第六十六話 大部屋ではしゃぐ
現在、民宿に着きまして女子の大部屋に案内されました。二間続きの部屋で襖を開いてあるのでかなり広いです。二十三名中女子が十六名なのですが、この広さならギュウギュウになることは避けられそうです。
そして十六名中、十名のお嬢様達が大部屋に大興奮していらっしゃる最中であります。
この部屋より広い会場をご存じのはずですが、どうやらここに布団を敷いて皆で寝る…ということが初体験らしく、キャアキャア言いながら見て回っています。ちなみに、お嬢様方の荷物は男子と久保さんにお願いして運んでもらいました。
私? キャリーバッグ一つなので、もちろん自分で運びました。
「水崎さん」
「はい?」
「今から興奮してると、疲れちゃうと思うんだけど。あれ、どうする?」
庶民よりのお嬢様である佐々江美知さんが大分呆れた様子で、座布団を敷きながら言いました。
手前の広間に和テーブルが置いてあって、お菓子とお茶が用意されていました。
佐々江さんは公立の小学校に通っていたので大部屋をご存じでした。
「大浴場とか行ったら、もっと驚くんじゃないかな」
大きなお風呂には驚かないかもしれませんが、その仕様に驚くかもしれませんね。
「あ、男子の皆、荷物ありがとう」
「どういたしまして。やっぱり女子の方が広いね」
他校の生徒で早良君の知り合いだという真島君がキョロキョロと見ながら鞄を置きました。
「男子は七名ですからね。食事はまた別の大広間だそうですけど、それまで自由時間で良いですか?」
男子に声をかけると、笑いながら頷いてくれます。
この騒ぎがしばらく治まりそうもないことは、分かってもらえたようです。
久保さんが一番大きな荷物を運び終えたところで、夕食までの自由時間となりました。
現在午後四時少し前です。
十名のお嬢様(その中に奈津子さんも含む)達の興奮が治まるまで、六名の女子は座布団に座ってお茶とお菓子を堪能することにしました。
「民宿っていうわりに大きいね、ここ」
「そうね」
「早良君の話だと、民宿ってここの隣の建物らしいよ。昔からまとめて民宿って呼んでたみたいで、こっちを立て替えてからも、そのまま呼んでたみたい」
早良君のお祖母さんが経営しているところイコール民宿みたいな感じだったのでしょうか。
「あ、でも早良君も本当の民宿の方だと思ってたんだって」
それくらい安くしていただいたのでしょう。
ご迷惑をかけないようにしなくてはなりませんね。
「さて、そろそろさすがに、良いよね」
「うん、良いんじゃないかな?」
和香が頷いたので私はパンパンと手を二度叩きました。
「はい、皆さん落ち着きましょうか」
ハッと気づいたような顔をした十名は瞬きをした後、ゆっくりとこちらに近づいてきて座布団に座りました。
「夕食まで自由時間をいただきましたけど、その前に場所を決めて置きましょうか」
「場所?」
「寝る場所です」
十六名真っ直ぐに並んで寝るわけではなく、二列になります。どちら側のどの場所に寝るかで荷物の置き場所も変わってきますし。
「布団を敷いてからでは、遅くなってしまうので今から決めて置きましょう。交換は自由です」
三泊四日ですし毎日同じ場所じゃなくても良いですもんね。初日を決めて、後は自由に交換してもらえばいいのです。
「それじゃ、まず希望の場所を聞こうか。あ、その前に陽向さん、敬語なしね」
「…うん」
敬語の方が楽だったりするのですが、まぁ楽しく皆さんと遊ぼうとしているのに敬語もなんですね。
「これだけ広いと余裕があるから、誰かの足を踏んで行くこともないでしょうし、私は一番遠くでも良いです…良いよ」
「ええと、陽向さんは一番奥…右で良い?」
「うん」
「ところで、足を踏む状況ってどんなのか教えてもらえる?」
「奈津子さん、決まったらいくらでもお話するから」
「約束ね。それじゃー」
意外と喧嘩になることもなく、場所が決まっていきました。まぁ交換可能ですからね。
和香は両手に花にしたかったらしく、端っこはいやがりましたけど。




