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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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2. 魔物の凶暴化

憂鬱な月曜日に、私は好きな小説を読めると嬉しい!

なので、私も更新することに!

しかし私の小説で憂鬱な気分が晴れるかというと…チッチッチゥ



少しでも元気になってくれたらいいな!

 迷いの森にある私の家は、朝からばたばたと慌ただしい。

 〈アグディス〉から無事に帰ってくることはできたのだが、休む間もなく大量の回復薬(ポーション)が必要になった。

 私が倉庫で回復薬(ポーション)をまとめて、イクルとまろがそれを庭へ運び出す。後ほどアルフレッドさんが取りに来る予定だからだ。

 本当はお店で渡すことができればよかったのだけれど、「どうやってこんなにたくさん運んだんだ?」と問われてしまったら返答に困ってしまう。

 私がリグ様にポイントで交換してもらった箱庭の扉は絶対秘密にしないといけないのだから。



 回復薬(ポーション)がたくさん必要になった原因は、魔物の凶暴化。

 戦う騎士や、冒険者が必要とする回復薬(ポーション)の数が多くなっているのだ。怪我をしてしまうことが増えているということなので、私の回復薬(ポーション)が役に立つのであればぜひとも使ってほしいところ。

 でも、いったい何が起こったのか。魔物が凶暴になるなんて、異常事態以外の何ものでもない。慌てる私の横で、イクルはどうやらこの事態を想定していたようで……冷静だった。



「魔物が産まれなくなったからだろうね。女神も、こういった事態になることを示唆していたみたいだね」

「えっ!? そうだったの……?」



 イクルの言葉を聞いて、そういえばとレティスリール様のことを思い出す。

 確かレティスリール様は……私に苦労をかけるかもとか、何かが起こりそうとか、そんなことを言っていたような気がする。そうか、このことを予想していたんだ。



「魔物はもう産まれない。だから、今いる魔物が危機を感じた……?」

「そういうことだろうね。ここが正念場だよ、ひなみ様」

「……うん。私は傷ついた人を治すことしかできないけど、きっと私の回復薬(ポーション)は役に立ってくれるはず」



 一応、回復薬(ポーション)の効果はみんなのお墨付きです。

 私以外にも、薬術師が総動員して回復薬(ポーション)を補充しているらしいが、まったくたりないようだった。ひなみの箱庭(ミニチュア・ガーデン)にも連日冒険者が溢れていて、常に売り切れ状態という現状。



「ひなみっ! アルフレッドさんきたよ! あと、女の人も一緒なのである!」

「まろ、ありがとう!」



 ドラゴンでひとっ飛びしてきたことは予想できるけれど、女の人は誰だろうか? アルフレッドさんからは、回復薬(ポーション)を取りに行くということしか聞いていない。

 彼女さん? って、この緊急事態にそれはないか。となると、パーティーメンバーだろうか。たしかアルフレッドさんのところは……って! 勇者パーティーのメンバーってこと!?

 やばい、すごい人がきているに違いない。倉庫から1階へ行くための階段を上がりながら、どんな人だろうとぐるぐる想像をしてしまう。



 ドアを開けて庭に出れば、予想をしていたとおりアルフレッドさんとそのドラゴン。それから、女の人。白いうさみみがぴょんと頭からでていて、腰には剣。淡い色の髪は肩までの長さがあり、後ろで小さめにひとつ結んであった。



「ひなみ! 久しぶりだな」

「あ、お久しぶりです!」



 私に気付いたアルフレッドさんが片手を上げてこちらへ歩いて来る。ゆれる長い髪は後ろに纏められていて、炎を操る魔術師であることを強調するかのような綺麗な深い赤。そしてその優雅な足取りは、貴族であることがすぐわかる。



「まだアグディスから帰ってきたばかりだというのに、すまないな」

「いいえ。私の回復薬(ポーション)がお役に立つのなら、嬉しいです!」

「そう言ってもらえると助かる」



 私に「ありがとう」というアルフレッドさんの顔は、どことなく疲れているようだった。大丈夫かなと心配になっていれば、アルフレッドさんの横からうさみみの女の人が出てきた。

 ぴょこんとゆれる耳が可愛いこの人は、騎士団の人というよりは、勇者パーティーの人だろう。だって、着ている服が騎士のものとは違うから。



「初めまして、ひなみちゃん。私はサリナ! アルフレッドと同じパーティーで、前衛術師をやってます。よろしくね」

「ひなみです。よろしくお願いします、サリナさん!」



 可愛い笑顔で笑うサリナさんと握手を交わして、やはりすごい人だった! と、少し緊張してしまう。



「ちなみに、サリナは今代の勇者だ」

「そうなんですね。勇者さん…………えっ? 勇者!?」

「ええと、一応。頼りない勇者でごめんね?」

「いえいえいえ! そんなことないです勇者様……!」



 一瞬フリーズしてしまった。

 勇者というと、聖剣のようなすごい剣を持っている男の人だと思っていたのだけれど、とても可愛い女の人だったなんて! びっくりしてしまった。



「やだ、様なんてつけないで! 恥ずかしいから!」

「ええと、じゃぁサリナさんでいいですか?」

「うん! それでよろしくね!」



 うさみみを揺らしながら笑うサリナさんは、照れているせいか若干顔が赤い。きっとすごい実力を秘めているであろう瞳は赤く、それでもアルフレッドさんと同じようにどこか疲れているように感じる。

 やっぱり魔物が活性化しているから、いつもより魔物を倒したりするのが大変なのだろうか。スライムみたいな弱い魔物しか倒さない私とはレベルが桁違いだろうし……。

 アルフレッドさんがドラゴンを倒していたのを思い出して、勇者パーティーのメンバーでこれということは……あれ? サリナさんってとんでもない人?



「っと、ひなみ。回復薬(ポーション)はこれで全部か?」

「……はい! それがお渡しできる回復薬(ポーション)です。足りますか?」

「あぁ、十分だ。感謝する」

「あの美味しい回復薬(ポーション)がこんなにいっぱい! ありがとう、ひなみちゃん。これなら喜んで傷も負えちゃうよ!」

「いやいやいやいやいや、十分注意してくださいね!?」



 どうやら私の回復薬(ポーション)を飲んだことがあるらしいサリナさんがさらりと怖いことを言って、私は冷や汗だらだらでございます。

 お願いだから、回復薬(ポーション)を飲むためだけに傷を負うのはやめてくださいね!? なんだかサリナさんの目がきらきら輝いていてちょっと本気なのではないかと不安になってしまいます。



「よし……! イクル、代金だ。サリナはこのまま城へ回復薬(ポーション)を持って行ってくれ。俺はシュトラインで先に行く」

「うん、わかった。気をつけてね。間違っても、森を魔物ごと焼き払っちゃ駄目だよ!」

「……そんなことしない」



 回復薬(ポーション)の数などを確認したアルフレッドさんが、イクルに代金の入ったかなり大きい袋を渡していた。かなりの量があったはずなんだけど、すべて綺麗になくなっている。魔法の鞄(マジックバック)を使ったんだろうな。

 今回渡したのは、倉庫にあるものすべて……ではない。さすがに、あんなにたくさんある在庫を見せるわけにはいけないから。



 体力回復薬(ハイ・ポーション) 2000個

 深紅の回復薬ガーネット・ポーション 1000個 

 魔力回復薬(マナ・ポーション) 1000個

 深海の回復薬(マリン・ポーション) 1500個

 姫の加護薬 300個



 ちなみに、このうち深海の回復薬(マリン・ポーション)の1000個はアルフレッドさんのものになる。この国が誇る絶焔の魔術師であるアルフレッドさんは、魔法がとてつもなくすごい。ドラゴンを簡単に倒してしまうほどに。

 そのため、魔力を回復するための回復薬(ポーション)の消費も激しいという。というか、回復薬(ポーション)をケチって怪我をしてしまう……なんてことがあると怖いので、アルフレッドさんのように清々しいまでにたくさん使ってくれた方が安心できたりする。



「じゃぁ、私はこのまま走って城に直行するね! その後、サイネと合流して追いかけるから」

「あぁ、頼む。ばたばたしていてすまないが、今回は失礼する。ひなみ、助かった」



 すぐにドラゴン、もといシュトラインの背中に乗り飛び立つ準備をはじめる。このまま魔物がいる現地へ向かうアルフレッドさんと、いったん回復薬(ポーション)を持ち帰るサリナさんで別行動をするようだ。



「いいえ、私こそありがとうございます。正規の値段で買ってもらっちゃいましたし」

「それは当然だ。っと、そうだ。この森にいる魔物も凶暴になっているから、十分注意してくれ」

「はい。アルフレッドさんもお気をつけて!」

「ああ。じゃぁ、行ってくる」



 すぐさま飛び立ち、あっというまにアルフレッドさんは見えなくなってしまった。私が以前乗せてもらったのよりも数段早いスピードで、よほど気を使ってもらったのだということがわかった。

 すごいなと眺めていれば、横からサリナさんの「ありがとう。私ももう行くね!」という声が聞こえて慌てて引き止める。

 会話を聞いていた限り、走って帰るつもりですよね!? さすがにというかなんというか、それは大変だと思うのですよ!



『チョッ!』

「あ、ダッチョンだ! すごい、こっちの国ではほとんど見かけないのに……」

「アグディスに行ったときに借りたんですけど、仲良しになったのでそのまま購入したんです。歩いて街まで行くのは大変ですから、よかったら乗って行きますか?」

「いいの? すごく助かる! ありがとう!」



 動物小屋の裏で、草をもしゃもしゃ食べていたダッチョンは、上手く空気を読んで私とサリナさんのところに顔をだしてくれた。

 いいこいいこと頭を撫でれば、嬉しそうに『チョー!』とすり寄ってきてくれる。



「ひなみ様、これを」

「あ! ありがとう、イクル。サリナさん、ここに簡単ですけどサンドイッチを入れておくので、道中にでも食べてください」

「わ! 嬉しい。ありがたくいただきます!」



 イクルが用意してくれた鞄付きの特性鞍をダッチョンに付けて、その鞄にサンドイッチと飲み物がわりに回復薬(ポーション)を入れておく。

 アルフレッドさんの勢いを考えて、サリナさん絶対に休憩しないと思う。ダッチョンは体力もあるらしいから、街くらいまではおそらく大丈夫。

 ならば、その間はサリナさんに少しでも休憩してもらえればいいと思うのです。本当なら、私の家から扉一枚で街へいけるのです。ごめんなさい……。







 ◇ ◇ ◇



「はふぅ……疲れた」



 お風呂を出て、ぽかぽかした身体のままベッドへぼふんとダイブする。

 アグディスから帰って来るなり、いろいろと忙しくてまったくゆっくりできなかった。魔物が凶暴化したため、それに必要な回復薬(ポーション)の準備。でも、回復薬(ポーション)自体のストックがたくさんあってよかった。



 3日前に帰ってきた私は、店先で言い合っているまろとアルフレッドさんに遭遇した。

 回復薬(ポーション)がたくさん必要だから売ってくれと言うアルフレッドさんと、かたくなに1日100個の販売ですと貫き通すまろ。私を見たときのアルフレッドさんの安堵した顔は今でも忘れられません……!

 すぐさまフォローに入って事情を聞けば、魔物の凶暴化。回復薬(ポーション)を売る約束をして、私は可能な限りストックを作りイクルは冒険者ギルドを中心に情報収集。まろはお店番。



「なんとも怒濤な毎日だった……」



 しかし、回復薬(ポーション)を渡したのでとりあえず私にできることは終了。次の補充用にと作った回復薬(ポーション)もまだたくさんある。

 あとは……新しい回復薬(ポーション)や薬草もあるから庭の整理もしないといけない。



 なんだか、やることがたくさんある。ような気がします。

 私にできるのかなと少し不安になるけれど、とりあえずできることから1つずつやっていこう。明日は久しぶりにお店にも出て、買いにきてくれる冒険者さんに魔物のことを聞いたりしてみよう。



「んぅ、眠い……」



 ベッドに転がったのが間違いだったのだろう。睡魔がだんだんと襲ってきて……お風呂に入る前に交換日記を書いておいてよかったと、そう思う。

 寝てしまった私が、花からの手紙がきたことに気付くのは……明日の朝になってから。

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