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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第六十一話 ただいまです



 北海道から一旦寮へ戻った後、荷物を持って自宅へと帰ることになりました。寮が閉まるギリギリの日にちです。

 泉都門の大門前まで龍矢さんが迎えに来てくれるとのことだったので、キャリーバッグを引いて守衛さんのいる所を挨拶をして通り抜け、夕方とはいえ暑いなと考えながら塀にもたれて待っていました。

 途中、芹会長と修斗先輩が乗った車が通って挨拶したり自転車で帰って行く山影君に手を振ったり。

 数分して車が目の前に停まったので運転席をのぞくと、龍矢さんでした。

「珍しいね車なんて」

 いつもは父が乗っている車でした。

「学が、陽向は疲れているだろうからって」

「うん…」

 荷物をトランクに入れて助手席に乗り込みました。

「北海道は楽しかったか?」

「うん、とっても。あ、そうだ。みんな私に隠してたでしょう」

「二人に聞いたか?」

「うん」

「驚く顔がみたいって言われてな」

「嬉しくって眠れなかったんだからね」

「そうか。家まで寝ていくか?」

「寝る前に着いちゃうでしょう」

 そんな話をしていたら、もう家の前に着きます。

 窓から外を眺めていたらしい華さんが玄関を飛び出してきて、私をぎゅっと抱きしめてくれました。

「お帰り! 陽向」

「ただいま、華さん」

 その間に龍矢さんは車を停めて来て、トランクを持ってきてくれました。

「いつまでそうしているつもりだ? 早く中へ入れ」

「んもう、空気が読めないんだから」

「入れ」

「はいはい」

 華さんは笑って私の手を握ると玄関へと歩き出しました。

「あ、龍矢さん、荷物」

「俺が持つからいい」

 中へ入って、うがい手洗いをした後いつものソファに腰掛けて、やっと帰ってきたんだなとしみじみ思いました。

 春休みから寮に入って、ここへ帰ったのは片手で足りる回数です。

 何も変わっていないようで少し変わっている事に少し寂しさを感じつつ、それでもここが私の家なんだと…ソファの背もたれに力を預けて息を吐き出した時に、手足の力も抜けてグデンとなりました。

「陽向、力抜き過ぎよ」

「えへへ」

 華さんがアイスティーを出してくれて、龍矢さんが運んでくれたキャリーバッグからお土産を取り出して、ご飯前なので一人一個ずつ食べる事にしました。

「それを食べたら着替えてらっしゃい。ご飯の前にお風呂入る?」

「うん、入ろうかな」

「今日、学は遅いからご飯三人で食べちゃいましょうね」

「うん」

 お土産のお菓子を食べた後にお風呂に入り、あやうく湯船で寝落ちしそうになりつつあがると、夕飯はとうに出来ていてテーブルに並べられていました。

 今夜はそうめんです。ちなみに龍矢さんは冷たいうどんがプラスされています。

 北海道であったことなどを話しながら夕食を終えて、片づけを手伝いました。

 手伝わなくてもいいと言われたのですが、今日は二人とも泊まってくれて、明日の朝ご飯も作ってくれるとのことだったので…朝寝坊をしてもいいよとのこと…せめて今夜の片づけは手伝わせてくださいとお願いして、食器は食洗機に入れるので、鍋を洗いました。

 いつもなら起きている時間なのに、今日は八時でもう眠く、二人と話がしたかったのにウツラウツラして危ないと言われたので自室に戻って寝ることになりました。


 でも早く寝ると途中で目を覚ましちゃうことってありませんか?


 ぱっちり目が覚めて時計を見ると午前一時過ぎで、少し喉が渇いたのでキッチンに行って水を飲むことにしました。

 冷蔵庫を開けて五百ミリリットルの水のペットボトルを取り出してリビングのソファに座って水を飲みました。

 ガチャと音がして。

 父が疲れた様子でリビングのドアを開けて入ってきました。

「…陽向。起きてたのかい?」

 華さんたちを起こしてしまわないように、小声で言いました。

「寝てたんだけど、目が覚めちゃって。お帰りなさいお父さん」

「ただいま」

 ペットボトルをテーブルに置いて、父に抱きつきました。抱きしめ返してくれて、頭を撫でてくれます。

「おかえり、陽向」

「…ただいま、お父さん」


 父は疲れているでしょうに黙ってそのまま抱きしめ続けてくれました。



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