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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第七十六話 約束



 あの後は何事もなく旅行も終わりまして。

 帰り際に、奈津子さんにお祖父さん宛のお土産を渡してバスから降りました。

 

 数日前にバスへ乗った場所です。


 龍矢さんが待っていてくれて、荷物も持ってくれました。

「あ、榊先輩。それ俺が持ちますよ」

「お前の仕事は護衛だ。物を持っててどうする」

「あ、そっすね」

「そっすねじゃないだろ」

 背の高い、しかも明らかに鍛えているであろうことが分かる男性三人に囲まれながら歩く私は注目のまとでして。

 走ると皆さん一緒に走るので、さらに目立ってしまい。仕方なく龍矢さんの腕に顔を押しつけて、自分の顔を見られない様にするというよりは、自分が辺りを見ないですむようにしました。

 龍矢さんが笑っているのが聞こえましたけど、恥ずかしいんですよ。この守られてる感。

 奈津子さんだったら、涼しい顔で歩いていられるような気がしますけど。


 家に帰り着くと、すぐに父と華さんが出迎えてくれて二人に抱きしめられました。

 

 また心配かけちゃいましたよね。

 今回ばかりは、勝手に勘違いしたあちらに非があると思われるので、どうしようもなかったと思ってはいるのですが。

 フルネームをすぐに言っていれば良かったのか……とか、後から思いましたけど。知り合いでもない初めてあった人にフルネームを言うのは憚られたんですよね。

 でも偽名を名乗ったと思われたので、結局のところ意味がなかったかもしれませんね。


 未だに私をミナさんだと思っているのでしょうか?

 何となーく、嫌な予感がするんですけど。


 鞄からみんなにお土産を渡して、川下りの話をしたりしました。

 ガールズトークのことは、華さんと二人の時にでも話そうと思います。

「最終日の夜に花火やったの! 楽しかった」

 予定はなかったのですが、お詫びだったのでしょう。早良君のお祖母様からの差し入れで花火が届けられました。

 浴衣を着ての花火は、思っていた以上に楽しく。夏祭りに浴衣を着て行きたいねと話をしていました。

 さすがにお嬢様たちは来れないでしょうねと思っていましたら、陣海さんが帰りのバスでトンデモナイことを言いました。

「夏祭り貸切で開いてくださるってお祖父さまが!」

 貸切ってなんですか、貸切って。そもそもどこを貸し切るんですか。

「開催場所は秘密ですわ。今回みたいにバスを出しますから」

 まぁ、言わなきゃばれないですよね。

 でも、ポンと夏祭りを開いちゃうんですねぇ。浴衣を持っていない人には用意してくれるところまで話が進んでいるようでした。

「陽向さんも、絶対来てくださいね」

「え、あ、はい」

 予定が会えば……と答えると逆にどこが空いているのかを聞かれましたよ。

「陽向さんが来ないんじゃ意味ないんですもの。ぜひご家族もご一緒に……ね?」

 貸切ですからと言われて、少し胸がきゅっとしました。

 今まで夏祭りに全員で参加したことは一度もありません。

 どうしても行きたいと小学六年生の頃に言った時は、龍矢さんと二人でした。

 人ごみに父と華さんを連れて行くと大変なことになりますからね。

「絶対に来てね、約束ですわよ」

「う、うん」

 指切りげんまんをされて、陣海さんは何だかとっても嬉しそうでした。

「私、指切りなんて初めてです」

 私も、とっても久しぶりですよ。

「ところで急に夏祭りなんてできるもの?」

 奈津子さんにこっそり聞くと、ニッコリ笑顔でうなずかれます。

「私のお祖父様も協力してくれると思うし」

 屋台、どんなのが良いか教えてね……なんて言われましたけど、私もそんなに行ったことがないので、ここは速水君たちに教えてもらいましょうか。

 

 みんなとまた夏休み中に遊べるんですね。

 とっても楽しみです。




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