはもちろん知っているけれど、この神々しい光は女神様に愛されているのだろうと思ってしまう。

 私たちはベールのような光につつまれて、しかしそれはすぐに消えた。というよりも、身体に張り付いて溶け込んだ……という表現の方が正しいだろうか。



 ここ、地下7階の動物園。

 まるでジャングルのように、木が生い茂り、空には鳥にしては大きい……魔物が飛んでいる。眼前はすべてが森。次のフロアへ下りる階段を見つけるのが、大変そうなほどに。

 亜熱帯のように少し蒸し暑くて、よく見れば木にはバナナのような実が生っていた。



「俺たちはまぁいいとして……ひなみ!」

「あ、はいっ!」

「辛くなったらすぐに言え。間違っても、無理をしようとはするな」

「あ……はい」



 なんだか、見透かされたような気がした。

 確かに私は、自分から休憩をしたいとは……なかなか言い出せない。限界まで頑張ってしまうタイプです。しかもこの状況下では、なおさら。

 ちょうどよく休むタイミングがあればいいな、なんて。お気楽のんきなことを考えていた。だけどアルフレッドさんには、簡単に予測できることだったようで。反省です。

 ということは、私は普段から無理をしているように見えるのかなぁ……? うぅん、心配かけないように、もっとしっかりしなければ。



「しかし、やりにくそうだな。広ければ、広範囲の魔法で一撃なんだが……」



 アルフレッドさんの呟きで、どうやら私とは根本的に考えが違うというのがわかる。アルフレッドさんたちは、あの強そうな虎の魔物も、ドラゴンも、ひとくくりに敵であり魔物なのだ。きっと、私にとってのスライムがアルフレッドさんにとっての虎なんだ。

 …………あれ? 言いすぎかな? でも、アルフレッドさんの強さには、何度も驚かされてしまう。



「じゃ、出発!」



 サリナさんの元気な合図を聞いて、魔物が大量にいるであろう森へと……私たちは進んだ。







 ◇ ◇ ◇ ◇



「こぼれる雫に女神の鉄槌をくだせ《雫の二重奏(ダブル)》!」

「《灼熱の嵐(ファイア・ストーム)》!!」



 サイネさんとアルフレッドさんの、息が合ったコンビネーションが魔物を倒していく。最初、虎の魔物にアルフレッドさんが一撃もらって以降は怪我ひとつない。

 サリナさんが雑魚と思われる分類の強そうな魔物を剣で倒す。倒しきれなかった魔物をアルフレッドさんの魔法が襲う。

 強敵と思われる魔物に関しては、サリナさんが攻撃を防ぎサイネさんとアルフレッドさんが倒す。

 歩みを進める足は止まることをしらず、途中何回か休憩をはさみ、しかし確実にかなりの距離を歩いた。



「あー……あの魔物、固いや」

「《雫の二重奏(ダブル)》!」

「《剣王の乱舞(フィア・ダンス)》!」



 前からのっそりと歩いて来たゴーレムのような魔物に、サリナさんがぽつりと言葉をもらした瞬間。いや、それを言い終える前にサイネさんの魔法と、それにかぶせるようにアルフレッドさんの魔法が発動する。

 サイネさんが使用している雫の二重奏(ダブル)という魔法は、かなり難易度の高い魔法。魔物に使用する魔法で、効果は次に受けるダメージを倍増させるというものだ。

 つまり、雫の二重奏(ダブル)の後に打ったアルフレッドさんの剣王の乱舞(フィア・ダンス)は通常よりも2倍のダメージを魔物に与えているということになる。



 あっけなく倒された魔物を見て、私はただただ圧倒されるだけ。アルフレッドさんは魔力が尽きてきたのか、ぐいと深海の回復薬(マリン・ポーション)を飲み干した。



「……ふぅ。ひなみ、大丈夫か?」

「私はまぁ、歩いてるだけですからこれくらいは」



 なんとか踏ん張りますとも。

 森の中を歩いているので、正直大分疲れてはいます。しかし、もう少しなら頑張れそうだとも思う。うんうんとひとり頷けば、アルフレッドさんが見透かしたように「無理をするな」と頭をぽんとされる。

 私はポーカーフェイスが得意なはずなのに、おかしい。



「さて、と。次の階層まで、距離的には半分といったところか」

「休憩。というか、野宿かなぁ……寝袋はっと」



 大きな岩と、小さな水場。

 ちょうど休むのにいいと、アルフレッドさんが今日はここで休むと告げる。きっと私を気遣ってくれたのだろうと思いつつ、遭遇する魔物には緊張の連続で、森の中を歩いた足はぱんぱんです。



 焚き火を作り、お鍋を設置してスープを煮込んで夕食にするらしい。私はサイネさんと一緒に料理を振り分けられる。

 その間に、アルフレッドさんとサリナさんがテントなどの準備をしてくれる。絶対私の方が楽な気がするけれど、「適材適所だ」と一喝される。



「野菜に肉、あとはパンにお米ならありますよ。どんな料理にしましょうか」

「え、お米があるんですか?」



 私の嬉しそうな声に、サイネさんはにっこり頷いて鞄からお米を取り出してくれた。それに、野菜にお肉。雑炊を作るのもいいんじゃないかなと思いつつ、続いて出てきたチーズに目を奪われる。こ、これはとろける……!

 チーズリゾットもどきが作れるのではないだろうか。サイネさんに調味料も何種類か出してもらい、私はいそいそと美味しいご飯の準備を始めた。



「……ひなみさんは、料理が上手ですね」

「そうですか? 家ではよく作ってたんです」



 ぐつぐつと美味しそうな匂いをさせているお鍋を見て、私のお腹が少しきゅぅと鳴った。



「唯一のとりえみたいなものでしたからね。家事は、わりと一通りできるんです」



 えへへと笑いながら、私は最後の仕上げにチーズを乗せる。とろとろになったタイミングで食器へよそる。

 ダンジョンで、さらには森の中だというのに。キャンプをしているみたいで、どうしてもわくわくしてしまう自分がいる。焚き火というのが、そういうテンションにさせてしまっているのだろうか。……いや、アルフレッドさんたちと一緒ならば絶対に大丈夫という安心感かもしれない。



「わあぁあっぁ! とろとろのチーズ! 美味しそうー!!」

「美味そうだな」



 テントを張り、周囲の魔物を殲滅させたアルフレッドさんとサリナさんが戻ってくる。というか、休むために周囲の魔物を一掃するという考えが私にはありませんでした。

 軽く「魔物を倒してくる」と行ってしまった2人を見て、私はかなりわたわた混乱していたことだろう。サイネさんに「大丈夫ですよ」と笑われてしまったのだから。



「んんんっ! これはとろとろ!」



 ぱくりと一口食べたサリナさんが、頬っぺたを抑えてきゅんとしている。いつの間にかリュックから出て来たソールも器用にくちばしでチーズリゾットを食べた。



「明日も頑張れそう! ありがとうね、ひなみちゃん!」

「そう言ってもらえると嬉しいです。たくさん食べてくださいね」

「もちろん!」



 こんなダンジョンの真ん中なのに、ここはとても温かかった。







 ◇ ◇ ◇



 疲れているだろうから見張りはしなくていいと、アルフレッドさんたちにテントへと押し込められました。

 ダンジョンに入って、1日目は休憩スペースで休んで、2日目の今日は森の中。いや、ジャングルと言ってしまってもいいかもしれない。

 3日目になる明日でこのフロアを抜け、次の地下8階へと進む。

 魔物が大量に発生しているであろう原因を突きとめるために。でも、ここのフロアはとても魔物が多いから、ここの魔物がなんらかの形で溢れ出ているという可能性もある。

 ハードウルフなどの、アルフレッドさんたちにとっては雑魚の雑魚、キングオブ雑魚と言っても過言ではない魔物も数多くいたのです。



「っと。こんなこと考えてる場合じゃない」



 私はリュックから交換日記を取り出して、今日の出来事を書こうとして……リグ様。



 - - - - - - -


 今日はゆっくりお休み、ひな。


 - - - - - - -



 すでに書かれていた一行を指でなぞる。

 私が疲れてへとへとだということは、どうやらお見通しらしい。しかし何も書かないのは寂しいというか、なんというか。



 - - - - - - -


 10秒以内に寝ないとお仕置きです。


 - - - - - - -



「ふぇぁっ!?」



 もやんと考えていれば、リグ様からの恐ろしい一言が。慌てて寝袋の中で横になって、目を閉じる。……そんなすぐに眠れませんよ!?

 横になればいいってことですよね、リグ様!? 私の頭は若干混乱していて、しかし逆に目がさえてしまい横になっているのになかなか眠りに落ちない。

 10秒なんてあっという間に過ぎてしまったけれど、一応横になって目を閉じたからセーフでは……あるはずです。



 ぐるぐるといろいろ考えていた私が眠りに落ちたのは、その10分後。

 夢の中でまどろむ私は、交換日記にさらに一文追加されたことを……まだ知らない。



 - - - - - - -


 ……残念、お仕置きだよ?


 - - - - - - -


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ