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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第〇八十話 夏祭り会場へ



 当日、例の場所で家族で待っているとバスがやってきました。前回と違うバスなのですが、私たちが最初に乗ったはずなのに、下の荷物置き場が半分埋まっているのはどういうことでしょう。

 もしかして、全部浴衣とかいいませんよね?


 前回のバスと違って、普通の座席になっていたのには少しほっとしました。

 父と私、華さんと龍矢さん、千歌さんと香矢さんの二人ずつで前の方に座りました。

 今回は執事の久保さんのみで、奈津子さんは乗っていませんでした。

「一部の方はご家族もいらっしゃるので、バスは数台でています。場所は陣海家と湯江家のみ知っておりますが安全のために他の皆さんにお知らせできないことを申し訳ないと言っておられました」

 何だか少し怖いんですけど。

 どこへ連れられて行くのでしょう。

「ご安心を、日本国内ですので」

 それは……そうでしょうけど。パスポートを提出するようには言われてませんから。

「ここからバスで一時間ほど行った場所にあります」

 なるほど、それで午後になってすぐに出るんですね。日が長い夏とはいえ、用意をしていると時間はあっという間に過ぎますから。

 

 それから以前と同じく駅前に停まりました。

 私たちのように家族で来ているのは三組くらいですね。速水君は妹さんを連れて来ていました。

 妹さんは明里さんとおっしゃるそうです。

 じっと私を見ると、ペコリとお辞儀をして「兄がいつもお世話になっています」と言うものですから、慌てて立ち上がって頭を下げました。

「こ、こちらこそ。いつもお世話になっております」

 久保さんに座るようにいわれなかったら、ずっと二人で頭の下げ合いをしていたのではないでしょうか。

 礼儀正しいのですね、明里さんは。

 父が速水君に何か言いたげでしたが、運行に迷惑になりますからバスを降りた後にしてくださいとお願いして、ともかく全員が座りました。

 

 どこへ向かっているのか分からない中、自己紹介しあったりして……実は全部の窓にカーテンが引かれていまして。運転席は一段下なので、私たちは風景を見るとこが出来ない状況なんです。

 そこまで秘匿したい場所なんでしょうか。

 安全のためというのもあるのでしょうけど。徹底しすぎていて怖いです。


 全員がそろったところでお弁当が配られました。

 後ろの席の明里ちゃんとお菓子の交換などをしつつ、久保さんの話術──夏だということで怖い話──に涙目になりながらも何とか到着しまして。


 バスを降りて目に入ってきたのは山でした。


 山。


 まごう事なき山。小さいけれど山。


 石の階段が上まで続いていまして、提灯がずらりと足下を照らすためなのか下げられていました。まだ明るいので点いてはいませんでしたけど。


「いらっしゃい、陽向ちゃん」

「奈津子さん。あの……ここはいったい」

「えーと、一応陣海家の山かな。数日前からだけど」

 あぁ……そうですか。買ったんですか。祭りのためだけに。


 しかも緩やかな階段の上に見える小さいながらも神社らしきものが見えます。大変新しく見えるのですけど。

 奈津子さんに視線で問うと、にっこりと笑いました。

「前にあったのより立派にして、きちんとお奉りしてくれるのなら売ってくれると、元持ち主の方が言ったそうよ」

「ちなみに来年も夏祭りをやるから、ぜひ来てね」


 陣海さんが嬉しそうに言いました。

 


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