第七十四話 守りたい side速水
少し休みたいという陽向ちゃんを部屋まで送った後、僕は以前聞いていた水崎 学さんに電話をかけた。
報告というのもあったけれど、それと共に陽向ちゃんの伯父さんである龍矢さんに取り次いでもらおうと思ったからだった。
警察からも電話があったようで、華さんが電話に出て現在は落ち着いていると教えてくれた。
〔龍矢に話があるのね? 今いるから、代わるわ〕
休みだったのか、それとも警察からの連絡があったから家に来ていたのか。
どちらにせよ、タイミングは良かったようだ。
僕の言うことは決まっている。
「強くなりたいんです」
大勢の人を守れなくてもいい、陽向ちゃんだけを守れる力を。
目の前にいる陽向ちゃんを、どんなことをしても守れる力を。
他の人はどうでもいい何て言ったら陽向ちゃんはどんな顔をするだろうか。
だけど、偽りない今の気持ちだ。
だって、他の人を助けようとするのは陽向ちゃんだから。
僕が守ろうとしても、一緒に突っ込んでくる人だから。
簡単に強くなれるとは思っていない。
今からじゃ遅いくらいだろう。
それでも。
少しでも力になれるなら。
そう龍矢さんに話すと、甘いと呟かれた。
自分を守れないやつは、誰も守れないと。
〔陽向のことを考えてくれるのは嬉しいが〕
「動機が不純ですか」
〔今、君は周りが見えなくなっている〕
少し落ち着けと言われたけれど、目の前で見てしまった以上落ち着けるわけがない。
陽向ちゃんは小さい頃から……本人は片手で数えるくらいですから……と笑っていたけれど、そんなのはある方が可笑しいのに、ずっと戦ってきたんだ。
龍矢さんが何故落ち着いていられるのか、腹がたった。八つ当たりみたいなことだったとは思う。
それでも言わずにはいられなかった。
「陽向ちゃんが襲われたんですよ!?」
〔わかっている〕
「それならどうして……」
〔俺が動揺すると華がさらに動揺する〕
ぐっとなって、叫びたい心を何とか抑えた。
華さんとさっき話した時には学さんもだいぶ動揺していたと言っていた。
だから冷静になれると?
僕にはわからない。
〔湯江家からは謝罪の電話がきた〕
だからなんだっていうんだ。
合わなくてもいいことに巻き込まれたのに。
〔学は、すぐにでも帰って来るように電話をすると言っている〕
その言葉に体がビクッと反応して動けなくなった。
〔俺も本当は帰って来てほしいが……陽向の気持ちを考えるとそのまま最終日までいさせてやりたい〕
後ろで学さんの「龍矢!」と叫ぶ声が聞こえた。話を聞いていたのだろう。
〔強くなりたいというのなら、知り合いの道場を紹介しよう。だが、今必要なのは腕っぷしだけではないだろう。陽向は君たちに随分と心を許している様子だ。だから、我々大人には話せないことも君たちになら話すかもしれない〕
だから、頼む。
最後の三文字を吐き出すように強く言われて、何も言えなかった。
龍矢さんの陽向ちゃんを思う気持ちが電話越しでもわかるくらいだったから。
今すぐに強くはなれない。
警察や護衛の人みたいに守れない。
だったら、今、僕にできることは何だ?
携帯を握りしめながら、僕はひたすら考えた。
速水君、少し前のめりになりすぎていましたね




