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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第七十八話 昔のお話



「あの当時は、今よりもっと無口でね。私、子持ちだと思われてたのよ」

 まぁ、連れて歩いていたら、大抵はそう思いますよね。何だかすみません、華さん。

「旦那さんはどこにいるんですかって聞かれたから、いませんよって答えたらシングルマザーだと思われたし。でもねぇ、陽向がすぐに懐いたのには驚いた」

 大人しい子供ではありましたが、知らない人にすぐに懐いたりすることは無かったそうなんです。

「龍矢に高い高いをされて、楽しそうに笑ってね。何だか親子みたいだなって思っちゃって」

 一度だけ、誰にも都合がつかなくて龍矢さんに私を預かってもらったことがあったのだとか。その時は友人関係だったそうです。

「後で親戚に凄く怒られたけどね。でも、今思うと間違ってなかったと思う」

 龍矢さんの家で待っていた私は、華さんと帰る時間になると帰りたくないとぐずったそうです。

 そんなに楽しかったのかと思い、今後の参考に何をしたのかと尋ねたら「特別な事は何も」と答えが返ってきたそうで。

「膝の上に乗せて、歌を歌ったり。一緒にご飯を食べただけだって。その時にね……忙しい忙しいって言って、一緒に食べて無かったことに気づいたの。陽向の好きな物を作って食べ終わったら片づけ、それで大丈夫だと思ってた。でも毎回は無理でも、時々ならできたことだった。そこでね、泣いちゃったのよ私」

 何となくオンオン泣いている華さんを覚えています。そうですか、あれは龍矢さんの家だったんですか。

「陽向はびっくりしたんでしょうね。一緒に泣き出しちゃって。そしたら二人ともまとめて龍矢が抱きしめてくれたの。大丈夫だよって」

 そこで私が姪であることを話して、父を呼び。話し合ったのだそうです。

「あぁ、その頃ね。うちに電話がかかってきたのは」 

 千歌さんが頷きながらそう言いました。

「いきなり、子育てのこつは何だと聞かれた時には香矢さんと二人でそりゃぁ驚いたものよ? まさか……と言ったら否定されたけど」

「龍矢とおつき合いする前に、千歌さんと電話で仲良くなって」

「そうそう。時々写真が送られてきてねぇ。孫ができたみたいで嬉しくって」

 あぁ、それで千歌さんの家にあるアルバムに私の幼いころの写真があるんですね。

 こういう話を聞くと私は、本当に三人と千歌さん香矢さんに育てられたんだなぁと実感します。

「一時期、マナと会える時間が少ない時に、龍矢にしがみついてマナに抱き上げられるのを拒否したことがあって。マナったらガックリ肩を落として隅っこで体育座りしてたのよ」

 昔からそのスタイルなんですね、お父さん。

 口を尖らせてうずくまっているのが目にみえるようですよ。

「でも、おとしゃんって言われて復活してたわ」

 パパって呼んだことがあまり記憶にないと思ったら、小さい頃からお父さんと呼んでいたからなんですね。

「私の事は華しゃんで龍矢はリュウって発音できなかったみたいで、ルヤしゃんって呼んでたわよ。名前を呼んでニコーって笑ったのを見ると、何回も見たくて名前を呼んでもらってね。そのうち私たちがあまりにしつこいから嫌になったのか、“しゃ”しか言ってくれなくなったことがあった」

 それはさすがに、嫌になりますよねぇ。

「それでも、マナは電話越しにそれを聞いて喜んでたけどね」

 何だか私の知らない自分や皆の話を聞いているとむずがゆいというか、何とも言えない感じになります。面はゆいとはこう言うことをいうのでしょうか。


 それにしても男性陣、帰ってくるの遅くないですか?

 何してるんでしょう。



あくまでも陽向のことですので

育児に関して物申すとかはありません

人それぞれだと思ってますのであしからず……

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