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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第七十五話 護衛が増えました



 次の日。

 川下りから帰ってくると、護衛さんが二人増えていました。

 しかも、龍矢さんの同僚です。

 えーと。確か個人のお仕事って受けないのではなかったでしたっけ? 

 疑問に思っていると顔に出ていたのか、二人のうち年上の方らしい男性が教えてくれました。

「名目上の依頼は湯江家の子会社からですよ」

 例のバス会社だそうです。ということは湯江さんのお祖父さんが依頼したということになっているんですよね。

「では、本当のところは?」

 と聞いてみますと、二人に苦笑されました。

「榊夫妻と水崎さんに…ですね」

 龍矢さん、謝罪されたと言っていましたけど、その時に無理矢理承諾させたんじゃないでしょうね。

「さて……そこら辺、私たちは知りませんねぇ。榊に聞いてください」

「因みに、私たち二人は陽向さん専属ですので、よろしくお願いします」

「せ、専属って」

 ちょ、ちょっと待ってください。

「表向きはバス会社からのお仕事なのですから、参加者全員を守るお仕事じゃないんですか?」

「え? だって他にも護衛はいっぱい居るでしょう。色々なケースを考えられるのだから、本当なら彼らが全員を保護するべきで。私たちが来るようなことは無かったですよねぇ?」

 わざと大声で言っているのでしょう。

 当たりの空気がザワリと変わりました。

「言われた通りの仕事しかできないようじゃ、早々止めることになりそうじゃないですかぁ?」

「そこら辺でやめておけよ。木村」

 たぶん、主要な命令はお嬢様方の護衛なのでしょう。

「木村さん……とおっしゃるんですね」

「あ、これは自己紹介が遅れまして。私は木村紅茶と言います」

「「「……はい?」」」

 その場にいた私と速水君と奈津子さんが思わず声をそろえて聞いてしまいました。

「木村、こ、う、ちゃです。商品名じゃないですよ」

「こうちゃさんと言うのですか」

「はい」

 飲み物の名前は初めて聞きました。

「こうちゃんって呼んでくださいね」

「木村、お前いい加減怒られるぞ」

「えー? 能美さんは堅い堅い。付いて来る人が堅いと陽向ちゃんが疲れちゃうよねぇ?」

 もう一人の方は能美さんとおっしゃるようです。

「私は能美。能美時輪ときわです。榊とは同期です」

 そういえば少しだけ能美さんのお話は聞いたことがあるかもしれません。

「私は後輩になりますかねぇ」

 龍矢さんがいつも来ている制服を着ていないので、何となく実感がわきませんでした。

 会社に行ったことがないですし、写真などもないので同僚と言われてもピンと来ないという感じです。能美さんの名前だけが片隅にあったというところでしょうか。

「それにしても、実物の方が美人さんですねぇ。陽向ちゃん」

「え?」

「榊先輩のプライベート携帯の写真見せてもらったことあるんですよ。一回だけね。本当は榊さんが来たかったと思うんですけど。榊さん指名が来てまして」

 すみませんと頭を下げられましたけれど、姪の為に仕事を休むのはダメですよ。それでなくとも春休みの時に有休を使わせちゃったんですから。

「大丈夫です。後一泊で帰るんですし。本当ならお二人に来てもらわなくても良かったと思うんです。お忙しいのに申し訳なくて」

「……能美先輩」

「なんだ」

「俺、泣いてもいっすか」

 口調が突然変わって、木村さんがポケットからハンカチを出すと目元を押さえました。

「くぅぅぅ、健気!」

 普段、俺って言ってるんですね。どうりで“私”と言う時に若干顔がひきつっていると思いました。

「陽向さんはこれが通常ですからね。そこのところ、加味して守ってください」

 奈津子さんがため息の後、お二人にそう言って私をベンチに座るよう促しました。

「あ、それから。聞いていないようなので説明させていただきますと、旅行から帰っても暫くは付きますので」

 ツキマス? 月増す? 尽きます?

「え?」

「色々ありましてねぇ。警察が出すのは無理そうなんで。早々に解決してもらえれば、良いですけど」

 

 どうやら、夏休み中……事の次第によっては夏休みが終わっても護衛がつくらしいです。


 ……えー!?

 


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