第〇五十話 暑さのせいにしておきましょう
生徒会室前で風紀委員の方に声をかけられました。
若尾君に話しかけられていたのを見ていたようで、腕を掴まれるとか、そういうことをされたら助けてくれるつもりだったようです。
「大丈夫ですよ。変な宣言されましたが被害はありませんから」
「変な宣言?」
「はい」
去り際に言われたことを説明すると、何故か目がキラキラ輝いてますけど…。あの…。
「本当ね? 本当に言われたのね?」
「はぁ…」
「陽向ちゃんって本当に凄いわあ、尊敬しちゃう」
「はぁ…?」
昨年の納涼祭打ち上げの時以来、一部風紀委員の方に名前で呼ばれているのですが、私の話を聞いて目をキラキラさせる方がたまにいます。
「さっそく皆に伝えなくっちゃ、それじゃね」
手を振りながら去っていく風紀委員。
あの、私への説明は…。
「陽向先輩、生徒会室前で何やってるんですか?」
純君がドアを開けて、立ち尽くしている私を見て声をかけてきました。
「う、うん。何でもない」
「芹会長が心配してましたよ」
「うん」
些細なことも報告するように言われているので、さっきのことを報告しました。最後の言葉を伝え終わって自分の机へ戻ろうとしましたら、芹会長に呼び止められます。
「これから陽向ちゃんは一人の行動禁止ね」
「えええ?」
「別に若尾君との接触を禁止しようってわけじゃないけど、彼には婚約者がいるっていう話を聞いたことがあるし」
そうなると色々面倒だからねぇと会長は呟いてため息をつきました。
「若尾君、婚約者いるんですか。凄いですね」
「…若尾物産知らない?」
「あぁ名前を聞いたことがあります」
「そこの社長の孫だよ。小さい頃から婚約者がいたはずだよ」
それなら、何で私にあんなことを言ったのでしょう。
「あぁ、でもタイプだって言わせるって言っていたので、タイプだって言えばそれで終わるんじゃ…」
「そう言わせたいってことは、貴方が好きですって言わせたいってことでしょう?」
「そういうことなんですか?」
「そういうことだよ。つまりは“俺に惚れさせてやる”って言われたってこと」
「上から目線ですねぇ」
「相変わらず、違うとこに引っかかるよね陽向ちゃんは」
芹会長どころか修斗先輩にまで笑われてしまいました。
「ああまで言われて、何とも思わなかった? ドキッとしたとか逆にイラッとしたとか」
「特になにも」
何を言ってるんだろうって思ったくらいでしょうか。
「手強いねえ。まぁ明後日から夏休みだし、大丈夫だとは思うけど」
そうですね、夏休みに入ってしまえば会うこともないと思いますし。その間に忘れてくれれば良いのですが。
「陽向先輩」
「なあに? 康君」
「がんばってください」
「え? あ、ありがとう?」
よく分かりませんが康君に応援されてしまいました。
「康之介の方が色々頑張れよ、さっきまた変なメール届いてたぞ」
「あっ、ごめん」
純君に怒られていますけど、それでも最近はおかしな操作をしなくなったんですよ。
康君はまだブラインドタッチが苦手のようで、ローマ字で打っているつもりが何処を押したのかカナで打ってしまい、意味のわからない文章で届いたようです。
「純君康君、休憩にしようか。粗方仕事は終わったでしょう?」
「はい。あ、お手伝いします」
お茶を入れる用意をしていると純君が手伝ってくれました。もう少ししたら真琴と真由ちゃんも戻ってくると思うので、冷たい物を用意しましょうか。
氷が残り少なくなってきたので、真琴に電話をかけて帰りに買ってきてもらったりしつつ、さっきのことをすっかり忘れて理事長の差し入れであるミルクプリンを食べていたのでした。




