第八十一話 着替えです!
女子だけで二十名を超えるのですが、着付けをする人が三名いて、その手際の良いこと!
浴衣ですから、まぁ着物より若干簡単といえば簡単でしょう。でも、それぞれいろんな帯の結び方があって、柄や本人のリクエストに沿って結んでくれました。
その手際に見惚れていたら「はい、最後の方」と手を引かれて着付けてもらい、さらに違う方へと誘導されたと思ったら髪まで結ってくれました。
うちわを渡されて下駄を履くと完成です。
華さんは背が高いのですぐにどこにいるか分かりました。近寄って行くと、お面を被っています。
「華さん」
隣に千歌さんもいたのですが、千歌さんもお面を被っています。
「どうしたんですか、それ」
「主催者の陣海さんがね、これを付けるようにって。公平になるように大人はお面を付けるようになったんだって言ってたわ」
そろって着付けていた建物から出ると、確かに動き回っている大人の人も、立ち話をしている大人の人もみんなお面を被っています。
華さんと父が顔をさらすことで騒ぎにならないよう、考えてくれたみたいでした。
「事前にね、電話が来て。お面を被ることになりますけど、よろしいですかって」
そうだったんですか、知りませんでした。
父と華さんだけがお面を被ると、それはそれでまた目立ちますものね。
「水崎さん、浴衣お似合いですわ」
丁度陣海さんが来たので何度もお礼を言いました。
「いっぱい楽しみましょうね。私もこういう夏祭りは初めてなので楽しみにしていたんですよ」
陣海さんの浴衣は淡いブルーのバラが清楚に咲いたものでした。バラだと大抵華美になりがちなのに、とっても落ち着いた柄で陣海さんにとても似合っていました。
「男性の皆さんも着替え終わったみたいですよ」
陣海さんに促されて視線を移すと、こちらへ歩いてくる人がいました。
「あ、速水君」
「あ……」
速水君は急に立ち止まってポカンと口を開けました。
どうしたのでしょう?
速水君に声をかけようとしましたら、明里さんが小走りに速水君に近づいて背中をパシンと叩きます。
「見惚れてないで、言うことあるでしょ!」
「あっ、あぁ。あの……」
速水君が目が覚めたような顔をした後、こちらへ近づいて来ますと私の前で立ち止まり微笑みました。
「とっても似合ってるよ」
「ありがとう。速水君もかっこいいね」
「う、うん。ありがとう」
陣海さんと明里さんが、何故か満足げに頷いています。
「速水君、ここの石段は結構高いので、陽向さんのエスコートを命じますわ」
「えっ?」
「下駄に慣れていませんし、一人だと危ないですから。良いですね? 速水君」
「わ、わかった」
「え、あの。私、のぼれ……」
「はい、陽向さん。これを持ってくださいね」
浴衣と同じ柄の団扇を渡されました。
「あの、陣海さん!」
中腹に休憩する開けた場所がありますから、そちらへ行ってください。一斉に全員で登ると混雑しますから」
「はい、いってらっしゃーい」
明里さんに背中を押されて、速水君と二人石段を登ることになりました。
「まだ明るいので足もとは見えますし、一人でも登れると思うんですけど」
「ちっちっちっ」
明里さんが目の前で人差し指を左右に振りました。
「服と同じにしてもらっちゃ困るんですよ、陽向さん。あ、勝手に名前で呼んじゃいましたけど良いですよね? 浴衣だと裾がめくれちゃうので気がそれるし危ないです。降りるときも慣れない下駄だと危険ですよ」
「でも……」
「女性の皆さんには男性がつくことを義務としますので、気になさらないでくださいね。今日の陽向さんのエスコートは独断と偏見に基づきまして速水君と決定いたしました」
隣にいる速水君を見上げると、ふふっと笑って私を見ます。
「独断と偏見で決められちゃったけど、今日一日エスコートさせていただきます」
「あ、はい。よろしくお願いします」
手が差し出されたので、素直に掴まりました。
速水君にチャンス到来!
一歩リードか!?




