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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第六十四話 友達と旅行です



 奈津子さんの家の執事さんから連絡が来まして、大型バスを貸し切りにして行くことになったと話してくれました。

 電車で行くこと…この場合奈津子さんの社会科見学を兼ねようかと計画していたそうですが、他の生徒の親御さんから許可が下りなかったようです。

 奈津子さん電車に乗ったことないんですね。

 

 どうして奈津子さんではなく執事さんから連絡が来たかと言いますと、世界遺産を見に海外へ行っているからであります。携帯の電波が届かないところらしいです。

「奈津子様が将来どういう方とご結婚されるか分からないので、交通機関にきちんと乗れるようにして欲しいとのご両親からの言伝がございまして。今回は大勢だということもあり、断念いたしましたが。夏休み中に是非同行をお願いいたしたく…」

 まぁ執事さんと二人で電車…というのも何ですよね。友達と行けば楽しく覚えられるかもしれません…うん、まぁ。そう言うことにしましょう。

「それは構いませんけど」

「ありがとうございます。それでは当日の朝、お迎えにあがります」

 奈津子さんなら路線図とか教えなくても分かっていそうな気がするのですが。

 あ、因みに日程は三泊四日となっています。

 数分後にメールで一斉送信されたらしい案内が届いていたので、別に私に電話しなくても良かったのでは? とも思ったのですが、本題は電車の方だったのかもしれません。


 そして当日。

 大通りに出てバスを待っている訳なのですが、タクシーの運転手さんが通り過ぎる時に若干スピードを落として行くので何だか申し訳ないやら…。

 明らかに出かけるであろうキャリーバッグを持った人が道路脇で佇んでいるのはタクシーを拾うためと思われても仕方ないかもしれません。

「龍矢さん」

「どうした?」

「そんなに周りに睨みを聞かせなくても良いかと思うのだけど」

「さっきナンパされかかったのは誰だ?」

「あれはきっと偶々で…」

「偶々だろうが、一回あったことは二度三度あると疑え」

「何の教訓?」

「俺の経験からだ」

 だからって通る人通る人を睨まなくてもいいような気がしますよ?

 そのうち通報されたらどうするんですか。


「本当なら今回も付いて行きたいところだ」

 そうそう、華さんに怒られていましたよね。

 奈津子さんの家の執事さんが引率にこなかったら、龍矢さんが無理にでも付いて来ていたそうです。

 姪の旅行のために有休使わないでくださいね。

「何かあったら連絡するんだぞ」

「うん」

 その時、大きなバスが目の前に停まりました。

 プシューと音を立ててドアが開きます。

「おはようございます」

 ひらりと軽く地面に着地した男性が、どうやら奈津子さんの家の執事さんの様でした。

「こうしてお会いするのは初めてですね、湯江家執事の久保駆守くぼかるもと申します。よろしくお願いいたします」

 私と龍矢さんに綺麗にお辞儀して見せました。

「お荷物お持ちいたします」

 その時バスの前の方の窓が開いて奈津子さんが顔を出しました。

「おはようございます、急いでおりますので高いところから失礼いたしますわ。湯江奈津子です」

「陽向の伯父の榊龍矢です」

「お会いできて光栄です、陽向さんの事はお任せください。こう見えて久保は鍛えておりますので」

 そんな会話をしている間に久保さんがキャリーバッグをバスの下にある収納庫にしまってくれました。

「気をつけてな、陽向」

「うん、行ってきます」

「よろしくお願いします」

 龍矢さんは奈津子さんと久保さんにそう言って、バスを見送るために一歩下がりました。

 私が乗り込んでから久保さんは龍矢さんに再度頭を下げてバスに乗り込みます。

「こっちこっち陽向さん」

 バスでしたけれども、普通の座席じゃありませんでした。窓際に席があって真ん中にテーブルがあるものなんです。初めて見ました。

 皆さん曰く、テレビで時々タレントさんが乗っているようなバスだそうです。

 そもそもこのバスは湯江奈津子さんのお祖父さんの会社の子会社のバスだそうで、うん、ともかくありがとうございますお祖父さん。


 このバスのお陰で旅行費用が格段に安くなりました。奈津子さんにお願いしてお土産を渡してもらいましょう。



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