第五十八話 磁石はぽえー?
休憩中に江本君と少しお話ができました。春休みに会えなかったので、半年ぶりくらいです。
さすが成長期、一月より背が伸びていました。
「お友達の皆さん、お元気ですか?」
「元気元気」
あの時、熱がでる直前だったために体がだるくて感じの悪い別れ方だったかもしれないと、春休みの時に謝ろうと思っていたのですが会えなかったので、芹会長に言伝をお願いしていました。
「あの…そのですね、あの時は…」
「あっ、それは良いんだ。一条会長から聞いているし、大変だったね。うちの会長も心配してたよ。謝りたいって」
雪にはしゃいだ自分が悪いのですし、楽しかったのは間違いないので会長さんが謝る必要はありません。
「はしゃいで遊びすぎて熱を出すなんて…本当に子供ですよね。会長の妹さんは大丈夫でしたか?」
「まー、こっちは毎年の事だから。とっても楽しかったらしくて、あのお姉ちゃんまた来ないかなって言ってたらしいよ」
「それは嬉しいですね」
コトンと軽い音がして、見てみるとテーブルに紙コップが置かれた音でした。純くんがジュースを注いでくれます。
「ありがとう、純君」
「あ、すみません、俺の仕事だった」
江本君が慌てて純君からペットボトルを渡してもらい、注いで回っていました。
「お知り合いなんですか?」
純君が私の隣の椅子に腰かけながら聞いて来たので、特に隠すことでもないしと思い素直に頷きました。
「うん、今年の一月に会ったの」
「ホント、イケメン限定磁石じゃないんですか?」
ぼそっと純君が何か言ったので聞き返しました。
「え? 何?」
「いえいえ、何でもないです」
首を傾げていると、芹会長がニヤリと笑って純君の肩に手を回しました。
「吸引力が違いますって?」
「それ某掃除機ですよ」
純君がツッコミを入れましたが、そもそもが何の話なのかわかりません。
掃除機がなんだというのでしょう。
「まぁ、本人こんなんだからさ」
「そうなんですよね。天然なんですよね」
「てっ、天然じゃないよ!」
慌てて言うと、二人にニヤニヤと笑われてしまいました。
天然じゃないですからね!
「計算してるなら、怖いなぁって思ってたんですけど。ぽえーってしてるし」
「誰がぽえーですか! しかも計算ってなんですか!」
「敬語になってるよ陽向ちゃん」
「だって! ぽえーって!」
「たまにしてるでしょ」
「してません!」
断じてぽえーなんてしてません!
「普段はそうじゃないけどさぁ。こと恋愛になるとぽえーってなってるよ」
「なってません!」
憤慨して立ち上がると、修斗先輩が私の肩に両手を置いてポンポンと叩いてくれます。
「落ち着いて陽向」
「だって、修斗先輩。二人が私を…ぽえーって…」
「大丈夫、陽向は頑張ってる」
「しゅ、修斗先輩」
感激でうるうるしそうになったところで、修斗先輩が珍しく微笑みながら私に爆弾を落としました。
「ぽえーでも大丈夫だ」
修斗先輩まで!!
「ぽえーじゃないですっ!」
そこへ江本君が戻って来たので、江本君の制服をつかんで詰め寄りました。
「私、ぽえーじゃないですよね!」
「はっ!?」
「違いますよねっ!?」
「え? あの、ぽえーって何?」
「違うって言ってください!」
「は…え? えーと、ち、違います」
「ほら、違うって!」
振り返って言うと、芹会長が優しい眼差しで二度頷きます。
「うんうん、そうだねぇ。ぽえーじゃないね」
全然そういっている様に見えませんよ!
「純君!」
「あ、そろそろ時間ですね」
腕時計を見ながらこちらの生徒会の人と話をしています。
ぜーったい、ぽえーじゃないんですからね!!!!




