第八十二話 間接キ……?
石段……ナメてました。
陣海さんが言っていた通り一段一段が高めで、浴衣だと上りづらいんです。速水君が支えてくれなかったら、躓いていた可能性大ですよ。
しばらく上ると少し緩やかな場所に出て、そこに屋台が犇めいていました。
本当に色んな屋台があります。ちなみに、全部タダ。大人に出されるお酒もタダ。
もはや笑うしかありません。
途中でたこ焼きを買って、中腹の開けた場所にあるテーブル席で食べることにしました。一つだと足りないのではないかと思ったのですが、まだ色々食べる物があるからと言われて、一応一パックにしました。
焼きそばとかお好み焼きもありますね。
綿アメやリンゴ飴もあります。
席について、速水君とたこ焼きを食べました。
「美味しいね」
「うん」
そういえば焼きたてを食べたのはこれが初めてかもしれません。友達と放課後に買い食いをしたことがありませんし、家族と買い物に行った時に買っても大抵家に帰ってから食べていたので冷えていました。
冷えていても美味しかったと思いますが、あつあつも美味しいですね。
「何か飲み物もらってくるよ、何がいい?」
八個入っていたたこ焼きの半分をあっという間に食べ終えた速水君が席を立ち上がりました。
「炭酸以外でお願い」
「わかった」
速水君が戻ってきた時にはオレンジジュースとアップルジュース、それから焼きそばを持っていました。
「出来立てだからってもらった」
蓋を開けると、確かに湯気がでています。
美味しそうですね。
アップルジュースをもらい、焼きそばは速水君に先に勧めました。たこ焼きがまだ残っていたのです。
そっちを食べ終わってから焼きそばを食べようとして速水君が困った顔をしているのに気づきました。
「どうしたの?」
「え。あー。箸が一膳しか無かったから……もう一膳もらってくるよ」
食べてから気づいたのでしょう、焼きそばは半分ほどなくなっていました。
「あ、大丈夫」
速水君が使っていた箸がパックの蓋の上に置いてあったのでそれを取って、残り半分の焼きそばを食べます。キャベツがしゃきしゃきで美味しいですね。しんなりキャベツも好きですが、焼きそばのはしゃきしゃきの方が好きです。
何て思いながら食べていましたら、目の前の速水君が顔を赤くしていました。
どうしたのでしょう?
「小悪魔ね」
「小悪魔。しかも無自覚」
後ろから声がして振り返ると、陣海さんと奈津子さんがニヤニヤしながら立っています。
「どうかした?」
「だって陽向さんそのまま、箸を使うから」
「あ、ごめん。速水君嫌だった?」
速水君は真っ赤なまま首を横に勢いよく降りました。そんなに頭を振ったらめまいしませんか?
「速水君が使った箸を使っても平気なんだ?」
奈津子さんが相変わらずニヤニヤしながら顔を近づけてきて言うので、思わず怪訝な顔をしてしまいました。
「何かおかしなところある?」
見も知らぬ人じゃあるまいし、速水君ですよ?
「うんうん、面白いけど。他の男子にもやっちゃそうだから言っておくね。陽向さん」
「うん?」
「それ、間接キス」
かんせつきす?
はい?
「え? だってこれ箸でしょう?」
「……陽向さんの中で間接キスってどんなの?」
「コップとか?」
「ふむ……」
真っ赤なままうつむく速水君に首を傾げつつ、奈津子さん達を見ると腕を組んで何やら相談をしていました。




