第八十四話 灯り
華さんの説明を、後に聞いた速水君が大慌てで「そこまで想像してません!」と抗議してました。
それじゃ、どこまでですかと聞きますと沈黙してしまいましたけど。うん、聞かぬが花。
いよいよ暗くなって参りまして提灯に火が灯されます。お祭りらしくなってきましたね!
太鼓と笛の音が微かに聞こえるので、上の方で演奏しているのでしょうか。
射的を教えてもらっていると、前のめりになりすぎて倒れかかったのを父に助けられました。
「あれ? お父さん」
「やっと見つけた」
やっと?
首を傾げて周りを見ますと、後ろに久保さんがいました。奈津子さんが近寄ってきて私に耳打ちをして教えてくれた事と言えば、私に近寄れないように久保さんを使って父を引き留めていたのだとか。
可笑しいと思っていたんです。エスコートと言われて父が私のところへ来ないことなんて、まずないんですから。
「もうちょっと引き延ばせるかなと思っていたのだけど。まぁ、及第点としましょう」
「ありがとうございます、奈津子お嬢様」
久保さんが恭しく頭を下げていますけど、父にエスコートしてもらっても良かったんですよ?
私の隣に立っている速水君をみた父が、きちんと辺りを確認した上でお面を外しました。
「速水君だったかな」
「あ……改めまして。速水 光です」
ペコリと頭を下げた速水君ですが。
「え? 速水君って光っていうんですか!?」
思わず叫ぶと、周りから声があがりました。
「「「「「「今更!?」」」」」」
視線集中怖いです。矢のように飛んできましたよ、呆れた視線が。
「名簿にも書いてあったでしょう?」
奈津子さんに半笑いで言われましたが、速水という名字の部分しか見ていなかったんです。バスでも速水ですしか言わなかったんですもの。
「だ、だって。速水君のご友人は皆さん“るー”って呼んでるから、てっきり“る”が最初の名前なんだと思って」
るがつく名前ってなんだろうってずっと考えていたんですよ。ひかるの“る”だなんて思いませんって。
「因みに、候補は?」
「るい、るか、るね……あたりかと」
「確かにかっこいいけど……ごめん、光で」
「あああ、そんな風に言わないで! “光”もかっこいいです!」
速水君が肩を落としてしまったので、あたふたしてしまいました。
「速水 ひかる……君ね。どうも、改めまして陽向の父の水崎学です」
ニッコリスマイルで威圧するの止めてくださいね、お父さん。美人の笑顔って時に怖いんですから。
大抵の方がお父さん美形で良いねって言いますけど、本気で怒ったときの美形さんの笑顔を見たことないから言えるんですよ。もうね……恐怖の二文字です。滅多に怒らない故に怖さ倍増。
怒った顔なんてまだ可愛いですからね。
そこのところ、一番いいたいところなのですが。言っても分かってもらえないんですよねぇ。
「陽向がいつもお世話になっているそうで。ありがとう」
「いえ、こちらこそお世話になっ……」
「ほぅ……どんなお世話かな?」
だからお父さん、その笑顔で速水君に迫らないでください。
「あ、ほらお父さん。いっぱい人が来たから、お面お面」
小さく舌打ちした音が聞こえましたよ。まったくもう。威力を分かってて使いましたね?
「速水君には、いっぱい助けてもらったんだから変な態度取らないでね」
父は渋々お面を付けなおした後、びしっと人差し指を速水君に向けました。
「僕の後には龍矢が控えているんだ、そう簡単には行かない」
そこはお父さん、自分で何とかしましょうよ。何で龍矢さんを後ろに据えるんですか。
「そうだな」
って、龍矢さんもそれに乗らない! いつの間に来てたんですか。華さん、笑ってないでそこ止めてください。
「あっははははは」
声出して笑っちゃってますし……。
速水家は“光”と“明里”の兄妹でした
明るい明るい^^




