第八十五話 おみくじ
神社にお参りしてから、皆でおみくじを引くことになりました。
「陽向さん」
「なぁに? 奈津子さん」
「陽向さんのご親戚とか、この山の近くに住んでいる?」
「……近くも何も、ここがどこだか教えてもらってないのだけど」
「そうよねぇ。うん、ありがとう」
意味不明な質問に首を傾げていると、奈津子さんが何処かへ電話をしていました。
父方の親戚は皆さん鬼籍に入られていますし、母方の親戚はそもそも誰もいません。そりゃ、遠い遠いところまで探せばいるのかもしれませんけど、そうなると日本人全員親戚になりそうですよ。
さぁ、気を取り直してクジを引きましょう。
「えーと……中吉」
まぁまぁですね。油断せず気を引き締めて進むようにと書いてありました。
「陽向さん、恋愛運のところは何て書いてあった?」
「恋愛運? えーと、未来に幸福あり」
「うーん、なかなか微妙な表現ね」
良いじゃないですか、幸福なら。
「そういう奈津子さんは?」
「ふふふ、そのままで良いそうですよ」
まさか突き進めとか書いてないですよね? 奈津子さんが猪突猛進になると恐ろしいような気がしますよ。
「速水君は……あれ? 速水君は何処へ行ったの?」
さっきまで側にいたはずの速水君がいません。
よく確認すると龍矢さんもいませんでした。
「二人とも何処に行ったのかな」
龍矢さんが華さんを置いて居なくなるなんて、めったにないんですけど。まぁ父と私がいるので大丈夫ですけどね。
「華さん、龍矢さんが何処に行ったか知ってます?」
「龍矢なら、そのうち戻ってくるわ。それより少し疲れたから、さっきの所に戻って座らない?」
履き慣れない下駄ですもんね。私も少し疲れたので華さんの言う通りにすることにしました。
中腹まで戻ってイスに座ります。
ラムネを飲みつつのんびりしていたのですが、何やら慌ただしい様子が。
「奈津子さん」
「ん?」
「何か騒がしい感じなんだけど……」
「大丈夫大丈夫」
「そう? ところで、だいぶ暗くなったけど。そろそろ帰り支度をしなくて大丈夫?」
「ええ、近くの小さいホテルを貸し切りにしてあるから。ギリギリまで遊べるわよ?」
泉都門学園高等部の帰宅時間は十時までにとなっています。もちろん保護者がいる場合は変わってきますけれど。
「何時までの予定?」
「保護者がいるんだから十一時くらいまでは。着替える時間もあるから午前十二時までにホテルに着くようにする予定なの」
一泊予定は聞いていません。
さすがに慌てると、奈津子さんは私の隣に座ってニヤリと笑いました。
「ふふふ、すべて用意済みよ。陽向さん。皆さんに手ぶらで来てもらうようにしてあるから大丈夫」
明日、仕事の人がいる場合は早朝に自宅に送迎するのだとか。予定も確認してあって、早朝送迎の人は三名いるそうです。うちは父も龍矢さんもお休みを取っているので大丈夫ですね。
「陽向ちゃん」
「あ、千歌さん。香矢さんは?」
「下で何かお話があるからって私だけ来たの。早良くん……だったかしら? ここまでエスコートしてくれたのよ」
ナイス、早良君。後でお礼を言わなくては。
立ち上がって千歌さんの側に行こうとすると、奈津子さんが声をかけてきました。
「陽向さん、落としたわよ」
それは先ほど引いたクジです。
「ありがとう」
きちんと閉じてあったはずのクジが綺麗に開いていました。受け取って、一番先に目に入ったのは健康運のところ。
──怪我に注意──
うん。気をつけましょう。
八十四話で速水君と陽向父の発言に矛盾があったことがわかりましたので修正しました




