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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第六十八話 夕食です



 舞台付きの大広間での夕食が始まりました。

 舞台付き…と言いましても、一段高い場所があるくらいのです。

 食事をしながら皆さんが一芸を披露する……え? ちょっと待ってください。芸を披露するなんて聞いてませんよ!?

 久保さんが司会を努めていますけど、本当にちょっと待ってください。

 慌てて久保さんの所へ行こうとすると、何故か奈津子さんに引き留められました。

「奈津子さん、これはいったいどういう…」

「全員が披露する訳じゃないから安心してね。陽向さんには、速水君と二人羽織をやってもらおうかと思ってたのだけど、ほらどちらが前でも色々事故おさわりが起こりそうで楽しいかななんて思って。でも羽織が用意できなかったのよ」

「結構大きいのですもんね羽織」

「…色々スルーするのね。まぁいいけど。今日は最後に久保のマジックを見れるわよ」

「久保さんマジックが出来るんですか」

「ええ」

「スゴい執事さんですね」

 でも司会もしているから、ご飯を食べる時間があまりないのでは? と思いましたら、他の人の膳と違ってご飯がお握りだったりと食べやすいように作ってもらうよう、事前に言ってあったようです。

 一応舞台袖の代わりに衝立があるのですが、その後ろで食べるのだそうで、なんだか申し訳ないなと思って久保さんに言うと、にっこり笑顔で「添乗員みたいなものですから」と言われました。


 田中君が落研…落語研究会に所属しているそうで、落語を聞かせてくれたり、早良君がパントマイムを披露してくれたりしました。

 最後に久保さんのマジックだったのですが。タネあかしをしてくれたりして大いに盛り上がりました。

「某ハンズで買ってきたんですよ」

 何て後で教えてくれましたけど。

 

 普通ならこの後部屋に戻れば布団が敷いてあることになるのですが、参加している方の持ち物が…ええ、色々とあるので自分たちで敷くことにしてもらっています。大浴場に行く前に布団を敷かなくてはなりません。

 男子と約束をして部屋に戻りました。

 はい、お風呂からあがってきたら男子が女子の部屋に遊びに来ることになっています。もちろん久保さん付きで午後十一時には部屋へ戻ることになっていますが。

 女子の部屋に戻って押入を開けまして。

 皆さんに自分の布団を敷いてもらいます。

 私や和香たちのやり方を見て、驚きながら敷いていくお嬢様達。

 被せるタイプのシーツだったのですが、若干三名がそれにも四苦八苦していました。

 二列に並んだ布団を見て、はしゃぎだしたお嬢様たちを大浴場へと行くように指示をして、私は和香と奈津子さんと三人でお留守番です。皆さんが上がってきたら行くことになっています。

「侵入者の形跡はなしだったし、今のところは順調ね」

 私の言葉に奈津子さんが少し驚いた顔をしました。

「え? どうやって分かるの?」

「ドアに挟んでおいたので」

 部屋に入る前に、出た時に挟んでおいた紙がそのままだったことを確認済みです。

「窓の方もそのままだったから、大丈夫」

 ドアのどこに挟んであったかは秘密ですが、スペアキーがある以上、誰も入れないわけではないのですから用心するに越したことはありません。

「陽向さん、将来スパイにでもなるつもり?」

「え? どうしてそこでスパイが出てくるの?」

 ちなみに、床に粉を撒いておくという手もあるのですが、さすがにここではできませんよね。

「針金があれば鍵を開けられるとかないわよね?」

「できるわけないでしょう」

 何故かホッとされましたけど。

 紙を挟んでおくのって、常識じゃない…って事ですか?


 これは帰ったら龍矢さんを問いつめないといけませんね。



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