第九十六話 服装です
「奈津子様」
「ん?」
「今、陽向様が暴れた時にちらりと見えたのですが、下に着ているのは防刃のシャツではありませんか?」
どこ見てるんですか! 気づかなくて良いんですよ久保さん!
「防刃のシャツってこんなに薄いの?」
「普段使われる防刃のよりは強度が少ないのですけど、軽いですし夏はこちらが……」
「ひ・な・た・さ~ん?」
「ひぃ」
奈津子さん、顔が怖いですってば!
「こ、これだけは……」
「だめよ、脱いで」
「や、やだー」
何とか二人の拘束から逃げて客室を出ようとしましたら、バトラーの方が立っていました。
そしてニッコリ。
「水崎さま、ドレスコードがないとはいえ。そのような姿で廊下に出られるのは……」
前ボタンの膝丈ワンピースにシースルーの白いシャツを着ていたのですが、シャツは当然脱がされていたうえに上のボタンが数個、お腹の辺りのボタンが二個開いていてインナーが……。
「ぎゃー!」
もう……キャーとか言ってる場合じゃありません。
「すみませんすみません」
頭を下げて、客室に逆戻り……そして相見えたのは奈津子さんと久保さんの二人。
「勘弁してください……」
ジリジリと壁を背にしますが、奈津子さんの笑顔が怖いです。
久保さん、セクハラで訴えますよ!
「陽向さん、全部交換よ交換!」
慌てて真琴と真由ちゃんに助けを求めようしましたが、そういえばエステ中。すぐにこれないですよね。なので速水君に連絡を入れようとしました。
「ふふふ、もしかして速水君かしら? 呼んでも入ってこないわよ?」
「え?」
「着替え中のところに男子を入れるわけないじゃない、ドアのところにバトラーが立っているのはそのためよ」
「じ、陣海さんに!」
「残念、この服の一部は陣海さんからのなのよ」
立ち尽くす私に奈津子さんが近づいて来ました。そしてポンと軽く両肩を叩いた後、手を乗せました。
「わざわざ船にしたのには、陽向さんに装備なしで過ごす日を少しでも作れたらと思ったからなの」
「え?」
「葛西は次の寄港で下すことに決まったわ。だから安心して。誰もあなたを傷つけたりしない」
「奈津子……さん」
「だから、普通の服を着て欲しいの。これはお願い」
「……結構勇気がいるの」
「ええ、だから誰かが必ず傍にいるわ」
「き、着替えるから久保さんは出てくださいね」
そう言うと、奈津子さんと久保さんがニンマリ笑います。
あ、あれ? 何か早まった感がするのですが。
久保さんが一礼してドアを開けて出て行きます。そして入れ替わりに陣海さん、真琴、真由ちゃんが入ってきました。
二人はエステじゃ……。
「さぁ、皆さん。陽向さんが了承してくれましたので、さっそく始めましょう」
「「「ラジャー」」」
あれ?
どうして全員で私を囲むのですか。
「先日決めた通り、お願いしますね」
先日って……会合開いていたのですか!?
「さて、それではわたくしの担当から始めさせていただきます」
担当ってなんですか、奈津子さんそれはあの。
「さぁ、これを着てね」
私の目の前に出されたのは……。
「な、奈津子さん。さすがにそれは普通のを着けていますって!」
「トータルコーディネートなんですから、さぁ」
「さぁって見えないところだから良いじゃない!」
「見えないところからオシャレをするのが女子ってものよ!」
それからディナーまでの約三時間。
私は着せ替え人形のように色々な服を着たり脱いだりすることになったのです。
フォーマルな服は着なくても良いのに、どうしてドレスを着て立っているのか。
私は鏡の前で茫然自失となっていたのでした。
インナーはしゃがんでも見えない、キャミソールみたいなのだと思ってください^^
防刃仕様ですが、インナーなことにかわりはないので悲鳴をあげています
久保さんが見たのはお腹の辺りです
特殊加工のため、気づいたと思われます




