第〇九十話 十一人目が来る
「速水君は知っていたの!?」
詰め寄ると、困ったような顔をして速水君が頷きました。
夏休み最終日までなんて困るんです。
せっかく北海道から香矢さんと千歌さんが来ているのに、夏休みが終われば私は寮に戻りますし香矢さん達は北海道に帰ってしまうんですよ。
今すぐ私を船から降ろしてー!
「まぁまぁ、陽向さん。そんなに落ち込まない。あ、そうそう乗っているのは同級生ばかりですし、格式張らないで楽しんで欲しいという理由でドレスコードはないというか、カジュアルでずっと行くことになっているの」
カジュアルは良いですけど、そもそもフォーマルな服なんて持ってませんよ。
制服くらいですか?
船旅に学園の制服はないですよねえ。
「それより、客室を見に行きましょ」
奈津子さんに連れられて客室へと向かうことになったのですが。
船の構造を見ていたのでどこにどんな部屋があるか、何となくわかっていました。なので、奈津子さんが向かっている場所にだんだん足が鈍ります。
「どうしたの? 陽向さん」
「いえ、あの……この先、もしかしてロイヤルスイートでは?」
「そうよ? 私の部屋がこの先にあるから」
あ、なるほど。そうですよね、奈津子さんのお祖父さまの船ですもんね。奈津子さんがロイヤルスイートなのは納得です。
嫌な予感が外れたことをホッとしまして、暢気に奈津子さんの後をついて行きました。
「笹村」
途中で黒い服を来た集団と出会いました。
「奈津子様」
「陽向さん、丁度良かったから紹介しておくわね。こちらこの船のバトラーを仕切っている笹村よ。陽向さん専属になるから何でも言ってね」
「は……はい?」
笹村さんを筆頭に五人のバトラーが私に挨拶をしました。
「これから部屋を見に行くところなの、案内してくれるかしら」
「畏まりました」
四人に見送られて奥へと進むと、部屋のドアが開けられました。
船内とは思えない広さの客室です。さすがロイヤルスイート。
トイレやシャワールームなどの説明をされて、奈津子さんとソファに座った頃には、お茶が用意されていました。
「使い方は分かったかしら? まぁ、分からなかったら笹村に聞いて頂戴ね。それじゃ、私は部屋に戻るから」
「え?」
ここ、奈津子さんのお部屋では?
顔から言いたいことを察したらしい奈津子さんがしてやったりという顔をして笑います。
「私の部屋はお隣。ここは陽向さんのお部屋よ?」
「ええええええええ?」
「そっちの端にバトラーがいる部屋があるから、後、これが内線ね」
バトラー室への内線番号を教えてもらいましたけど。
ちょ、ちょっと待ってください奈津子さん。
何で私がロイヤルスイートに泊まることになっているんですか。
それよりそわそわしちゃうので、一人にしないでください!
涙目になった私に気づいた奈津子さんが、小さく笑うと隣に座りなおしてくれました。
「奈津子さぁん」
「そんな顔しないの。ところで久保」
「はっ」
「そろそろかしら?」
「はい、そろそろかと」
いつの間に久保さんが傍に来ていたんですか?
全然気づきませんでしたけど。
「そろそろって何がです?」
その時遠くから聞き覚えのある音が聞こえてきました。少しずつ大きくなってきています。
「……ヘリコプター?」
バラバラバラと例の音が聞こえてきまして。
「さて、それじゃお迎えに行きましょ」
「はい?」
「もう一人遅れてくることになっていたの」
ヘ、ヘリコプターで!?
奈津子さんについて行くと一番上のところにヘリポートがありました。
そこへ綺麗に着地したヘリ。さすがプロです。
いやいやその前に、一人の為にヘリコプター!?
奈津子さんが手を振って、中から出てきた人がゆっくりとこちらへ近づいて来ました。
まだ風が強いのに、危なげなく歩いていらっしゃいます。
奈津子さんが私の方を向いて、少し大きめに声で紹介してくれました。
「陽向さん、お祖父さまよ」
十一人目は奈津子さんのお祖父さまでした。
これまた想像上の船ですので
この大きさでヘリポートとか無いんじゃ? とか言われましても
わーわーわーわーきーこーえーなーいーーー!!




