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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第七十二話 防御装備です



「伏せて!」

 声がしたので咄嗟に伏せました。途端にグエッという声と倒れる音。

 顔を上げると飯橋さんは床に仰向けに倒れていました。その少し離れたところに落ちているのは…靴です。

「大丈夫ですか?」

「あ、久保さん」

 湯江家執事の久保さんでした。

 私の無事を確認すると他には目もくれず、ポケットからだした小さな拘束具で後ろ手に飯橋さんの指を拘束していました。足は紐でしばっていますけど…久保さん先に靴を履いた方がよろしいのでは?

 拾って渡そうとして、その靴の重さに驚きました。

 これを顔面に食らったのでしょう。これでは確かに倒れます。それくらいの重さです。

 これを履いて普通に歩いていたのですか久保さん。


 バタバタと音がして大勢の人が近づいてきました。警察の方もいるようです。

 奈津子さんも来ていて、私を見てホッとしていましたよ。

「速水君、良くやった」

 奈津子さんが速水君の背中をバシンと叩いていますけど強すぎて咳込んでいます。

「ずいぶんと都合良く警察の方がきましたね」

「ああ、警邏に来てたみたい」

 そういえば警察がパトロールに来る店…みたいな文章が入り口に貼ってありましたね。

「陽向さん大丈夫?」

「何とか…」

 奈津子さんに大丈夫な所を見せようと立ち上がろうとして、力が入らないことに気づきました。

「あ…れ?」

 速水君が気づいて手を貸してくれましたけど。

 ふらふらして立ち上がっても速水君の支えがないと立っていられない状況です。

 飯橋さんが連れて行かれた後、無事だったベンチに座って休むことにしました。警察の方に後で事情を聞かれるようですし、ここで待っていた方が良さそうですから。

「陣海さんは無事?」

「ええ、護衛のほとんどがそっちにいたから。何も知らないくらい無事」

「それは良かった」

 これが陣海さんだったら、とっくに連れ去られているはずです。

「自分が間違われて良かったとか思っていないわよね?」

「奈津子さん?」

「もし陣海さんが、間違われずに襲われていたら、即、飯橋は捕まえられていたわよ。足止めしていた…って言ってたけど、それを超える人数の護衛がいたんだからね。まさか陽向さんが襲われると思っていないからこその、この騒動でしょう。間違われて良かったことなんてないわよ。それどころか、被害を被ったとして陣海さんの家に訴えてもいいくらいよね」

 奈津子さんが難しい顔をして言うので、慌てて首を横に振りました。

「えっ、そんな」

 悪いのは飯橋さんであって、陣海さんではないですよ。

「これ、返すね」

 速水君が鉄扇を渡してくれました。受け取るとそのまま腕を軽く掴まれます。

「速水君?」

「こんなこと…ずっと…独りでくぐり抜けてきたの?」

 きっと父のストーカーさんたちのお話でしょう。

「ええ、まぁ」

 そういえば以前そんな話をしましたっけ。

 用意されたものに速水君が気づいたのでしょうね。

 今、掴まれている腕には肘あたりまである手甲てっこうもどきが付けられています。防刃用の特殊な布で作られたものです。

 ただ、防刃用なので針や細いものには弱いという欠点がありますし、叩きつけられれば痛いことには代わりありません。

 針などにも対応すると重くなるので、なかなか日常的に付けられるものがないのです。

 室内は涼しいので長袖の上着を着ていても不自然ではありませんし、日焼け対策だと言えばそのまま着ていられる様に薄手の生地の物を着ていました。

「何で防御する前提で着てるのよ」

「…そう言われてもクセのようなもので…」

 そう、もはやクセなのです。

 鉄扇は芹会長からいただいたものですけど。とっても役にたったので、後でお礼を言わなくてはいけませんね。


 あ、でも鉄扇で防いだくだりは警察に言わなくてはいけないのでしょうか。没収されたりしませんよね?



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