第六十五話 参加者のそれぞれ
奈津子さんはすでに一番奥の席の真ん中に座っていて、座るように言われたのはその隣でした。何だかお誕生日席みたいで恥ずかしいのは私だけでしょうか。
運転手さんを除いて奈津子さん以外は執事の久保さんと私しか乗っていないので、私が一番先に迎えに来てもらったことになりますね。
「後は三カ所ね」
和香が加わったので二十三名、結構な人数ですね。
ファン…とバスが音を鳴らして出発しました。
久保さんは一番前の席に座って運転手さんに指示を出しています。ずっと前にいるのかと思いきや、指示を出し終わると後ろに来て、飲み物を出してくれました。テーブルにコップを入れるへこみがありまして、多少の事ではこぼれないようになっているようです。
何だかあまりに多い種類を言われたので、最初に言われたのを忘れてしまい、最後に言われたオレンジジュースをお願いします。
奈津子さんはラッシーでした。二杯目はそれにしてもらいましょう。結構好きなんですラッシー。
「ラッシー、何番目?」
「五番目かな?」
七番目くらいで驚いてしまい、記憶が飛びましたね。
「駅前で十五人拾うわよ」
駅前は十五名の生徒プラス見送り三名。こんなところですよね。
その中に和香もいました。
荷物を積んでもらってから、バスに乗り込んできて私の隣に座りました。
「久しぶり」
「うん、久しぶり。和香、こちら湯江奈津子さん。奈津子さん、こちら友人の一宮和香です」
「初めまして」
「初めまして、お噂はかねがね」
和香が奈津子さんの手を取ろうとしたので、阻止しておきました。
「こんなところまで王子様しなくてよろしい」
「えー?」
「あら、私は構わないわよ?」
奈津子さんがニヤリと笑いましたけど、乗せられちゃダメですよ。
「ダメダメ、和香劇場が始まっちゃう」
「劇場って」
続々バスに乗り込んでくる中、早良君と速水君、それから小山内君が見えました。
あちこちで「おはよう」と声がかかっていますが、まだ待っている人がいるので、挨拶はバスの中に入ってからと奈津子さんから指示が出ます。
出席確認のように名前を呼んで、ここで乗る全員が居ることが確認されるとバスは出発しました。
さすがに十七人になると賑やかになりましたね。
知らない人もいて、何だかスゴい旅行になりそうだなって思っていました。
しかし、その後がスゴかったのです。
駅前から七分ほどたったところで、明らかに高級住宅街に来ていることに気づきました。
そしてそのうちの一つの門前にバスが停まったのです。
窓際にいた生徒たちから声があがったので、見てみると門前に使用人らしき人が六名。荷物がスーツケース三個…。
えーと三泊四日ですよね?
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
綺麗にそろったお辞儀に見送られて(?)バスに乗り込んで来たのは、一組で席替えするまで私の前の席だった御影さんでした。
「みなさん、ごきげんよう」
バスのドアが閉まって席に座るとニッコリ笑って、唖然としている私たちに小さく舌を出して「なんちゃって」と言いました。
ちょっと圧倒されましたね。
「お嬢様らしくーってうるさくって」
御影さんの家の執事さんがいたので、バスに乗ってしまうまで“お嬢様”でいなければならなかったとのことです。大変ですね。
次の場所は大きな公園前でした。
そこで三名乗りました。ここの見送りは一人でした。
そして一番最後の一人の家へ向かっているのです。
山の中腹にあるという話を聞いて、ほぼ全員が“あの家か”と呟いた、もはや家というより屋敷…もしくは小さなお城。門から家の玄関まで車で数分かかると言われる敷地の広さ。
門前で待っていたのは、刻宮さんと五名の男性でした。
楽器でも入っているんですか? と言いたくなる…あれも鞄なんですか!? 初めて見ました。今回の旅行は初めて見ることが多いですね。
奈津子さんがあの鞄の構造を教えてくれましたけど、スゴいですね。たぶん、親から子へ子から親へと渡されて来た鞄みたいです。でも、そんなに古く見えないのがスゴいですね。
「刻宮さんのお祖母様がイギリスの方だったはずだから、その方からいただいたものかもしれないわね」
スゴいですねとしか言いようがありません。
泉都門に入らなかったら知らなかった世界かもしれません。
でも、よく今回の旅行に行く許可が下りましたね?




