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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第五十二話 夏休み初日の邂逅



 夏休みに入りました。寮もいつもより静かで不思議な感じがします。

 今日一日は特に何もないはずなので、泉都門大図書館で読書でもしようかと思っていました。思っていたんですが。

 今頃になって合宿に参加したいと言い出した生徒がいたらしく、宿泊施設の手配に結局生徒会室での仕事となりました。少人数だったので生徒会全員で手分けをしてあちこちに連絡を入れたため何とかできましたけど、管理人の方に何度もお礼を言って通話を切った時にはお昼になっていました。

 学食は閉まっているので寮の食堂まで戻らないと行けないのですが、図書館に行くので軽くすませようと皆さんと玄関で別れてカフェに立ち寄りました。

 一人で行動禁止中ではありましたが、実は若尾君はすでに家に帰ってしまったので泉都門構内にいないことを知っているのです。何かあったら連絡を入れることにはなっていますが、今日は自由に行動できます。

「あれ? 陽向ちゃん?」

「速水君、今日お仕事の日何ですね」

「うん、陽向ちゃんは今日はお休みじゃなかったっけ?」

「まぁ色々ありまして…」

「生徒会って突発的に仕事入るよね。お疲れ様」

「ありがとう、速水君も暑いから気をつけてね」

「サンキュ」

 仕事中なのでしょう。それだけ言って手を振ると行ってしまいました。暑い中校舎内だけでなく外も見回りをしているみたいなので、大変ですね。

 あ、どうせなら明日の納涼祭に来る風紀委員が誰なのか聞けば良かったですね。明日になれば分かることではありますけれど。

 軽く食事を終えたところで、カフェの店長さんがクレープの新作を出してくれました。

 フローズンのイチゴが入っていて冷たくて美味しかったです。夏に良いですね。


 カフェを出て少し暑い中を歩いた後、図書館に入ると別世界のようでした。涼しいというのもあるのですが入った途端に喧噪がなくシンとしています。

 二階の机がある場所へと向かうと、宿題をやっている生徒がちらほらと見受けられました。

 今日はもう仕事が無いことを願って本を数冊取り出すと、イスに座って読書に耽ることにしました。

 前から読みたかったシリーズ物の本です。一旦読み出すと続きを一気に読みたいので、なかなか手を出せなかった本でした。

 夕食まではかなり時間があるので、ゆっくり読めます。

 三冊一気に読み終えて時計を見ると三時間半立っていました。集中すると時間はあっという間です。それでも夕食までには、まだ時間がありますね。

 本を机に置いて顔を上げると、丁度階段を上ってくる生徒が目に入りました。

「あ…日向ひゅうが先輩」

「陽向」

 本を数冊持っていて、とても切なそうに笑いました。

「久しぶり」

「はい」

「元気だった?」

「はい。日向先輩は?」

「何とか…元気だよ」

 そう言いながら持っていた本を本棚にしまっています。

「校舎内の図書館はもう閉めたから、こっちの手伝いをしているんだ」

「あ、そうなんですか」

 日向先輩は図書委員長ですもんね。

「応援団の皆さんもお元気ですか」

「元気だよ。夏休み中もあちこちの応援に行くことになってる」

 バスの手配をしたので知っています。

 甲田先輩と日向先輩の二人を団長として二組に分かれて応援に行くことになるくらい、引く手あまたなんですよ。

「体調はどう?」

「だいぶ良いです。油断はしないようにと言われてはいますけど」

「そう。僕と話してても大丈夫?」

「……日向先輩にお話したいことはあるんですけど…今はまだ」

「わかった。いつでも連絡して」

 そう言って日向先輩は行ってしまいました。

 いつか、きちんとお話できるでしょうか。

 あの数ヶ月のことを。

 小さい頃から引きずってきた気持ちのことを。

 

 小さくため息をついてから、本を元の場所へと戻しました。カウンセリングの間隔もだいぶ開けて通うようになりましたけど、時々吹き出したように寂しさが襲って来ることがあります。

 いつか、そんなこともなくなるのでしょうか。

 

 夏のまだ明るい空を窓から、飛んでいる鳥をしばらく眺めていました。



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