第八十六話 祭りのあと
香矢さんと龍矢さんが戻ってきたので、家族でお祭りを満喫しました。
写真もいっぱい撮りましたよ。
速水君も戻ってきたのですが、父が私のエスコートをしているために、ただ着いてきている事になってしまっていました。何度も良いですよって言ったのですけど、一日エスコートするって約束したのでと言ってずっと後ろを着いて来ていました。何だか申し訳なかったです。
十一時になると浴衣に着替えた場所へ戻って、私服に着替えなおしました。何だか脱ぐのが惜しいというか残念ですが、浴衣を脱ぐ前に女子全員で写真を撮りましたし団扇はプレゼントされたので、良い思い出になりそうです。
バスに乗って近くのホテルに移動したのですが。
奈津子さん。小さいホテルって言いませんでした? これのどこが小さいホテル何でしょうか。
隣にいた奈津子さんにちらっと視線をやりますと、奈津子さんは普通の顔をしていました。
もしかして、これ奈津子さんの中では小さいホテルなんですか?
あ、しかも貸し切りだとか言ってましたよね?
えええ? ここ全部を貸し切り!?
「あ、本館は別よ? 貸し切りはこっちの別館のみ」
奈津子さんが訂正しましたよ的な顔をしましたけど。いえ、あの。ですから別館のみでも小さいとは言えない大きさなんですってば。
別館と言っても本館と繋がっているわけではないんです。
「地下で繋がってるわよ?」
そういう問題じゃなくてですね。
今日招待されている人を二人ずつ部屋に入れても余るような部屋数のホテルですよ?
しかもレディースフロアもあるそうで。
まぁ、我が家はファミリータイプのお部屋に案内されたので行けませんでしたけど。
大浴場は特別に午前二時まで開いてるとか、バーが午前四時まで開いてるとか、お土産屋さんも午前一時まで開いてるとか。
もちろん我々高校生はすぐに寝るように言われていますけれども。
「陽向ちゃんは、特に部屋に入ったら朝まで出てこないこと!」
何て言われましたよ。
お土産は明日の朝も見れるようですし、疲れてますからすぐに眠りますって。
そんなに強く言わなくたって……。
何で私だけ言われるんです?
「はい、陽向。お風呂お先にどうぞ」
部屋のお風呂を勧められて、千歌さんと香矢さんを先にと思いましたのに、二人は大浴場に行ってくるとのこと。二人と一緒に龍矢さんも行くそうです。
「三人は部屋から出ないように」
龍矢さんが私と父と華さんに言って、大浴場へと行ってしまいました。
時間も時間ですから、お言葉に甘えて先に入らせてもらうことにして、龍矢さん達が戻ってくる前にベッドに入りました。
父がソファに座ってお酒を飲んでいます。
「楽しかったね……お祭り」
「楽しかったね。久しぶりに浴衣を着たよ」
カランと氷がグラスに当たる音がしました。
「お風呂に入る……前に飲むと危険……だよ」
「シャワーだけにするから」
父との会話の記憶はそこまでです。
その後、三人が戻ってきたのも知らずにぐっすりと眠った私でした。




